第19話 一体逃げた
「……さて」
誰に言うでもなく呟き、考える。
「一体逃げた」
でも、その一体の重さは、致命的だ。
「チュウタ、どこ行ったかわからないか?」
「ちゅう……」
「そうか、そうだよな。あの速さじゃ無理だよな」
致命的なのが分かっているから、余計に厄介だ。
「まぁしょうがない。次、被害は?」
「はい」
ぽんこが表示を出す。
【ゴブリン死亡:552】
「……552」
口に出してから、少し間が空いた。軽い数字じゃない。
「やられたな」
「派手でしたね」
「派手って言うな」
そう言いながらも、視線は数字から離れない。
ふと、別の表示が目に入る。
【ゴブリン:2521】
俺は少し考えてから、首を横に振った。
「逆か」
「逆、ですか?」
ぽんこが首を傾げる。俺は表示を見たまま答えた。
「今回の相手、足止めできずに駆け抜けただろ」
「はい。ほぼ無視していました」
「だよな」
552体死んだ。でも、それ以上に重要なのは、2千以上残したまま突破されたという事実だ。
「本来なら、全部使って止める相手だった」
「……なるほど!」
「でも、数を出し切る前に押し切られた」
椅子に深く腰を沈める。
「数で押すってのは、使い切れる前提の戦術だ」
「はい」
「強敵相手だと、溜め込んだ分がそのまま無駄になる」
数があるのは安心材料になる。だが、出す前に終わるなら、それはただのデッドストックだ。
「ここからはモンスター単体の強さも必要だな」
「ようやく理解しましたか」
「おい」
話を切るようにシルヴァさんが表示を覗き込む。
「あら……思ったより減っていますね」
「前線がまとめて削られた」
「でも、森は大丈夫ですわ」
様子を見る限り、確かに致命的な損傷はない。土が掘り返され、枝が折れ、蔦が切れた場所もあるが、すでに新しい芽が伸び始めている。
「回復が早いな」
「元気な子たちですから」
「元気で済ませていいレベルじゃなかっただろ、あれ」
シルヴァさんは、ふふ、と笑うだけだ。
マップを引く。
外。
「……外に逃げた」
「はい」
つまり、誰かの元へ、だ。
「誰か、か」
その言葉をきっかけに、さっきから視界の端に残っていた黒い枠を思い出す。
俺は支配域マップを閉じ、黒いウィンドウを開いた。
【迷宮管理者統合戦争システム】
【同期管理者数:512】
【第三大陸:102】
「第三大陸?」
「人類側の正式な呼称です」
「じゃあ、第一も第二もあるのか」
「はい。第五まであります」
番号で区切られた世界か。
雑なのか、合理的なのか。
【第三大陸地図:表示】
「これ、外の地図か?」
「はい!」
「おお、やっとか」
ダンジョンの入口から見ただけだ、地図が見れるのはありがたい。
地図を表示する。
山、川、森、平野。それだけが、淡々と並んでいる。
「……あれ?」
少し目を凝らす。
「これ、もしかして自分の場所出ないのか?」
「出ません」
「街は?」
「出ません!」
「他のダンジョンは当然」
「出ません!!」
なぜかちょっと得意そうにぽんこが答える。
「地形だけか」
縮尺を変えても同じだ。どこに自分がいるかすら分からない。
「自分で探せってことか」
「そういう仕様です」
何もわからない第三大陸の地図を眺める。
横に長い楕円のようなひし形のような形。
大きさは横に2700km、縦に1200kmくらい。
「というかこれ、この広さから101人のDM探すのか」
「はい!1人あたりで割ると日本の九州くらいの面積があります」
なるほど、いや九州から1つのダンジョンを探すって普通に無理だろ。
シャドウのマスターよくここ見つけたな。
って。
「おい、なんで九州を知ってるんだ」
「ふっふっふ!マスターの記憶は全て履修済みです!」
とんでもないことを言い出した。
「プライバシーって知ってるか?」
「知ってます!前時代の遺物です」
旧式から前時代扱いされてしまった。
というか俺が生きていた地球はいつの時代なんだろう。
「まぁいい」
次に、ランキングが目に入る。
【総合ランキング】
【1位:キャステル 総支配指数2124 第1大陸】
【2位:クロノ 総支配指数689 第5大陸】
~
【50位:ジュード 総支配指数550 第3大陸】
「……差がすごいな」
キャステルとやらがトリプルスコアで突き放してる。
これこのまま行ったらこいつの一人勝ちだろ。
自分の名前は表示されていない。
「ランキング外、か」
ステータスを見る
【ステータス】
・HP:150/150
・MP:0/0
・DP:13,521
・管理権限Lv:3(+1)
・総支配指数:530.7(+425.5)
・迷宮数:1
()内は前回表示からの変動値
でも
「550が50位なら……」
指で軽く数をなぞる。
「100位以内くらいには、いそうだな」
「そうですね、結構いい位置です」
「ちょうどいい。今は目立ちたくない」
それよりも、一つ気になる数字がある。
「DPがすごいな、さっきのシャドウか?」
「はい!ログ出します!」
【獲得DP:2000×6】
「一体DP2000か」
「はい!探索者さん二人ぶ……」
「それ以上言うなよ」
不穏なことを言おうとしたぽんこの口をふさぐ。
戦力増強にはありがたい。
そのまま視線を下げると、見慣れない項目が追加されている。
【通信】
開くと、メニューが三つ並ぶ。
【DMメール】
【DMコール】
【DM掲示板】
「通信……あるのか」
「あります」
ぽんこが続ける。
「DMメールは文章通信です。接触済みの相手に送信できます」
「メールだな」
「はい」
「DMコールは?」
「音声通信です。接続には相手の許可が必要です」
「電話か」
最後に、掲示板。
「DM掲示板は匿名掲示板です」
「匿名?」
「はい、様式美です。コテハンとして本名を使うこともできます」
俺は小さく息を吐いた。
とりあえず、確認するしかないか。
俺は掲示板の文字へ指を伸ばした。




