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サザンヒルズ国年代記  作者: 白猫黒助
その後の出来事
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エルナの出自

 シフォン家の広間に、エルナの姿があった。

 海の国から帰ってきたジャンヌは、ファーナに挨拶をした後、エルナの母の話をした。

 ファーナもエルナを知っている。すぐにエルナに南の国に来るよう、招待の使いを走らせていたのだ。


「エルナさん、お久しぶりです。この度はお疲れさまでした」

「ここに来て頂いたのは、あなたに紹介したい方がいるからです」


 ファーナはそう言うと、横に控えていた、ずっとエルナを見つめている初老の女を指差した。

 エルナは懐かしい気持ちになる。


「もしかして?」

「ええ、この方があなたのお母さんですよ」

「エルナ、大きくなったね。安心したよ」


 エルナは幼いころに見た母親を想い出した。


「お母さん」


 二人は抱き合った。

 それを見ていたファーナは、二人が離れるのを待って、エルナに言った。


「エルナさん、あなたを呼んだのにはもう一つ訳があるのです。やって欲しいことがあります」

「それさえ済めば、後はお母さんと自由に語らってちょうだい」


 そう言って、テーブルに置いてあったガラスの小瓶を手に取り、エルナに差し出した。

 さっきまではただのガラス瓶だったものが、ファーナの手の中だと光を発している。


「この小瓶に触ってみてもらえませんか」


 小瓶を見て、エルナの母親がつぶやいた。


「それって、”聖女の証”を調べる物ですよね?」


 それを聞いたエルナは頭に手をやり、何かを掴み出した。


「私はーー」


 それは小さな小石で、光っていた。


「この石が光るものだから、皆が勘違いしていただけですから」

「そうかも知れません。でもあなたの父親が誰かご存じですか」

「いえ」

「あなたのお父さまはーー」


 部屋の隅に立っていたアスクを指差した。


「このシフォン家のアスクさんの父親である、バッセさんです」

「えっ」

「シフォン家がどんな家かはご存じですよね」

「はい、精霊の力を持つ四家の一つと聞いています」

「そうです。そしてあなたにもシフォン家の血が流れているはずなのです。まずはそれを確認させてください」

「あなたの持っている石をテーブルの上に置いてもらえますか」


 エルナが石をテーブルの上に置き、手を離すと、石から光が消えた。

 光が消えると、透明な石の中に黒い粉のようなものが混じっているのがわかる。

 見た目には灰色の石に見える。

 それを見ていたファーナが、エルナに問いかける。


「私が触っても?」

「どうぞ」


 持っていた小瓶をテーブルの上に置き、手を伸ばして石に触ると、石はさっきより明るく七色の光がダンスを踊るように光り輝いた。


「この石にも”聖女の証”として反応する力があるようですね」


 そう言うと、ファーナはエルナの方に振り向いて問いかけた。


「この石はどこで手に入れたのですか」

「私が湖で東の村人に助けられた時、手に握りしめていたらしいです」

「多分、溺れまいとバタバタしているときに湖の底の泥を掴んだ中に入っていたのじゃないかと」


 いつの間にか、長がテーブルの上の小瓶と石を交互に見比べていた。


「ねえ、長 何かわかる?」


 ファーナが長の方に向いて聞いた。


「いや、じゃが、このガラス瓶の中にいる者でさえ、シフォン家の精霊かも知れんという位しかわからん」

「わしの知らん精霊がその石の中にいても不思議は無いの」

「特に邪気は感じんから、エルナが持っていても問題ないと思うぞ」


 ファーナは頷くと、石をエルナの方に滑らせた。


「エルナさん、この石はこれまで通り、あなたが持っていなさい」


 すると、じっと石を見つめていた母親が口を開いた。


「エルナ、私にもその石に触らせてもらってもいいかい?」

「どうぞ」


 おずおずと母親が石に手を伸ばすと、石がダンスをするように光り始めた。

 母親が石を優しく掴み、胸元に持っていくと、石の光が増して母親を包む。


「お前だったんだね。エルナを守ってくれていたんだね。ありがとう」


 そう言うと、石をエルナに返した。


「この子は私が小さい時からいっしょにいた精霊だよ。どうして石になったのかわからないが」

「エルナ、この石はお前がお守りとして持っておいで」


 それまでその様子を見ていたファーナがエルナに言った。


「さあエルナさん、この瓶に触ってもらえるかしら」


 意を決したエルナがそっと瓶に触ると、小瓶は光を発した。

 驚いたエルナがすぐに手を引っ込める。

 それを見ていたファーナがエルナに向って宣言した。


「あなたはちゃんと”聖女の証”を持っています」


「えっ」


 エルナは言葉が出ない。


「つまり、シフォン家のバッセさんの娘に間違いないということですよ」


 アスクが近寄ってきて、エルナの手を取り、頭を下げた。


「エルナ姉さま」

「父の間違った考え方のせいで、あなたに辛い思いをさせてしまったこと、シフォン家の当主として、父に代わってお詫びします」

「エルナさんには、私の義姉であるジャンヌ母子も助けていただきました。私からもお礼を言います」


 ファーナも頭を下げる。


「よ、止してくださいよ。身体がムズムズするわ」

「実は、もう一つお願いがあります」


 ファーナが真剣な目つきでエルナに言った。


「何でしょう?」

「すでにあなたが東の村の村長をされていると聞いておりますので、あなたにお伺いします」

「南の国と一緒になるつもりはありませんか?」

「えっ」

「あの三人組が国庫から持ち出した物を返していただきましたが、当時の南の国ならともかく、今の南の国には少々手に余ります」

「そこで、東の村までの街道を、あの財産を使って整備したいと思うのです」


 ファーナは東の村に通じる道が殆ど無いことを知っている。

 商売で訪れるダルウインが少しづつ整備をしても、彼らの手に依って、すぐに荒らされていたのだ。


「ただ、今は東の村は我が国ではないので、勝手には進めるわけにはいかないのはお判りでしょう」


 エルナはファーナの言わんとする意味がわかった。

 三人組が国庫から持ち出したお金を返すためにファーナの元に行った時、ファーナは当時のことを話してくれた。


「私の父母はそのお金が無いために苦労をしたようです。あの時このお金があれば、ウイルドン家も廃家にさせることも無かったでしょう」

「今は私の手元に戻って来ましたが、これはあの三人が東の村のために残してくれたものとしてお預かりします」


 ファーナが、あの三人組が長い間死蔵していた南の国のお金を、東の村のために使おうと言ってくれているのだ。


「わかりました。改めて皆の意見を聞いてお返事しますが、私たちはすでに南の国に従うことに決めています」

「では、返事があり次第、工事を始めるように計らっておきます」


 エルナたちが退室した部屋でファーナと長が話を始めた。


「エルナさんたちの話を聞いて合点がいきました」

「長が南の森の結界を外したのに、何故東の村までの湖の結界が残ってしまったのか不思議だったのですよ」

「うむ、儂の結界は湖にも及んでいたはずじゃからの」

「少なくとも、ジャンヌたちにあんなことが起きたと言うのは不思議じゃった」

「エルナさんの持っている石が湖の結界を維持していたということでしょうか」

「そうかも知れんの。じゃが、石になってしまっては聞くことも叶わん」

「あの結界は消せないのですかね」

「もし、あの石がエルナを守るのを役目としていたなら、もうそれも必要ないと思うがーー」

「奴がまだ必要だと思っている間は消えないだろうな」

「まだエルナさんに難題が振りかかる可能性があるのでしょうか」

「うむ、東の村もようやく変わってきたばかりじゃからの」


 湖の結界はひとまず置いておくしかないとファーナが思っていると、長が口を開いた。


「ところで、例の三人組は結局逃げ出すことにしたらしいの」

「ええ、ついて行く者はいなかったそうです。目的地に着くまでという条件で、荷物持ちを一人ずつつけたとか」

「どこか、行く当てはあったのか?あの歳では辛かろうに」

「残ってもいいと知らせはしましたが、その前にいなくなったみたいで」

「じゃが、これで一つ片が付いたと言うところか」

「それどころか、ジャンヌ義姉さまのおかげで海の国とも交流が出来ました」

「これで、あの洞窟についても心配が無くなりました」


 長がフゥと短く息を吐いた。


「後は、儂とお前さんの問題だけということか」

「はい」

「よろしく頼むぞ」

「こちらこそ」



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