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第1章第5話 魔王城の勇者

黒い光が夜空を貫いていた。


 それは魔王城の最上階から放たれている。


 闇を裂き、雲を押し退けるほどの巨大な光柱。


 魔族たちは膝をついていた。


 恐怖ではない。


 畏敬。


 魔王に対する絶対的な忠誠。


「まさか……」


「魔剣が反応している……」


「次代の王が覚醒したのか……?」


 誰もがざわめいていた。


 しかし。


 光柱の中心にいる少女は、そんなことを知る由もなかった。



 エリシアは苦しんでいた。


「……っ!」


 胸が痛い。


 息ができない。


 全身を見えない何かに引き裂かれているようだった。


 魔剣を握る手に力が入る。


 黒い魔力が暴走していた。


 それなのに。


 違和感がある。


 魔力の奥から、別の何かが溢れてくる。


 暖かい。


 優しい。


 そして眩しい。


「なんで……」


 理解できない。


 魔族である自分が。


 魔王になるはずの自分が。


 なぜこんな感覚を抱く。



 景色が変わる。


 気づけば知らない場所に立っていた。


 花畑だった。


 青い空。


 柔らかな風。


 遠くで子供たちが笑っている。


「ここは……」


 知らないはずなのに。


 懐かしかった。


 胸が締め付けられる。


 泣きたくなるほど。


 理由も分からず。



 ふと。


 誰かが手を握った。


 驚いて振り向く。


 だが顔は見えない。


 光に包まれている。


 男の人だった。


 優しい声が聞こえる。


『強くなりなさい』


 その一言だけ。


 それなのに。


 胸が熱くなる。


 心の奥が震える。


「誰……?」


 声が掠れた。


 男は答えない。


 ただ頭を撫でる。


 温かかった。


 ずっとそうしていてほしいと思うほどに。


 なのに。


 次の瞬間。


 景色が崩れた。



 血。


 炎。


 絶叫。


 戦場だった。


 さっきの穏やかな景色とは真逆。


 無数の兵士が倒れている。


 空は赤く染まり。


 大地は焼け焦げていた。


 その中心に。


 一人の男が立っている。


 黒い鎧。


 巨大な剣。


 圧倒的な存在感。


「魔王……」


 なぜそう分かったのか、自分でも分からない。


 だが本能が告げていた。


 あれが敵だと。


 倒さなければならない相手だと。


 そして。


 その魔王の前に立つ男。


 光の剣を握る勇者。


 顔は見えない。


 だが。


 その背中を見た瞬間。


 胸が激しく脈打った。


「……え?」


 おかしい。


 どうして。


 どうしてこんなにも。


 懐かしいのだろう。



 勇者が振り返る。


 顔は見えない。


 だが。


 声だけが聞こえた。


『すまない』


 優しい声だった。


『守れなくて』


 涙が溢れた。


「やめて……」


 意味が分からない。


 知らない。


 こんな人知らない。


 なのに。


 どうしてこんなに悲しいの。



「エリシア様!!」


 誰かの叫びで現実へ引き戻された。


 気づけば玉座の間だった。


 息が荒い。


 肩が震えている。


 頬が濡れていた。


 涙。


 自分が泣いている。


「なぜ……」


 理解できなかった。


 今まで泣いたことなどほとんどない。


 弱さは不要。


 感情は邪魔。


 そう教えられて育った。


 なのに。


 今は涙が止まらない。



 その時だった。


 頭の中に声が響く。


 男の声。


 聞いたことのないはずの。


 なのに懐かしい声。


『見つけてくれ』


「……誰」


『あの子を』


 声が遠ざかる。


「待って!」


 思わず叫ぶ。


 だが返事はない。


 消えてしまった。



 静寂。


 広い玉座の間に一人だけ。


 エリシアは唇を噛んだ。


 悔しかった。


 自分が分からない。


 何者なのか分からない。


 なぜ勇者のような記憶を見るのか分からない。


 そして。


 なぜ胸がこんなに苦しいのかも。



 ふと。


 窓の外を見る。


 夜空の向こう。


 遥か南。


 人間の領域。


 その方向を見た瞬間。


 また胸が高鳴った。


 ドクン。


 強く。


 確かに。


 何かが呼んでいる。


 そんな気がした。


「……いる」


 思わず呟く。


 理由は分からない。


 根拠もない。


 だが確信だけがあった。


「そこにいるんだね」


 自分と同じように。


 何かを失い。


 何かを探している誰かが。



 その頃。


 勇者の里。


 レインもまた眠れずにいた。


 窓から見える北の空。


 黒い光柱。


 なぜか目を離せない。


 胸の奥が騒ぐ。


 懐かしい。


 会ったこともない誰かを思い出すように。


「……誰なんだ」


 呟く。


 答えはない。


 だが。


 運命は確実に二人を引き寄せていた。


 まだ出会っていない。


 名前すら知らない。


 それでも。


 二人の距離は少しずつ縮まり始めていた。

やっとヒロイン登場!今後の話をお楽しみに!

読んでくれてありがとうございます。

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