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龍鱗と暗黒騎士  作者: シライ トモリ
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魔石の解析結果

 前回王宮魔法師団を訪ねてから2週間たった頃連絡が来て、父と俺は解析結果を聞きに再び王宮魔法師団本部にやって来た。


 部屋に入るとグラード団長に熱烈に歓迎されて固まる俺を父は諦めた目で見ている。


 俺何かした?


「アルバート君その後体調はどうですか? 見た感じでは問題なさそうだけれど何かあったら直ぐに来て下さいね」


「体調はとてもいいです。体が軽くて剣術の鍛錬は動きが良くなったと言われましたし、精神の鍛錬は集中力が上がりました。グラード団長のおかげです。本当にありがとうございます」


 グラード団長は俺の魔力の色と質問の返事に満足そうにうなずいていた。

 前回魔法師団に訪ねた後から本当に体調がいい。だからそのことと魔道具のお礼を一番に言おうと決めて来たのだ。伝わったようで良かった。


 グラード団長と出会えたことは俺にとっては凄く運の良い事だった。

 体調管理が出来るようになったことも大きいけれど、今後魔法剣士を目指す俺にとってこれ以上にないほどの師を得たのだから。


 魔法に関することなら何でも教えていただけるそうで、グラード団長のスケジュールの隙間に授業をねじ込んでもらえるそうだ。実践は年齢的に出来ないので知識を学ぶというものだがそれでもとてもありがたい。


 グラード団長の補佐の魔法師団員のカインさんに入れてもらった紅茶とお菓子をいただきながら話をしているとヴァーチェス副団長が入ってきた。


「お待たせしてすみません」


 ヴァーチェス副団長は目の下に隈ができているが目はとても輝いていて、その手には高級そうな小さなクッションの上に鎮座した魔石が大切そうに抱えられていた。


 そういえばヴァーチェス副団長は魔石マニアとか言われていたと思い出す。


 結果から言うと魔石の解析は王宮魔法師団でも出来なかった。しかし俺と何らかの繋がりを感じられる物である事は解ったらしい。


 実際に目で見て確かめた方が早いとのことでみんなで見ることになった。


 ヴァーチェス副団長が魔石から痕跡を辿るための魔法を使い水晶をモニターに映像を映し出す。


 始めに紅く燃える大地と炎の向こう側に長剣を持った剣士らしきシルエットが映し出された。次は赤い鱗に覆われた生き物の体の一部。その次に映ったのは庭のようなところで剣を振る小さな男の子。最後は花畑に座りこちらを見ている男の子。

 映し出された映像はここまでだった。


 前半の映像には心当たりがないが後半二つは確実に俺だな。他者の視線で自分の姿を見てその自分に見返されているって変な感じだ。


 って、そんなことよりなんだよあの顔! 全然ポーカーフェイスじゃないじゃん。目は無になっているけど鼻の穴がひくついてるし、口元はひきつっているしでかなりの間抜け面だったよ。


 ここに居るみんなにあの顔を見られたダメージは大きい。ちょっとひとりにして欲しいが出来ないので今は周りを見ないようにしよう。ちきしょう魔石め、恨むぞ。


「「「……」」」


 流れる沈黙。


 だれも声を出さない。いやいやいや、何かあるでしょう? 俺は心に大きなダメージを受けたので今は何も話したくない。


 沈黙を破ったのはグラード団長だった。


「これは思っていたより深刻な事態のようだ」


「団長もそう思いましたか。実は私もこの映像を見てぞっとしました。ですが、それと同時にこのとんでもない魔石に触れられたことに心底感動しています。この魔石の表面には術式が何層にも重ねて書き込まれていて容易に解析できないようになっていました。見たことのない術式があって今は完全には解析ができていませんので研究は今後も続けていきます。中に入っている物については術式の妨害があって残念ながら形すらも見ることはできませんでした。申し訳ありません」


 ヴァーチェス副団長の目が怖い。

 目の下の隈は解析に追われてできたんじゃなくてのめり込みすぎてできたのでは、と思う。


 魔石は一旦引き取るのでちょっと眠ったほうがいいですよ。興奮を沈めるアロマオイルとかないのかな、もしくは魔法か物理的な何かで眠らせた方がいいかも。


 しかしあの模様は術式だったのか。しかし、王宮魔法師団でも見たことのない術式というならば誰が書き込んだんだろう。


「団長はあの映像を見て何かわかりましたか?」


「あの赤い鱗……ファイアードレイクじゃないかな。鱗の色と魔力の特徴が似ている」


 ファイアードレイク!? 伝説のドラゴンだよね。魔力の特徴って、実物を見たことがあるってことならとんでもない人物だ。

 グラード団長って本当に俺みたいな子供が会うことが許される人なのだろうか。


「実はもう一つ、重要な情報がみつかったんですよ。アルバート君も確認してくださいね」


 今度は何、俺の知ってること?


 ヴァーチェス副団長は映像を再び映し一部を拡大して俺の方を向き目を強くみつめてきた。怖いよ。だが、


「間違いありません」


 花畑に座る俺の顔を拡大すると目の中にあの魔物の姿が映っていた。目を逸らさずに魔物を見つめていたおかげでそこそこ鮮明に映っている。ちなみに俺の鼻と口は映っていないのでここでのダメージは抑えられた。


 再び訪れる沈黙。


 そして沈黙を破ったのはまたしてもグラード団長だった。


「アルバート君、無事で良かった……」


 そう言って俺を抱きしめる。えっと、先ほど俯いていたのは恐怖からではなくて羞恥からだし、今はいろんな意味で少しほっとしていたところなんです。


「アルバート、よく無事に帰ってきてくれた」


 さらに父に抱きしめられた。まあ、あの魔物の姿を見たらそう思うよね。


 でもこれで俺が見た魔物が実在したことが証明できたわけで良かった。残念ながらこのメンバーでも魔物の正体がわかる人はいなかったが、この情報は王宮騎士団やギルドなどにも情報共有されることになっているので何かわかればいいのだが。


「しかし、なぜ私の息子がこの魔石に映っているのでしょうか。剣を振っている映像はみたところ剣術を習い始めた頃のものだと思われますのでおおよそ2年前のものでしょう。この魔石を用意した何者かは息子をどこかから何年かの間監視していたというのでしょうか?」


 なんだと、そんなストーカーまがいなやつがいるのはさすがに怖いんだけど。


「申し訳ありませんがそこまではわかりません。ですが映像があるということは期間はわかりませんが、どこかから見られていたことは間違いないでしょう」


 あんな複雑な術式を使いこなすようなストーカーに狙われたら逃げられなくない?

 んー、でも何か引っかかる。あの模様みたいな術式ーー。


「模様? あっ、ヴァーチェス副団長さん、もう一度魔石の表面を拡大して見せて下さい」


「ダグラスでいいですよ」


 許可をもらったのでダグラスさんと呼ばせてもらおう。ダグラスさんは魔石に興味を持った俺にとてもいい笑顔で応えてくれた。

 やはり。この術式に使われている模様みたいな文字を見たことがある。あの箱にもこんな模様があったはずだ。これは少し興味深い。


 縦横斜めと規則性のないように見える書き込みだが交差して重なっている部分の一文字だけ傾いて書かれていて色の付いた枠に囲まれている。どの向きの術式でも共通の文字なのだろう。


 よく見ると重なってる術式の数も違っているようだ。そして重なっている数ごとに囲んでいる枠の色が違うみたいだ。重ねて書くことに意味があるのか。なんだかクロスワードみたいだ。


 まさかね。


「何か気づいたんだね?」


 ングッ。今のもしや声に出てたのか。ダグラスさんの目が怖い。


 いやでもさ、クロスワードパズルこの世界にないんだよね。こちらの父も母も知らなかったもの。

 とりあえず重なっている文字の部分だけ書き出してみるとしようか。


「えっと、その、重なっている部分の文字が気になるので書き出してみてもいいですか? この術式を最初に見た時は模様なんだと思っていましたが、先程ヴァ……ダグラスさんが術式だと言われたので文字として見てみたら、重なっている部分の1文字だけ傾いて書かれていて、色の付いた枠に囲まれているので何か意味があるのかなと思ったんです」


 クロスワードの事は伏せてそういう隠し文字があると本で読んだと説明した。グラード団長は目を見開いて驚いているし、ダグラスさんは俺が話し終えるとすごい勢いで魔石の映像に向き直しメモを取り始める。


 俺がやろうと思ったがやってくれるならお任せしよう。結構いっぱいあって正確に書き出すのは難しそうだし。


 これ、時間かかるなーー。


「みなさんお疲れのようなのでこのあたりで一旦お茶をどうぞ」


 とてもいいタイミングでカインさんが紅茶を入れなおしてくれた。香りも味もほっとする紅茶だった。





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