22.川辺会食物語
部長「水辺の風に当てられながら食べる鍋はうまい」
ことみ「乾燥してきたから尚更だね」
私「そこは寒くなってきたからじゃないんだ」
完成した鍋を囲みながら、いつもの雑談を楽しんでいる。
ことみ「寒さもそうだけれど、私は肌が乾燥に弱いから....」
部長「毎年指の皮が切れて泣いてるもんね~」
ことみ「泣いてない」
私「私はあまりなならないけど、乾燥切れは嫌よね」
鍋の水蒸気に川から跳ねる雫が辺りを湿らせている。
だからここにいる限り切れることはないと、思いながら料理を口にした。
私「っ..おいしい..」
めめ「里芋のとろみがいい味だしているでしょ?」
私「うん。鍋ってよりは、いつものみそ汁を飲んでいる気分になる」
部長「家庭によっては、みそ汁感覚で晩御飯などに出るからね」
ももこ「しかし、我々は醤油派であることを悪れてはならない」
めめ「うむ」
ももこの言葉にめめは激しく頷いている。
が、私は味噌で食べたことがないどころか醤油ですら初めてだ。
彼女たちには申し訳ないけれど、すこし味噌味にも興味がある。
ことみ「本音いっちゃうと私は味噌はなんだけどね...」
部長「甘いのにがてだもんな」
私「そうなんですか?」
ことみ「甘さ控えめなら醤油のほうが好きなんだけどね」
汁物にしては砂糖がふんだんに使われていると感じていたけれど、それが苦手な人もいるらしい。
でも、里芋のぬめりがあることで甘さが緩やかになっていて私は好きだ。
味噌だったらこのぬめりがどんなかをお見せてくれたのだろうか、気になってもしまう。
めめ「そういうところは、バランスが難しい料理なんだよね~」
部長「甘めの食べ物全般に言えることだ」
私「料理はあまりしないから、感覚がわからないなぁ」
ことみ「まぁ、私もケチ付けてるだけの立場だし...」
会話を交えながら具材にも手を出してみる。
里芋はジャガイモと違い柔らかくしっとりしていて牛肉の優しさがちょうどいい。
そして、こんにゃくが入ることで歯ごたえのバランスを取っているようだ。
ももこ「じゃ、やっぱりめめが料理の腕は一番ってわけか」
めめ「一番じゃないよ」
ももこ「家庭科室を無断使用するぐらい上手じゃん?」
めめ「あれはももこが....」
都会への憧れを忘れてしまったかのような表情をするめめを見て私はなぜか、好ましく思えた。
きっとこれが根付くことができた日常なのかもしれない。
そんなことを考えると少し寂しく感じてしまう。
それでも、この鍋を囲んで食べる料理が空いた何かを埋めてくれる気もしてくる。
これが鍋という文化だったのかもしれない....。
ふっとそんなことを考えていると。
めめ「あるく...、大丈夫?ぼーっとしてるけど?」
ももこ「魂抜けた?」
私「大丈夫、魂は抜けてないよ」
「そんなことよりも...」
心の中に、私の思うものをしまって再び今を楽しむことにした。
ことみ「よし、これでみんな明日は頑張れるね」
ももこ「明日?」
鍋の底が見えてきたころ。
ことみ「明日は中間テストの日だ。ちゃんと勉強しただろ?」
私「今日はテスト勉強の息抜きだからね」
ももこ「あー、勉強かぁ」
めめ「.....勉強ねぇ」
部長「今日はその言葉は出さないことにしない..?」
なぜか意味深に言葉が並べられていく。
勉強をするのは誰にでもできることのはずなのに。
ことみ「なぜ?」
部長「勉強疲れで...ストレスが、、ね?」
めめ「私も帰ったら続きをやらないといけないのが...」
そんなことはなかったみたいだ。
確かに私も、勉強という言葉が好きかと聞かれたら嫌いに傾いてしまうだろう。
ももこ「...ナニソレオイシイノ?」
めめ「大丈夫だももこ。君には究極の一夜漬けがある」
ことみ「学生として一番やっちゃいけないやつでは..」
めめ「ももこの一夜漬けは、100年目の漬物よりも信用できるよ」
私「一周回って信用できないかもしれない...」
ももこ「大丈夫、無計画が生きがいだから」
自信満々に胸を張ったももこであるが本当に大丈夫なのだろうか。
中学のテスト勉強が一番大事といっても過言じゃないのだから一生懸命になってほしい...。
私が言えた立場でもないのだけれど。
部長「赤点とっても所詮単位だからまぁ」
ことみ「みゆきの考えだけは当てにするなよ」
部長「だって、他人からの評価なんて価値がないじゃ...」
ことみ「悪影響出るからそこから先禁止ね」
部長の言葉を再議る様にことみが静かに怒鳴った。
その声色を聞いてか、今日一日部長の声を聴くことはなくなっていた。
ももこ「そうだよな。他人の評価なんて..」
ことみ「日本を侮ると痛い目に合うよ?」
ももこ「...あ、はい」




