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第24話 チュウタと話そう

スキル取得UIを開いた瞬間、思わず笑みがこぼれた。


【所持DP:40,012】


「……四万、行ってるな」


ぽんこが肩の上でぴょこんと跳ねる。


「やりました!シャドウさん達、いい貯金箱でしたね!」

「言い方が最悪だぞ」

「でも事実です!」


否定できないのがつらい。

あの襲撃は心臓に悪かったが、代わりに次の手を買うだけのDPが手に入った。


俺はスキル一覧をスクロールする。

罠の強化でも、支配域の増設でもない。いま欲しいのは、外の情報だ。


探索者の雑談で「村がある」「街がある」といった単語は拾える。

だがそれはバラバラの情報で、形を成さない。


距離も方角も、道も地形も、何も分からない。


だから、チュウタに偵察を任せていた。

任せていたが——結局、鳴き声では限界がある。


「念話……これだな」


【念話】

【必要DP:40,000】


ぽんこが頷く。


「やっとキュッを翻訳する地獄から解放されます!」

「翻訳してたのか」

「地獄でした!」


俺はためらわずに押した。

DPがごそっと消える感覚。

その代わり、頭の奥に違和感が生まれる。


……どこか繋がったような感覚だ。


耳で聞くんじゃない、周りとの距離がなくなったような感覚。


机の端でチュウタがちょこんと座っている。


いつも通りの顔。

いつも通りの鳴き声を出すであろう口。

なのに。


『やっと!』


頭の中に声が響いた。


「……うわ」


反射でこめかみを押さえる、慣れない。

ぽんこは最初から分かってた顔で言う。


「リンク成功です。チュウタさん、待ちくたびれてましたね」


『待ってた!待ってた!ずっと待ってた!』

「テンション高っ」

『マスター、話せる?聞ける?今なら全部言える!』

「落ち着け。息継ぎしろ」

『息継ぎいらない!』

「怖いわ」


ぽんこが笑いながら、いつもの仕事モードに切り替える。


「チュウタさん。報告を順にお願いします。マスターが念話に溺れて死にます」

「死ぬのかよ」

『分かった!順番!』


チュウタは勢いよく、情報を畳みかけてきた。


『まず、ここ。ここはね——洞窟の入口の外、道があって、川があって、森があって、村があって、街があって——』

「待て待て待て。いきなり全部言うな」

『でも全部、繋がってる!』

「繋がってるのは分かった。順番に言え」


ぽんこが指を立てる。


「まず地名。次に距離。次に道筋。その後に噂です」

『分かった!』


チュウタが一呼吸置く……ふりだけして、すぐ言った。


『ここ、北の森。村、アウル。街、イース。』

「……アウルとイース」


探索者の雑談でそれっぽい音は確かに聞いたことがある。

だが、俺たちは外を知らない。

名前を拾っても、それが何だかが分からなかった。


ぽんこがすぐ続ける。


「距離」

『アウルは半日くらい!イースは二日くらい!マスターの足で!』


「道筋」

『入口出て、森抜けて、川ひとつ越えて道に出る!道を右進むとアウル!さらに道を進むとイース!途中で森が薄くなる!丘が右に見える!』


ぽんこがUIを操作して地図を呼び出す。


「マスター、地図です。ポイントします」


地図に出ているのは起伏と川と森と道の線だけ。

名前はない。

だが書き込みはできるようだ。


俺は書き込みの準備をする。

だが——


「……候補、多すぎるな」


川も森も道も、いくらでもある。

入口を出て森を抜けて川を越えるなんて、この地図だと何百通りにもなる。

チュウタが、もどかしそうに言う。


『えっと……川、幅が広い!流れ速い!道はね、途中で分かれる!右がぬかるむ!』

「それを言え」

『言おうとした!止めたのマスター!』

「ぐうの音も出ない」


ぽんこがすぐに整理し始める。


「幅が広くて流れが速い川……候補が減ります。分岐で右がぬかるむ、も条件になります」

「よし。……それでもまだ多いな」

『丘!丘が右!風が強い!』

「風は主観だろ」

『でも強い!』

「……まあ、情報だな」


俺たちは机に貼り付いた。

朝から晩まで、同じ作業を繰り返す。

チュウタに断片を吐かせて、地形図に当てはめて、外れて、また聞いて、また当てはめて。


ぽんこは質問の角度を変えるのが上手い。


「川のあとって、すぐ?それともしばらく道を歩く?」

「丘は見える?それとも登る?」

「ぬかるみは時期によって違う?それともいつも?」


チュウタはそのたびに、思い出すように言葉を探して答える。


『すぐ!川のあとすぐ分岐!』

『丘は見える!登らない!』

『いつもぬかぬか!』

「いつもぬかぬかって何だよ」

『ぬかぬかはぬかぬか!』

「翻訳できるようになってないじゃねえか」

「あ!わかりました!ここです!ここ!」

「全然当てはまらん、地図が読めないAIってどういうことだよ」


ぽんこは質問はうまいが、地図は読めなかった。


しかし、断片は確実に積み上がっていった。


川の曲がり方。

森の切れ目。

道の分岐の角度。

丘が見える位置。


そして、丸1日。

地形図の上に、ようやく一本の線が通った。

線の先に、点を置く。


「……ここだな」


ぽんこが息を呑む。


「全て当てはまります。アウル村がこの辺。イースがこの辺」

「やっと地図になったな」


俺は地形図の左上、線の根元を指で押さえた。


「で……うちは、この辺りか」


自分のダンジョンの場所。

今まで考えたこともなかった。

守るべき場所としては意識していたが、どこにあるかを意識したことはなかった。


だが、地形図の上にうちが置かれた瞬間、妙に実感が湧いた。


「俺たち、ちゃんと世界の中に居たんだな」


ぽんこが当然みたいに頷く。


「探索者さんが来る時点で、世界の中です」

「そうなんだけどさ……こう、座標として突きつけられると、変な感じだ」


チュウタがようやく次の話題を出す。


『噂もある!イースはね、人がいっぱい!物もいっぱい!道が太い!でもね、盗む人いる!喧嘩もある!夜は門閉まる!』


ぽんこが翻訳する。


「交易路が太い。治安は悪め。門の運用がある。兵もいそうですね」

「推測だがな」

『兵っぽいの、いた!硬い音する!』

「硬い音ってなんだよ」

『かたいはかたい!』

「またぬかぬかみたいな話を……」


ぽんこが笑う。


「でも意味、分かります。鎧です」


チュウタが、勢いそのままに続ける。


『あとね、遠い街もある!名前はまだ、音がぶれる!人少ないから!』

「そこは後回しでいい。いまは——」

『ダンジョン!ある!』


ぽんこが即座に確認する。


「マスターがいるタイプ?」

『わからない!でも新しいって!』

「距離」

『十五日!マスターの足で!』

「……十五日」


遠い。

遠いが、遠いから無視できるわけでもない。


管理権限とDPが欲しい奴は、同じことを考えて動く。

放置すれば、誰かが食って強くなる。


チュウタが言う。


『遠い街の情報で、場所の噂が出てた!行くなって!』


俺は地図の中に、別色でざっくり枠を描いた。

点はまだ置けない、だが候補域は作れる。


ぽんこが言う。


「まだまだ聞くことはいっぱいありそうですね」


その後、俺たちはチュウタの情報で地図を埋める作業にかかりきりになった。


そして、数日後。

アウルとイースを基点にしたルート。

川と丘、分岐、進行できそうなルート。

そして……ダンジョン候補。


「……よし。最低限の地図はできた」


ぽんこが珍しく素直に頷いた。


「やっと動ける形になりましたね」


チュウタが誇らしげに言う。


『次はどこいく?ぼく、もっと調べる!』

「その前に寝かせろ。俺の脳が焼ける」

『脳、焼けるの?』

「焼けない。比喩だ」


情報は揃った。

後はどう攻めるか、だ。

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