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第36話 お手玉

五階層を、一通り歩き終えた。


ちなみに今回、チュウタ達によるダンジョン内部の偵察は上手くいかなかった。

獣型のモンスターが多いこのダンジョンでは、チュウタは瞬く間に狩られて数を減らしたためだ。


通路はすべて繋がり、部屋も全て確認した。


敵は出たが、強さは想定の範囲内だ。

アニとラセツが前に立てば、押し返されることはない。


それでも――何もない。

下へ続く階段も、コア部屋もない。

隠し通路の類かと考え、探したがそれもない。


「……さて、どういうことだ?」


そこにアニが難しい顔をしてやってくる。


『マスター、どうする?俺としてはもう一度上の階を探すしかないと思うが……』


うーん、こういう苦戦の仕方もあるんだな。

マッピングでもしながら進めばよかったか……ん?そういえば。


俺は地図を開いた。

そう、それは、いつもの地図だ。

森の起伏、川の流れ、丘の影。

ダンジョンの内部構造や階層などは、当然表示されない。

だが――


「……これ」


現在侵入しているダンジョン、そこにダンジョンコアを示す小さな点が表示される。


二つ。


拡大してから十メートルほど歩く。

すると、点もわずかに動いた。


「俺の位置か……」


コアを携行していることで、俺のコアもこの場所に表示されている。

今さらだが、なるほど確かにそうなるはずだ。


そのまま、別の点を見る。

敵ダンジョンのコア位置。


「……近いな」


距離だけを見れば、すぐ隣だ。

地図上では、完全に横にある、なんなら壁一枚隔てた先にあるんじゃないかと思うくらいだ。


「……でも」


視線を戻す。

そこに行く道はない。


地図上ではすぐそこにある。

だが、現実にはどの階でも辿り着けない。


「アニ」


声が低くなる。


「一階まで戻る。この空間を確認するぞ。」




五階層から登り始めて、すぐに異変が起きた。


四階層に戻った瞬間、通路の奥から足音が響く。

大広間の草原には大量の角ウサギ。

先ほど片付けたはずのモンスターが、再び現れた。


「やり直しか。」


戦闘自体は勝てる。

だが、消耗が激しい。


ラセツが前に出て殲滅するが、その間に数体がこちらへ回り込んできた。


「イモ!」

『だいじょ――』


言い終わる前に、衝撃音。

ゴブリンが一体、吹き飛ばされる。


『えいや!』


すぐにイモが敵を倒す。

致命傷ではないが、怪我人は積み重なる。


そして、それなりの犠牲を出しながら、たどり着いたのは四階層のコア付近の空間。


「ここも同じか」

『確かに、この空間だけ入れねぇな』


空間の周りをぐるっと回ってみるが、入り口はない、だが露骨に中に部屋でもありそうな大きさで壁に囲まれている。



三階層、二階層でも同じだった。

一度通ったはずの場所に、必ず敵がいる。


『……持久戦だな』


アニの言葉に、俺は無言で頷いた。


一階層に戻った時点で、半数が動けなくなっていた。

俺の近くまでモンスターが迫ることも増えてきた。

もっとも、俺のそばにはオトとイモをはじめとする精鋭達が控えているから、近付かれても危ないことはない。


先ほどまでの観光気分は、完全に消え去っていた。




各階層、同じ位置を確認する。

五階。

四階。

三階。

二階。

一階。

どの階でも同じだ。


「ここから先に進めない」


地図上でコアが示されているその空間に入る道だけが、存在しない。


「……共通してる」


俺は地図を見つめたまま、言った。


「どの階でも、同じ位置に入れない空間がある」


地図上では、そこにコアがある。

だが、現実のダンジョンでは、必ず一歩手前で止まる。


「偶然じゃない」


構造そのものが、こちらを弾いている。

俺は、ようやく確信した。


「……動かしてるな」


入口を。

頭の中で、ひとつの仕組みが形になる。


あの空間には、入り口がある。

だが俺たちが一定の位置に近づくと、別の階層に入口を移す。


こちらが階を移動すれば、また別の階に入口を移す。


結果、俺たちは同じ場所を回り続ける。


「いわゆる……お手玉だ」


ゲームのタワーディフェンスで使われる手法。


敵の進行ルートを誘導し、入り口に近付かれたら別の入り口を作り、元の入り口を閉じる。

敵が新しい入り口に近づいたら、また元の入り口に戻す。

それを繰り返すと、敵はいつまでも同じ場所をうろうろするだけで、先に進めない。


『なるほど、面白い……マスター、よく気付きますね』

『まさに今の状況じゃねぇか』

「簡単な話だ、俺も試したことがある」


そう、お手玉はタワーディフェンスにおける最強手の一つ。

これが出来てしまうと難易度が桁違いに低くなるほどのバランスブレイカーだ。


これが使えたら相当楽になる、当然試したとも。

だが、結果は「不可能」だった。


ダンジョンの構造変更には制限がある。

基本的に、ダンジョン内に敵がいる状態では、構造は変えられない。


だから問題はどうやって、だ。


「チュウタ!ぽんこに尋ねろ」

『はいはい、なに?』

「ダンジョンの入口や構造を、戦闘中に切り替えるスキルはあるか」


少し間があった。


『あるって!』


返事は、あっさりしていた。


『同じ階層に敵がいなければ、MPを使って構造変更できるようになるスキルだって。ただ今のMPじゃ回数はあまり使えないんじゃないかって』

「……なるほど」


この状況は長くは続かない。


アニが言う。


『じゃあ、やることは決まってる。我慢比べだな』


アニの顔は嬉しそうに歪んでいる。

アニのこんな凶悪な笑顔、はじめて見た。

これも遠征に来なければ見れなかった光景だな。


ラセツは、静かに口角を上げた。


「MPが切れた瞬間が、勝負だな。

ようやく、戦争らしくなってきやがった」


その声に、いつもの軽さはなかった。

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