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龍鱗と暗黒騎士  作者: シライ トモリ
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ヴァルツ辺境伯領

 この旅に出てから三ヶ月が経つ。


 始祖の森に備えてギルドで魔物討伐の依頼を受けながら時間をかけて進んで来たが、目的地の手前にある辺境伯の領地まではあとわずか。この先に有る渓谷を超えればヴァルツ辺境伯領だ。


 ヴァルツ辺境伯は領地が辺境の地に隣接しているため自身も剣術と魔法も長けていて、伯爵家の騎士も実力者揃いと聞いている。

 だが、前回立ち寄った街のギルドでヴァルツ辺境伯領で起きている異変について気になる噂を耳にしていた。


 少し前から伯爵領の周辺に魔物が増えているのだが、隣接しているドラゴンの生息域との境にある森(始祖の森)からもめったに出てくることのなかった小型ドラゴンや凶暴な魔物が頻繁に現れ始めため、伯爵は討伐に追われていてギルドにも依頼が出ているのだという。


 さらに、領内のイジムという村の周辺に不思議な霧が発生していて村民が体調を崩しているらしい。そしてその霧が異変の原因なのではないかといわれているのだ。イジムは辺境伯邸のあるカドムという街の先にある村だ。


 カドムは始祖の森に入る前にアイテムの補充と体調を整えるために何としても寄っておきたい街なんだけど、この先の道中はなんだか嫌な予感しかしない。


 辺境伯領までは荷馬車が出ていなかったので今は徒歩で移動中だ。シュレイアさんに作ってもらったアイテムもだいぶ使いこなせるようになった。


 剣からは自分の身を隠せるほどのミストを出せるようになったし、アンクレットは徒歩で二日かかる道のりも休まずに進めば一日かからずに進めるほどになった。


 ぎりぎりだけれどね。ひとりで野営するのは危険なので助かっている。


 しかしあれだよね、行先に不思議な霧だの強い魔物が増えてるだのって、不審に思って調査に出たら魔王城を発見しちゃったりする冒険物語みたいだ。


 もちろん俺は名も無いキャラだ。魔王城を発見したと報告するだけの兵士とかそんなとこ。


 あとは国が勇者様を探し出して……って不吉な想像はやめだやめ!


 魔物の気配もないしここからの移動速度はさらに上げていくとしようかな。街道沿いにある森に少しだけ入る。風の魔石を使ったアンクレットを作ってもらった時からやってみたかった木と木を飛び移りながら移動するあれを試してみると思いのほかうまくできた。


 風を切って移動するのは楽しいし気持ちがいい。

 夢中で移動していると前方に魔物と複数の人の気配を感知した。どうも魔物の魔力の方が強く感じられる。


 気配を消しながら近づいてみると数人の騎士が熊のような魔物と対峙していた。

 だが、半数以上が怪我を負って動けないでいる。残りの騎士も無傷とはいかず、なんとか戦っている状態のようだ。

 ああ、こいつがいたから他の魔物の気配がしなかったのか……。


 魔物の方も片腕を斬り付けられているため立ち上がってもう片方の腕で騎士の剣を薙ぎ払っている。だが、背後を取れれば攻撃が入るように思える。一か八かだがやってみるか。


 魔物に気づかれないようにしながら騎士から見える位置に移動しジェスチャーで合図を送ると一人の騎士が気付き小さく了解の合図を返してきた。


 先ほどの合図は第一騎士団の遠征について行ったときに習ったもので、この国の騎士なら皆知っている。緊急時に召集した他の騎士団の騎士とも連携が取れるように騎士は皆新人のうちに習うのだ。

 残りの騎士達にも合図が伝わり連携を組んで一気に攻撃を仕掛ける。


 魔物の意識は騎士たちに集中していて俺には気付いていない。その隙に俺は今使いこなせる最大の出力で木の幹を蹴り魔物の背に向かって突進し、体を捻って抉るように斬り付けそこにクリスタル爆弾を突き刺した。


 魔物は悲鳴を上げ暴れるが予想通り背中には腕が回らないためクリスタル爆弾を抜くことが出来ない。爆発する前にもう少し押し込めれば致命傷になりそうなんだが……。


 そんなことを考えている間に魔物は負傷して動けない騎士たちの方へ向かって行っているではないか。このままでは彼らを爆発に巻き込んでしまう。


 アンクレットに残った魔力の全てを使って魔物の背後に再度突進し、クリスタルを押し込みながら追加の魔力を注ぎ飛び退く。

 直後、クリスタルは激しく弾け魔物は大きく悲鳴を上げて動かなくなった。


 負傷した騎士達は他の騎士が張った防御魔法のおかげで巻き込まれてはいない。よかった。

 反省をする点は多々あるが魔物は倒せたし、負傷した騎士達も回復魔法や回復薬で傷を癒すことはできたのでひとまずは安心できるだろう。


 彼らはこの領地のヴァルツ伯爵に仕える騎士達だった。ぜひ助けてもらったお礼をさせて欲しいといわれ、彼らと共にカドムへ向かうことになった。


 まさかヴァルツ伯爵の騎士達とお近づきになるなんて予想もしてなかったよ。どうしてこうなってしまったのか……いや、あの場に居合わせて何もしないなんてできなかったんだけど。目立ちたくないのになぜか目立ってしまう。


 はぁ……。


 森を抜けると小さな村が見えてきた。ヴァルツ伯爵領は強い魔物の脅威にさらされているとは思えないくらい豊かだった。

 魔物に荒らされたようなところは無く実り豊かな畑が広がり、民も脅えることなくのんびりと過ごしているように見える。


 領地を覆う結界もあるとはいえ、領地の内外を伯爵と騎士達がしっかりと守って来たのだろう。


 すごいな。


 だが、変異種が増え続けているのも確かで最近の領地の周りの見回りにはより気が抜けなくなっていると騎士のひとりが言っていた。


 あの熊のような魔物も元々はそこまで脅威ではなく今回のように隊の半数が大怪我を負うことなどなかったのだと言う。つまりあの個体は変異種だったということだろう。


 のどかな景色を眺めていると街が見えてきた。あれがカドムか。馬車はそのまま街に入り騎士の詰所に向かうと聞いていたのだが……。

 薄いグレーの品のある大きなお邸がある敷地に入り、馬車はそのお邸の入り口の前に止まった。


 辺境伯の騎士の詰所ってこんなに大きくて立派なの!? 貴族とかのお邸みたいだよ。


 おや、誰か出てきたぞ。


「第一隊のみなさまおかえりなさいませ。早馬で話を聞いてお部屋の準備は出来ております」


 お部屋の準備?


「マルコフ殿、第一隊ただいま戻りました。そしてこちらが客人のアラン殿です」


「アラン様、私は当ヴァルツ伯爵家の執事をしておりますマルコフと申します。お待ちしておりました。こちらへ、お部屋にご案内いたします」


 執事って、この領の騎士の詰所には執事がいるということなのだろうか。いやいや、その前になんと言ったかな、ヴァルツハクシャクケとかなんとか聞こえたような。


「マルコフさんはじめまして、アランです」


 うん、やはりここって騎士の詰所じゃないよね!

 邸のエントランスや案内された部屋もとてもきれいだし調度品もとても高価そうだし。さすがは辺境伯邸。


「旦那様が今は不在ですので私が代わってお礼を申させてもらいます。あらためまして、アラン様このたびは御助力いただきありがとうございました。旦那様が戻りますまでこの部屋でくつろいでお待ちください」


 その後ヴァルツ伯爵が邸に戻るまで騎士のリオルさんに、辺境伯領の事や街のことを聞いて過ごした。


 辺境伯領の名物はカヤ豚の香草焼きらしい。楽しみだ。





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