第7話 探索者ギルド
「マスター。外部の生命反応、三つ。接近、からの、離脱を確認しました」
ぽんこの声が、コア部屋に響いた。
俺はコアの下で、床に座り込んだまま顔を上げる。
盗賊たちの侵入から一カ月たった今日。
何者かが、入口を見つけ、帰っていった。
「入ってこなかったな」
「はい。装備と動きから、武装兵士クラスと推定」
「探索者か?」
「かもしれません。入口の前でしばらく立ち止まり、何かを確認してから離脱しました」
「……何かって何だ」
「不明です。旧式なので」
「便利な言い訳を覚えたな、お前」
とはいえ、外に人間が来たのは間違いない。
「監視隊……か」
ぽんこから外の世界について聞かされていた内容を、頭の中で思い返す。
まず来るのは、迷宮監視隊。
こいつらは探索者ギルドが組織した迷宮の見張り番だ。
ダンジョンが発生すると、真理院とかいう学術機関が魔力の異常を割り出して、探索者ギルドに報告するらしい。
監視隊は、その報告を元に迷宮の位置を割り出す。それだけ。
「討伐も攻略もしない。見つけるだけの組織。縦割り行政の極みみたいな組織だな」
「予算争いの結果ですかね」
「つまり、さっき来た連中は見つけに来ただけ。
中に入らないのも、倒しに来ないのもそのためか」
「そう考えるのが妥当でしょうね。マスター、よくできました」
「わかってて試したのか」
「では、続けて問題です!次に来るのは誰でしょう?」
俺の反応がこいつのプライドをくすぐったらしい。
先生モードに入りやがった。
まあいい、おさらいだ。
「次に来るのは、調査依頼を受けた探索者。本登録前に、探索者がダンジョンに来て内実を調査する。それを踏まえて、ギルドがランクを決める。そうしたら一般公開だ、探索者やら村人がやってくる」
要するに探索者ギルドってのは、ダンジョンを仕事場に変える連中だ。
監視隊に見つけさせ、ダンジョンの規模や危険度をランク付けして、探索者を送り出す。
新人の小遣い稼ぎ用なのか、中堅の鍛錬場なのか、上級者向けの稼ぎ場なのか、それを決めるのがギルドの役目。
平たく言えば、ダンジョンを経済活動に組み込んでいる。
危険だろうが死人が出ようが、彼らにとっては産業の一つだ。
そして、ダンジョンマスターにとって最初に相手をするのが、このギルドの探索者たちになる。
「ともかく、これでマスターのダンジョンは公的に認識された状態になりました。調査が済み、ランク登録が行われると、新規ダンジョンとして情報共有されます」
「それっていつ頃だ?」
「早ければ数日以内。遅くとも、一週間もあれば新人探索者さんが来始めると思われます」
「数日か。それ、殺しちゃまずいんだよな?」
「はい!一次調査で死者が出ると危険度が跳ね上がります、はじめは自重しておいた方が無難です」
数日後。
「マスター。外部生命反応、三つ。今回は、入口からそのまま中に入ってきます」
ぽんこの声が、いつもより少しだけ弾んでいた。
「三つ?」
「はい。村人とも盗賊とも違います。装備重量、金属反応、動きのリズムから――探索者さんと推定!」
「ついに来たか、お客さん」
俺は二階層のコア部屋から、支配域マップを呼び出す。
そう、二階層。このダンジョンもとうとうメゾネットだ。
階層は地下へ地下へと深くなっていくスタイル、階層の区切りは階段が必要だ。
一階は少しずつ拡張してきた。通路は入口から奥まで、合計2500m近く。
今のダンジョンはタワーディフェンスゲームよろしく、空間にびっしりと狭い通路を敷きつめた迷路になっている。
「ぽんこ、今んとこ俺たちの戦力、ざっくり整理してくれ」
「はい!現在の戦力は――」
ぽんこが指を折る。
「・スライムさん×20体
・ゴブリンさん×10体
・罠×数基
・地形トラップ×多数!」
得たDPを一度に通路延長とゴブリン追加に突っ込んだせいで、口座残高はかなり波打った。
今のDP残高は。
【残DP:294】
「盗賊さん三人+ネズミさん多数+マスター一人で、だいたいここまで増えました!」
「俺を含めるな」
「マスターも草葉の陰で見ていてくれています!」
「最前列で見てるわ」
そんな会話をしている間にも、侵入者三人の生命反応は、入口を越えて中へと入ってきた。
支配域マップの一階通路入口付近。そこに、ゆっくり移動する三つの光点が現れる。
俺は、最前線のスライムに簡単な指示を送る。
「最初の角で、一匹だけ見つかれ。少し逃げるけど、すぐ捕まるくらいの感じで」
「すぐ捕まるくらいの感じはスライムには難しい指示です」
「そこはお前の裁量でうまくやれ」
「了解しました。ぽんこがほどほど変換します!」
……このAIに任せて大丈夫か、という不安は一旦飲み込む。
UIをカメラ表示に変更し、探索者の動きを追うことにした。
「ここが……ダンジョン、か」
UIの中で、先頭の青年が言う。
若い。17、8といったところだろうか。
腰に剣を下げている。
「リオン、エルノ。村の近くだからって気を抜くなよ」
最後尾の男が注意を促す。
20代半ばくらいだろうか。髭面で、革鎧の上に、使い込まれた鎖帷子を着ている。
「分かってます、カークさん」
真ん中にいる少しだけ背の低い男が答える。
先頭の青年と同じか、それより若く見える。
「アウル村から歩いて半日もかからない場所だ。何かあったら、お前らの村が最初に被害を受ける」
「だから俺たちが調べるんです」
「その意気込みで死ぬ新人を、俺は何人も見てきた」
最後尾の男、カークと呼ばれた奴が仕切っている。
口振りからすると、他のダンジョンも知っているようだ。
リオンと呼ばれた先頭の男が、剣の柄に手をかけながら、慎重に歩き出した。
三人とも松明は手にしていない。光苔があるなら、それで足りるらしい。
「なんか、思ったよりそれっぽいね」
「何と比べてるんだ、エルノ」
「監視隊の報告では暫定Eランクでしょ。街で聞いた話だと、Eランクの穴なんて湿った穴とスライムが数匹程度のもんだってさ」
「……この街の連中はダンジョンを知らない。普通はある程度育ったらダンジョンのある街に出てっちまうからな。鵜呑みにすると死ぬぞ」
カークの声には、僅かな緊張が混じっていた。
なるほど、いいことを聞いた。
この辺の探索者はダンジョン初心者らしい。
「カークさん」
リオンが、後ろを振り向かずに言う。
「何か、動いた」
通路の先。岩の陰で、床の上に透明な塊がふるんと揺れた。
「スライムだな」
カークが即座に判断する。
「おお、本当に出た。湿った穴とスライム。そのまんまだ」
「喜んでないで構えろ。リオン、お前前に出ろ。エルノは後ろから魔法の準備」
「了解」
リオンは剣を抜き、慎重に間合いを詰めた。
スライムは、ぷるぷると震えながらその場を離れようともせず、じっと敵を見ているように見えた。
「逃げねえな。やるぞ」
「はい」
踏み込み。剣先が、透き通ったゼリーのような身体を打ちつける。
切り口から粘液がこぼれ落ち、スライムはその場で崩れ落ちた。
「弱っ」
「Eのスライムはそんなもんだ。油断して足を取られたら痛い目も見るがな」
カークはスライムの残骸にしゃがみ込む。中心近くに、小さな半透明の結晶が残っていた。
「魔石だ。これだけでも街に持ってけば、酒の一杯くらいは飲める」
「よしっ」
「これで!?ボロい商売だね、探索者」
若い二人が顔をほころばせる。
それをカークがたしなめているのがUIに映っていた。




