映像の向こう側
予測局。
分析部。
部屋の中央には巨大な魔法陣が静かに光を放っていた。
儀式魔法によって映し出された未来は、一枚の水面のように揺らめいている。
数秒。
あるいは十数秒。
見えるのは、それだけだった。
「次。」
局員の声とともに映像が切り替わる。
市場。
街道。
農村。
王都の一日が断片となって流れていく。
⸻
「ここで止めてください。」
セシリアが声を掛けた。
映像が静止する。
橋を渡る荷馬車。
商人が立ち止まり、何かを指差している。
それだけの映像だった。
「何か気になりますか?」
隣の分析官が尋ねる。
「この荷馬車です。」
セシリアは荷台を指差した。
「前回も同じ商会の荷馬車が映っていました。」
「偶然かもしれません。」
「でも、確認しておきたいです。」
分析官は資料をめくる。
「いい視点だ。」
「思い込みは禁物だが、気付きを捨てる必要もない。」
「はい。」
セシリアは静かにメモを書き加えた。
⸻
昼。
分析部の食堂。
「最近、現場へ行く機会が増えたそうだな。」
先輩職員が向かいへ座る。
「はい。」
「協力魔導士の方達とご一緒することもあります。」
「どうだった?」
セシリアは少し考える。
「映像だけでは分からないことが、思っていたより多かったです。」
「でしょう?」
先輩は笑った。
「だから分析官も外を見る。」
「映像だけ見ていたら、映像しか信じられなくなる。」
その言葉に、セシリアは小さく頷いた。
⸻
午後。
新しい予測映像が届く。
局員達が一斉に机へ集まった。
「南街道。」
「天候は晴れ。」
「異常なし。」
一人ずつ確認していく。
派手な事件は映らない。
何も起きない未来もまた、大切な情報だった。
「こちらも問題ありません。」
セシリアが報告する。
局長が静かに頷いた。
「記録へ。」
短いやり取り。
それだけで次の映像へ移る。
分析部の日常は、いつも淡々と進んでいく。
⸻
夕方。
仕事を終えたセシリアは、予測局を後にした。
帰り道。
王都の広場では子供達が走り回っている。
屋台からは香ばしい匂いが漂う。
何気ない景色だった。
「セシリアさん。」
聞き覚えのある声がした。
振り向くと、ユウマだった。
紙袋を片手に歩いてくる。
「研究院の帰りですか?」
「はい。」
「今日は少し早く終わりました。」
「分析部もです。」
自然と並んで歩き始める。
「研究はどうですか?」
「失敗ばかりです。」
ユウマが苦笑する。
「でも、昨日できなかったことが今日できると嬉しいですね。」
「分かります。」
セシリアも笑った。
「分析も同じです。」
「昨日気付かなかったことに、今日気付ける。」
「少しずつ前へ進んでる感じがします。」
「それですね。」
二人は顔を見合わせて笑う。
そこへ後ろから声が飛んだ。
「また真面目な話してるな。」
レオだった。
「仕事帰り?」
ユウマが尋ねる。
「いつも通り歩いてただけだ。」
「便利な仕事ですね。」
セシリアが笑う。
「便利じゃない。」
レオは肩をすくめる。
「足が疲れる。」
「それは仕事ですね。」
「だろ。」
三人とも思わず笑ってしまう。
広場の時計が夕方を知らせる鐘を鳴らした。
「じゃあ。」
「また。」
「お疲れ様でした。」
短い挨拶を交わし、それぞれの帰路につく。
王都では今日も、多くの人がそれぞれの役割を果たし、一日を終えていく。
三人もまた、その中の一人だった。




