伯爵家の姉弟
「待たせたかしら」
テオルから聞いた初代魔王と黒い鎧の騎士(だと長いので以降黒騎士と呼ぶ)の話と自分の知る初代魔王の話を頭の中で照らし合わせているとアルルがやって来た。
「ああ、テオルから初代魔王の話を聞いていたって感じかしら? この子初代魔王が大好きなのよ。決して人前では言ってはダメだって言い聞かせていたはずなのに困るわ。ごめんなさいね、申し訳ないけれどこの子から聞いた話は秘密にしてもらいたいのよ」
だろうね。この世界では魔王は悪、勇者が正義だからね。まあ、どこの世界でもだいたいそうだとは思うけれど。
とにかく、貴族など権力のある家の者が魔王は悪ではないだなんて言ったら大変なことになる。たとえ子供であっても、だ。
「はい、誰にも話さないと約束します」
「ありがとう。それよりこれから何をしようかしら」
魔王と黒騎士の話も少し気になるが、これからの予定を決めることになりふと気が付いた。
貴族の女の子って何して遊ぶんだろう。アデル以外の貴族の女の子と遊んだことは無かったし、アデルはいつも俺についてきて真似たり見てるだけだったからその辺がわからない。
っていうか、俺も子供らしい遊びなんて知らないや。勉強以外の時間は騎士団の訓練に参加したり書庫で調べ物をしたりで遊んでこなかったから。
卓上ゲームもないしこの世界の子供って何して遊んでるんだろう?
「ねえ、アランはふだん何をしているの?」
「旅先の街を見て回ったり、ギルドの依頼をこなしてるくらいですかね」
「えっと、それ以外は何かしないのかしら。旅に出る前はお友達と遊んだりしていたでしょう?」
「そうですね、友人とは剣の稽古をしたり――」
おっとあまり話すと平民らしくなくなるな。
「言葉使いはかしこまらなくていいわよ、私のこともアルルでいいわ。それで、アランはふだんからあまり遊ぶことはなかったってことね。なら、私が教えてあげる」
ふふん、と少しばかり偉そうに胸を張るアルルの横でテオルが苦笑いをしているのだがどんな遊びなのか……。
1、2、3、1、2、3... 後ろに下がって、ターン、1、2、3...
はい、ダンスですね。このくらいのダンスならアデルの練習に付き合っていたから問題ない。
しばらく踊り、今は休憩して紅茶を飲みながら伯爵家の庭を眺めている。低めに切りそろえられたバラの木の向こう側に見えるのは果樹園だろう。
前世で好きだった梨はこの世界ではまだ見たことがない。ああ、あれが梨の木だったら……。酸味の少ない甘くて少し硬めのシャリシャリした梨が食べられたら幸せなんだけどなあ。
「ねえ、その仮面どうなってるのよ。私仮面をつけたままで紅茶を飲む人は初めて見たわ」
「うん、不思議だよね。仮面のおくちひらいていていないのにどうやって飲んでいるの?」
いや、いや、そんなわけないだろ。仮面を少し浮かせて横を向いて飲んでるだけだよ。まさかこの仮面幻影の効果があるとでも?
そしてテオルはアルルの前では子供っぽくなるんだね。いや、さっきまでの方が子供らしくなかったのか。
「……特殊な仮面なんだよ」
アルルもテオルも納得していなさそうな顔をしているがテオルはそうそうに諦めたようでティータイムの後の提案をしてきた。
「アラン兄様、このあと書庫にいこうよ。僕、絵本を読むのが好きなんだ。本がたくさんあるから一緒にきてみて」
書庫! それも騎士家系の辺境伯家の書庫とな。ぜひ私めに宿題のお供をさせてくださいませ。
俺の家系は騎士ではないから我が家の書庫には無かった敵国や魔物に攻め入られた時の攻防戦や対策の本もあるかもしれない。
やばい、嬉しさのあまり興奮が止まらない。鼻息が荒くなって仮面がフガフガしてる。落ち着こう。ふう。
「ありがとう、うれしいよ」
キリッ。
「アラン兄様も読みたい本があるといいね」
ニコッ。
何だ、この笑顔! 天使か! アデル以外にもこの地上に天使が舞い降りたのか!?
「そうね、私も宿題を終わらせておきたいからこの後は部屋に戻ることにするわ。ダンスとても踊りやすくて楽しかったわ。ありがとう、また夕食で会いましょう」
「どういたしまして、僕も楽しかったよ」
ティータイムの後、天使の案内でたどり着いた書庫は素晴らしかった。読んでみたかった本がたくさんあり、伯爵家の使用人が夕食の知らせに来るまで時間を忘れて没頭してしまった。
誘ってくれたテオルをほおっておいてしまったことは反省している。
伯爵に就寝の時間までの書庫の利用許可をもらえたので再び書庫に来て本を読んでいるとテオルがやって来た。
「テオル、昼間はせっかく連れて来てもらったのに読書に没頭してしまってごめん」
「ううん、僕も絵本を読んでいたし、アラン兄様も読みたい本があって良かったね!」
あぁぁぁ、この笑顔天使だよ。テオル可愛すぎる。妹や弟はみんなこんなに可愛いものなのか!?
「いまも本を読んでいたのにごめんなさい、でも僕アラン兄様とおはなしがしたくてきちゃった」
「もちろんいいよ」
テオルの可愛さにメロメロしていたのだけれど、話をすることに了承すると先程までの天使のように可愛かった笑顔は真剣なものに変わった。天使は去ってしまったようだ。
「アラン兄様は、箱をもつ貴族の家の役割をしってる?」
箱を持つ貴族の家やその役割、というのは聞いたことのない話だ。
「いや、知らない。箱と役割って?」
このくらいの小さな箱でね、と手で大きさを表すそれは俺の知っている箱と同じくらいだ。
テオルの言い方だと我が家以外にもあの箱を持つ家があってそれぞれ役割を持っているという事か。
「僕の家は箱を持つ家のひとつでね、僕は継承者なんだ。最近領内外で異変が起きていて、お父様は事態を重く見て特別に早く僕に役割を継がせることに決めたんだ」
本来なら成人してから継承するとかそういう事かな。
「その役割の継承は嫡子のみ?」
「ううん、継承するのは直系であれば男子でも女子でもいいらしいよ。僕は役割との相性が合って継承者に選ばれたんだ」
俺の家系がそれに当てはまる場合は俺に何かあればアデルが継承するってことか。あれ?漫画ではアルバートは行方不明だったし、アデルも父と一緒に……という事はカーティス公爵家は継承が途絶えたんじゃないか?
「それで、役割というのはそれぞれの家で違うんだ。そして継承した能力と箱の中身は対になっているから他者には扱えない。ただ、最悪継承者は途絶えたとしても来る日に次の継承者が選ばれるらしいから、一番大事なのは箱の中身でそれは何としても守り抜かないといけないんだ」
テオルの話に家宝の箱を持ち出したという自分のしでかした事の重大さに気が付き、頬を打たれたように愕然とする。
仮面のおかげで動揺した表情は隠せているが言葉が出てこない。テオルは俺の素性や箱を持ち出した事に気づいていてかまをかけているのだろうか。
「テオルの背負っているものは大きいんだね」
ようやく出せた言葉はそれだけだった。
「早く継承した分、早く慣れて使いこなせるようになれると思えばそうでもないよ」
「そっか」
テオルは継承したことで力とたくさんの知識を得て精神が大きく成長してしまったと言っていた。年齢より大人びた話し方も子供らしさも偽りない彼で、違和感の正体はそれだったわけだ。
テオルの話を聞いて俺も自身の事を考えた。俺の持つ箱が本当にそれなら、公爵家の役割を担う可能性は俺にもあることになる。未来を変えた後の覚悟も決めないといけないか。
こうして俺の為すべきことに必ず箱を公爵家に持ち帰る事が追加された。
前話のテオルの年齢設定を変更しました。




