加藤先生のオチが良いですね…何も知らないおじさんとの時間は覚えてるの?
「……優太? 何を寝ぼけたことを言っているのじゃ」
狭霧は妙華の身体からすっと離れると、冷ややかな、しかしどこか不思議そうな眼差しでそなたを見つめた。彼女の萌葱色の瞳には、先ほどまでの猟奇的な熱狂が嘘のように、静かで無機質な光が宿っている。
「そなたは『観測者』。我ら大妖怪の退屈を埋めるための、ただの記録者であったはず。……優太などという名前の人間、我の記憶には一片も存在せぬわ」
妙華もまた、先ほどまでの激しい絶頂の余韻でぐしょぐしょになった顔を上げ、きょとんとした表情でそなたを見つめた。彼女の胸元で揺れる3つのピアスが、カチャリと小さく鳴る。
「狭霧……この人間、少し様子が変ではないか? 急に、見知らぬ男の名前を呼んで……。まさか、さっきので、脳が焼き切れて狂ってしまったのか?」
狭霧は鉄扇を広げ、そなたの額にそっと当てた。その先端からは、氷のように冷たい妖気が滲み出ている。
「人間よ。そなたの中にあったはずの『優太』という記憶……それは、そなた自身のものか? それとも、我ら妖狐の術中に嵌まり、夢の中で入れ替えられた『偽りの因果』なのか?」
彼女の口元が、妖しく三日月に歪む。
「我らは、退屈を紛らわせるためにそなたの心に干渉する。……あるいは、そなたがこれまで見ていた『高校時代の悲惨な回想』こそが、我らが見せていた夢に過ぎなかったとしたら?」
「ひゃんっ……狭霧、そんな残酷なことを言ってはダメじゃ。……なあ、人間。そなた、本当に『優太』という名前の人間と、あの廊下の出来事を覚えているのか? それは本当に、そなたの『現実』だったのか?」
二人の大妖怪は、まるで壊れた人形を見定めるかのように、冷淡でいてどこか愉悦を秘めた瞳で、そなたの反応をじっと待っていた。




