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帝不在の平安後宮〜それでも私が入内する理由〜  作者: 有木珠乃@2/6『ヒロインの弟に迫られています』配信中
終章

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第42話 初恋

「う〜ん。三毛猫は欲しいけど……雅継に譲るよ。だって、その子猫は雅継と同じだもの」


 偉い! 傍に駆け寄り、頭を撫でてあげたくなった。


「……僕と同じ」

「あのね。私とりんは、姉妹みたいに育ったの。他に兄弟がいなかったから、りんがお姉様になってくれて。でも、あの人達はりんと違う。雅継に嫌がらせをして、全然お姉様らしくないんだもの。だから……えっと、うまく言えないんだけど、雅継にはその子猫が必要だってことなの」

「僕はそう思わないよ」

「どうして?」

「だって、鈴子様が来てくれた日は、心がぽかぽかするんだ。僕に必要なのは、その子猫じゃないよ」


 まぁ! それはまさに、告白なのでは!? 鈴子、分かっている? 鈴子、と視線を向けると、顔を真っ赤にして正面を向いてしまった。お陰でその顔が見られない。


「じゃ、じゃあさ。鈴子がずっとここにいたら、雅継、嬉しい?」

「ずっとは無理だと思うけど」

「もしも、の話だよ。もしも、そうなったら、嬉しい?」

「はい。そしたら毎日、楽しそう」


 雅継の言葉に、胸が締め付けられた。それは幼き頃、ずっと願っていた想いだったからだ。


 ずっと惟久様と一緒にいられたらいいのに。そしたら毎日、楽しく過ごせそうなのに。誰も賛成してくれなかった。ダメだと言われた。


 鈴子には、そんな想いをさせたくない。


「二人の気持ちは確かめられたわ。芹、戻りましょう」

「はい、千景様」


 あとは雅継に、と選んだ姫をお兄様達に諦めさせる術を考えなくては。いや、その前にどこの姫かを問い詰め……たら、私の思惑などすぐにバレてしまう。


 やはりここは帝に相談するしかなさそうね。


 けれどすぐに後宮に戻るわけにもいかず、私はそっと帝に文をしたためた。



 ***



 数日後。後宮へ戻って来たばかりだというのに、再び鈴子の「お母様〜。今度はいつ、常盤院に帰るの?」攻撃が始まった。


「次の宿下がりは、色々と準備があるから、もう少しだけ待って」

「それってどれくらい? 長いと子猫が生まれちゃうよ」

「大丈夫。この間、宿下がりした時に、お産が近づいたら知らせて、とお願いしたから。よほどのことがない限り、間に合うと思うわよ」

「本当!? さすがはお母様」


 どちらかというと、芹と惟久様の力が大きかった。芹が女房の一人を買収。情報を逐一、惟久様に伝えてくれる流れを作ったのだ。


 その女房から雅継に、と選んだ姫の家を突き止め……何をしたのかは知らないが、急に白紙にしてほしい、と連絡があったそうだ。


 本当に、帝と一緒になって、何をしたんだか。ある日、「鈴子の願いを叶えられそうだ」と楽しそうにやって来た時は、いつものようにお小言が口から出そうになったのを、グッと堪えた。

 鈴子の願い、とはつまり……。


「だから、次の宿下がりまで、大人しくしていてちょうだい。そうしたら、いいことがあるかもしれないから」

「それって、子猫のことよね。きっと、そうだわ!」


 完全な的外れではなかったが、嬉しそうな鈴子の姿に、私は扇で顔を隠しながら小さくほくそ笑んだ。


 けれど猫の出産というものは、人間よりも早いため、こちらも急ぐ必要があった。実現可能にしたのは、やはり母猫の出産は……私達の思い出と重なるからだろう。

 可愛い鈴子のため、とはいえ、帝も惟久様も複雑な心境だったはずだ。それなのに、二人の願いを叶えるために、大急ぎで事を進めたのだ。



 ***



 その日は皆、そわそわしていた。宿下がりの日にちが決まってから、弘徽殿はずっと慌ただしかったからだ。

 鈴子は母猫の出産が近づいているからだと、周りに吹聴し、帝はしばらく会えなくなるから、と頻繁にお渡りになられた。その目的が私ではなく、鈴子であることは一目瞭然であったから、誰も不思議には感じない。


 けれど後宮を発つ時、帝だけではなく、見送りに皇太后様までもお出ましになったものだから、さすがの鈴子も怪しんだ。


「お母様ぁ……」

「大丈夫よ。帝もおっしゃっていたでしょう? しばらく会えなくなる、と。皇太后様も同じ気持ちなのよ」


 本当のことを言うと、鈴子が傷つくかもしれない。自分のせいだと感じるだろうから。けれどこれは、鈴子のせいではない。私たちが招いたことだ。

 私が惟久様を選び、共に罰を受け、帝がこの決断を下した。それが鈴子の初恋で、少しだけ早まったに過ぎない。だから鈴子は、何一つ悪くないのだ。


 しかし後宮を出る時にこれでは、常盤院は大丈夫だろうか、と心配した。だが、それは杞憂に終わった。雅継が鈴子を待っていてくれたからだ。


「鈴子様、早く!」


 挨拶もなく、鈴子を連れて行ってしまったのだ。


「すまない。今朝から鈴子はいつ来るのだと、急かされてな」

「気にしていません。どちらかというと、鈴子が怪しんでいたので良かったと思っています。それよりもお兄様。雅継には話したのですか?」

「あぁ。雅継だけでなく、この邸の者たちには伝えてある。おまえこそ、鈴子に話したのか?」

「いいえ。これは鈴子だけの問題ではありませんので。帝からも、そのようにと言われています」

「千景……」


 鈴子の同意もなく、勝手に決めたことは分かっている。だけど斎宮に選ばれ、貴重な盛んな時期を、伊勢で過ごしてほしくなかったのだ。神聖な存在として奉られ、窮屈な生活を送るよりも、ずっと鈴子にはいい。

 後宮でも駆け回る鈴子に、斎宮という役目は窮屈で退屈だろう。もっと広い世界……は無理かもしれないが、自由に暮らせる場所が、鈴子には似合っていた。


「さぁ、私達も参りましょう」

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