欲しい物
魔狼を倒した後は直ぐにナイアドの森を出て小休憩を挟みながら移動してきた。そして王都から少し離れたところにあるライスという街に着いたのは日が暮れはじめた頃だった。
子供がひとりで旅をしていると目立つので公爵家から捜索願いが出されていた時の身ばれ防止のために髪の色は森に生えている染物用の草を使ってダークブラウンに染めている。
魔法のある世界でこの程度で隠れられるとは思えないけれど時間稼ぎになればいい。
魔狼にやられた傷は傷薬で治してあるが服は破けてしまっていたのでライルが着ていたような街の子供が着るものを買って着替えた。
あとは今晩の宿探しだ。服を買った店の店主が言うには子供でも宿泊できる宿はあるらしい。貴族の泊まるようなお高い宿だと紹介が必要だったりするけれど、庶民にも良心的なお値段の宿ならば大丈夫との事だ。
けれど、子供が一人でいるのは危ないので夜は部屋から出ないほうが良いと言われた。あとは宿を出る時も気を付けた方が良いらしい。
比較的平和な国とはいえ悪いやからはいるもので、一人で街や村の外にいる子供が攫われて他国に売られてしまうことがあるのも事実。ソピア―の国民は皆魔力を持っているから魔力持ちの少ない他国では高く売れるのだ。
前世の記憶があるのである程度の事はひとりでも出来ると思ってしまいがちだが、体は子供なのでそこは気を付けようと思う。
屋台で買った串焼きで空腹も満たしたし、疲れた体を休めたいので教えてもらった宿屋を訪ねてみた。
「こんばんはー、今晩宿泊したいのですが部屋に空きはありますか?」
「ん? 坊や一人かい?」
「はい、一人です。アリシアの方から来ました」
アリシアとは王都からこの街まで来る途中にある街の名前だ。なので嘘は言っていない。
「そうかい、疲れただろう。2階の奥の部屋が空いているよ。夕食と朝食はそこの食堂で食べれるからね。はい、これが鍵だよ」
よし、これでゆっくり休める。ちらりと食堂を見るととても混んでいた。夕飯はいらないので明日の朝食を期待しながら部屋へ向かった。
木造の温かみのある造りの部屋の中には風呂桶とベッドがあった。おお~、これが風呂桶か、うん。アニメやゲームとかで見たあの風呂桶をお目にかかれるとは!お湯は魔道具で出すタイプなのね。
肩まで浸かれないのは残念だけれどちょっと楽しいな。
お湯に浸かったらどっと疲れを感じて眠くなったので今日はもう寝ることにした。おやすみなさい……。
寝心地が良いとは言えない硬いベッドでも疲れた体を眠りに誘ってくれ、朝までぐっすり眠れた。
朝になり目を覚ますと知らない天上が見え、ここが宿の部屋だと思い出した。顔を洗い楽しみにしていた食堂に行き席に着くと朝食が運ばれてきた。硬めのパンとウインナー、野菜と豆の入ったスープ、ミルク。ほほう、これが一般的な宿の朝食なのか。
さりげなく周りの人達の食べ方を見て真似て食べた。予想通り硬めのパンはスープに浸して食べるものらしく真似てみると美味しかった。
そのまま食べるとぼそぼそとして口の中の水分を持って行かれるし硬いので顎が疲れてしまうのでスープは必須だ。
前世は一般人だった俺には貴族の暮らしより庶民の暮らしの方が馴染みを感じるかと思ったが、こちらはこちらでまた別物で全てが新鮮だった。
そういえば街の中では冒険者らしき人達も見たな。冒険者か、アルバートはアランになってからギルドに登録して冒険者になっていたんだっけ。ギルドもいつか行ってみたいな。
朝食を終えて部屋へ戻り今日の予定を考える。使いの魔物からもらった魔道具はモノクルだった。装着すると目的地から空に向かって光の柱が現れる。モノクルを装着していないと見えないので定期的に確認しながら進む感じだ。装着しっぱなしだと目立っちゃうからね。
おかげで方角と大体の距離がわかったわけだが、地図を見て位置を確認すると俺の脚では最短ルートでもひと月はくらいかかりそうだ。
今日進む目的地を決めて、旅に必要な物の購入をしていたら昼ちかくになってしまった。
長旅だから節約したいんだけれど安全のためには馬車にも乗りたいんだよね。機会があったら商隊にご一緒させてもらっての旅とかもいいかも。うん。
あ、楽しようしているわけではないよ? 出没する魔物の種類を見て遭遇したら戦いながら進む予定だし、実践での経験は大切だ。
なんせ目的の村は凶暴な魔物が出没する森の中にあるのだから。
今日はそんなに遠くない街を目指しているから徒歩だ。けれど誰か知り合いに会うかもしれないから街道は外れて行く。
このあたりの王国騎士団のみなさんとは合同訓練や遠征でお世話になったことがあるから、見回り中の騎士にばったり会っちゃったら間違いなく保護される。
でも魔物の数と強さを見て、状況によっては街道で進むことも考えるとあまり離れることは出来ない。群れが多かったり強い魔物がいたら危ないからね。いのち大事にだよ。
そんなこんなで目立たないようにかつ早足で進み、目的の街には予定通り日が暮れた頃に着いた。魔物とは数回遭遇したけれど恐れるほどものでは無かったので鍛錬もかねて倒してきた。
この街マールはライスより大きく、店の数も人も多い。海からも近く、物流の中継地点にもなっているので卸売りの商人や買い付けの商人も多いので馬車の出入りもある。
この街からは一般庶民用の馬車もあるので次の目的地まで馬車で移動しよう。
今日のお宿はどこにしようかな~。
「ごめんねぇ、今日は満室なんだよ」
これで5軒目。宿屋の受付のお兄さんに聞いた話だと明日、鉱山があるアルケミア国から商隊が来るそうだ。なるほど、納得した。国内外から取引したい商人が集まっているのだろう。日が悪かったようだ。
アルケミアは山や森に囲まれた国で、鉱山があり資源が豊富だ。鉱山から良質な魔石が採れるが魔石の加工ができる職人が少ないので、採石された魔石の7~8割は加工が出来る職人の多いここソピアー国に持ち込まれ加工される。
ちなみに、アルケミアの職人の加工した魔石とソピアーの職人の加工した魔石には不思議な事に付与できる効果が違う。
魔石は加工後魔道具に使われるため、アルケミアの良質な魔石を求めて商人や職人が集まって来ているのだろう。
一緒に取引されるアルケミアの職人の加工した魔石は希少で入手できる機会が少ないので、アルケミアの商隊が来るときは普段よりも集まる商人や職人が多いらしい。
俺はまだ魔法が使えないから魔石の魔法効果付与は魅力的だ。ちょうどいい機会だからお手ごろな値段の魔石があったら買っておこう。
宿は8軒目でようやく部屋を確保できた。食堂で夕食をとった時に相席した人が魔石を求めて来た職人だったので、加工済みの魔石の買える店の場所と購入方法を聞くことが出来た。
そして加工済みの魔石は魔法効果の種類ごとに色が違うということを教えてもらった。
彼はしばらくこの街に滞在する予定で、剣に魔石をはめ込むくらいならしてくれるというので良い石が手に入ったらお願いすることにした。これは明日が楽しみだ。




