↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/88

第27話 初勝利

【side:アニ】


「キュ!」


号令が落ちた瞬間、アニはかちどきを上げる。


『進め!叫べ!武器を打ち鳴らせ!威嚇せよ!』


二千体のゴブリンがアニの声に応える。

怒鳴り声だけじゃない。

武器が打ち鳴らされ、足音が地面を叩き、空気が震える。


入口を跨いだ、その一歩。

戦争が、確定した。


数十のチュウタがダンジョン内に散らばっていく。

様子見は終わった。

狭い通路に、二千の足音が雪崩れ込む。


速度と物量と威圧で判断を奪う。

それが戦術だった。


先を行ったチュウタから、どんどん報告が上がってくる。


『偵察網、配備中』

『階段、発見』

『三階層……迎撃ある』


『早いな』


迎撃が想定より早い。

戦争に気付いていた可能性もある。


それでも、もう引けない。

ここで止まれば、踏み込んだ意味がなくなる。


押し込むしかない。


一階層を抜け、二階層。

ここまで入るまで、大した敵は出なかった。

普段から探索者相手にお土産をやっているようなモンスター達。


二階層半ばから、殺す気のモンスターが現れる。


そして、三階層。


『そろそろ消えるよ』


オトの低い声が落ちた。

気づくと、オト隊が溶けたように見えなくなった。


『私はそろそろ避難しようかな、嫌な予感がするし』


イモの声が、場違いに軽い。

軽い声に合わせるように動きも軽く、隊列の中からするすると抜けていった。


直後、前方の声が変わった。


勇猛な叫びが、悲鳴へ。

悲鳴から、断末魔へ。


ここに来るまで、モンスターは何度も蹴散らしてきた。

ゴブリンより強いものもいた。

それでも数で押し潰してきた。


――でも、今回は違う。


押し込む流れが、そこで一瞬止まる。

空気が冷える。

それでも、止まれば終わる。


『……来た。押し切れねぇ相手だ』


浮き足立つ気配を、声で踏みつけるように。


『止まるな。前へ出ろ。ここで崩れたら終わりだ』


アニの叫びが、通路の奥まで響きわたる。


『聞け!命知らずのゴブリン部隊!我らの真骨頂、見せてやれ!』


一瞬、前線の揺らぎが止まる。

沈みはじめていた雰囲気が立て直される。


次の瞬間、空気が破裂した。

鋭い衝撃音。

振動が床を伝い、足元から骨に響く。


前列が――消えた。

吹き飛んだ、ではない。

砕けた、潰れた、形を残さず染みになった。


通路の奥から、巨体が姿を現す。


オーガ。


名有りの幹部であろう。

背丈はゴブリンの軽く数倍、体積で言ったらゴブリン二十体分はある。


腕は丸太みたいに太く、持っている武器は武器と呼べる代物じゃない。


鉄塊。


振り下ろすたびに、通路の床が砕ける。

数で押す、という概念が通用しない。

オーガが一歩踏み出すたび、ゴブリンが消える。

叩かれて、弾かれて、砕かれて――ダンジョンに還っていく。


『押し切れねぇ相手だ』


アニは即座に判断する。

だが、退かない。


前に出る。

一歩。

誰よりも前に。

背後で、ざわめきが起きる。


オーガの前に立ちはだかるゴブリン。

端から見たら滑稽もいいところだ。

しかし――


『こっちも一応名有りなもんでな、腕試しだけさせろ』


アニはそう言って笑う。


それを受け、オーガも笑う。


アニが走る。


対してオーガは鉄塊を、横薙ぎに振る。


重い。

アニは斧を構え、真正面から受けた。


衝撃。

骨が鳴る。

視界が一瞬、白く弾ける。

次の瞬間、吹き飛んだ。

壁に叩きつけられ、床を転がる。


歯が立たない。

それが、はっきり分かる一撃だった。


オーガは追ってこない。

興味を失ったように、前へ進もうとする。


『……はは』


アニは短く笑う。


『なるほどな。こりゃ勝てねぇ』


だからこそ。

だからこそだ。


『お前ら、聞け!』


声が、前線を叩く。


『ぶっ飛ばされたが、俺は生きてる!――ってことは、俺らは負けないってことだ!』


それでいい。


勝てない。

だが、負けない。


それが、何よりの成果だ。


立ち上がり、後ろへ下がる。

その代わりに声を張る。


『前へ出ろ!』


短い命令。


『戦え!倒されろ!勇猛な死こそ我らゴブリンの誉れ!戦果を引っさげてダンジョンへ還るのだ!』


その言葉に、迷いはなかった。

ゴブリン達が応える。


叫びながら、前へ出る。

叩き潰され、物質へと変わる。

――還っていく。


モンスターは死ぬとダンジョンへと還り、また生まれてくる。

ゴブリンたちにとって、死は終わりじゃない。

ダンジョンに還ることは、敗北じゃない。

戦って還ることは、誇りだ。


オーガが叩く。

数体がまとめて消える。

それでも、列は途切れない。


アニは後方に立ち、戦線全体を見渡す。


『詰めろ!間を空けるな』

『倒れるなら前だ!後ろに下がるな』


勝つつもりはない。

押し返すつもりもない。


ただ、押しとどめる。


オーガが踏み出すたび、前列が消える。

そのたびに、次が埋まる。

死が積み重なり、時間が削られる。


死に際の叫びが、通路を満たす。

――時間は、稼げている。


『チュウタ、オト隊はどうだ』

『そろそろ』

『よし』


オト隊はチュウタと共にダンジョンマスターを強襲する手はずだった。


オト隊が本命。

アニ隊は、おとりと足止め。

それが、作戦だった。




【side:ベレン】


俺はベレン。

生前は畑を耕して、村で暮らしていたはずだ。

気づいたら、黒い球の前に立っていた。

頭の中に、意味の分からない単語が流れ込んできて、今までの常識が意味のないものになった。

状況を考えるに、俺は死んだのだろう。

ダンジョンには主がいる、おとぎ話だと思っていたが、それに俺はなったらしい。


それからは手探りで迷宮を回してきた。掘って、作って、生成して。

たくさん失敗もした。

死にそうになったこともあるし、やりすぎて目を付けられたこともある。


だが、相棒もできた。

なけなしのDPを突っ込んで生成したオーガ。

あまり知能は高くないが、2人で相談しながらなんとかやってきた。


そうやって、ようやく安定してきた。

そのはずだった。


人間じゃない、モンスターの群れ。

何が起きたかはわからなかったが、相棒はあんな奴らには負けない。

なら大丈夫だ。


そう思った瞬間、目の前に窓が出た。

戦争。

他のダンジョンマスターがいる。


さっきからネズミがうろついていたのは気づいていた。

だが、気にするほどでもないと思って放っていた。

違う。

あれが肝だった。


目の前のゴブリンの群れを見て、喉が渇く。考える暇はない。

先に殺すしかない。


「散れ!ゴブリン風情が!」


俺は踏み込んだ。

強化した腕力で斬りかかる。


「グギャ」


先頭のゴブリンが言うと、周りのゴブリンが前に出る。

攻撃を受け止める。

視界には、横をすり抜けるゴブリンが映る。

まずい、ダメだ。

そっちは……


「グギャギャ」


刃が、コアに突き立つ。

一撃。

ひびが入る。


「やめろ――!」


二撃。

ひびが広がる。


三撃。

砕けた。




【side:アニ】


オーガの動きが止まった。

鉄塊を振り上げたまま、固まる。


体に走る、光のひび。

笑い声が途切れる。


次の瞬間。

消滅。


霧のように、跡形もなく消えた。

叩き潰されかけていたゴブリン達が、動きを止める。

静寂。


そして、理解する。


『……やった、のか』


前線に残った者は、ほんの一部だ。

だが、立っている。


『……退くぞ!』


即座に判断した。


『戻れ!深追いするな!』


ダンジョンは消えない。

コアが砕けても、空間は残る。

モンスターも残る。


戦いは終わった。

勝利は取った。

これ以上死ぬ理由はない。


アニたちは、来た道を引き返す。


死んだ者は、ダンジョンに還る。

生きている者は、戦果を持ち帰る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。