第六話 ひとときの休息①
訃報が聖京都中に流れた。しかも、尾ひれが付いて。
「冒険者連合、東支部の風リーダーのゾルアがバンパイアに襲われて殺された。死狂の館の魔女、バーブルは生きており、迷いの森の最深部で復讐を企んでいる。」
あの時、バーブルに抱きかかえられて、生気を全て吸われた男性はゾルアだった。
キグナスの話では、昨日、キグナス達は午前中に僕が迷いの森で起こった事の報告書をまとめていた。その報告を正論付ける為に、悲しみの壁に残っているマナの力を計測し追加しようと考え、昨日のメンバーを引き連れて悲しみ壁にやってきていた。
計測を初めて数時間が経った時、突然、マナの計測量が膨大な数値を示し、壁に大きな扉が現れた。そのすぐ後で、扉が開き、ライガとバンパイアのバーブルが飛び出してきた。ライガは槍でバーブルの心臓を刺したまま飛ぶ出してきた。痛みで悶えるバーブルに向かって、更に突撃を繰り出し、心臓ごと全て貫き消し去ろうとした。
ライガの槍が心臓を貫いた。その時、ライガが勝ちを確証した様で、槍の力を緩めた様に見えた。
その隙をバーブルも見逃さなかった。槍の柄をへし折って、ライガを蹴り飛ばした。ライガはそのまま、悲しみの壁に激突した。
バーブルはキグナス達の方を見て、一番近くにいたゾルアを捕まえ、軽く首筋にキスをした。その後、ゾルアは力が抜ける様に動かなくなった。そのままゾルアを抱きかかえて、空中へ上がった時、再びマナの扉が現れて、僕が出て来たという事だった。
今回の戦いで僕は全治1週間、ライガは全治2日と診断され、病院で入院することなった。回復魔法では完治する事が出来ず、体力の回復も含めて様子を見るための入院であった。
今回のバーブルとの死闘及び死狂の館の探索で亡くなったのは、ゾルア一人であると公表された。ユウ、アイカ、グロスそして、コハルは行方不明という形で登録される。理由は誰も彼らの遺体を見ていないから。冒険者法に冒険において仲間が死んだ場合、その遺体を発見時に仲間以外の第3者の目撃者がいない場合は行方不明と登録し、3百日が過ぎても、冒険者が戻らない時に始めて死亡として登録する。
実際は、グロスとコハルはライガが死んでいるのを見ていると、僕はキグナスへ申告したが、ライガが見ているのはグロスと僕が言っているゾンビ。そしてコハルと言っている魔晶石だけの為、4人とも行方不明者となった。
ユウとアイカとグロスの両親は、荷物の引き取りがてら、僕が入院している病院まで見舞いに来てくれた。両親達とはあまり深く話した事は無かったが、僕の体調を気遣い、励ましの声を掛けてくれた。しかし、内心は僕ではなく、息子たちが生きていて欲しかったという、思いが伝わって来た。お互いに何も言えないお見舞いとなった。
キグナスが今回の事のいきさつと今後の対応を説明して、七本槍の道化衆の宿舎でそれぞれの荷物をまとめて帰って行った。
結局コハルの両親は荷物を取りに来なかった。理由は忙しいという事だった。初夏の収穫の季節の為、ゆっくりと聖京都に行っている時間はないという事だった。僕の事を恨んでいるかもしれない。コハルをこの世界に引き入れたのは僕だ。コハルを殺したと言っても過言ではない。コハルの両親は僕がコハルを殺したと思っているのであろう。
入院から5日間が過ぎた。
もう、退院しても大丈夫なくらい、傷は癒えて、体力も回復してきた。少し身体を動かしたいという気持ちにもなる。その時、病室のドアがあいた。
「よう、元気か?」
長身の男性が入り口に立っていた。どことなくコハル似ている男性である。彼の名前はサマール、コハルの兄だ。僕達より5つ上、現在は家を継いで農業に従事している。資質はコハルと同じ水質士、スキルは本人曰く「雨乞い」使うと1/10くらいの確率で雨が降るそうだ。サマールはゆっくり僕のいるベットまで歩いてきて、手に持っている大きな袋を3つ、ベッドの上に置いた。その後で、それぞれの袋を指さして説明を入れた。
「これが俺からお見舞いな。そして、これは俺の両親からのお見舞い、そして、最後はお前の両親からの差し入れも預かって来た。」
僕はあまりサマールの顔を正面から見られず、少し斜め下を向いて軽く会釈をした。すると、サマールは僕の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?顔色は良いな。ひとまず安心した、お前が無事で良かったよ。」
見舞いに来てくれた人達と違い、全く、暗さがなかった。妹が亡くなったと言うのに、こっちが逆に暗い気持ちとなってしまう。
「すみません。」
僕はいたたまれず、サマールに頭を下げて謝った。こんな姿では無ければ、土下座したい気分だった。
サマールは僕の頭に手を置いた。
「お前が謝る必要はない。俺や俺の両親もお前だけでも無事に戻ってきてくれて良かった思っている。」
サマールはその後でベットの脇の椅子に座った。そして、優しい眼で僕を見つめていた。
サマールは昔から僕達のお兄さんだった。コハルはもちろん、僕と僕の妹にとっても。そもそも、僕とコハルに冒険者ごっこを教えてくれたのはサマールだった。僕の推測ではサマールは冒険者になりたかったと思う。サマールやコハルは水質士資質の家系。
僕達が5歳の時、冒険者遊びに夢中だった。サマールとその友人達の冒険者ごっこに連れて行ってもらっていた。その日の任務は森の奥にある泉へ行く事だった。しかし、僕達は小さな森の中で迷子になった。その時、コハルが初めて水滴を使った。サマールの持っていたスポイトを取って、見よう見まねで水滴をひらめいた瞬間だった。一瞬にして、森全体を把握し、泉まで案内してしまった。その出来事から、サマールは冒険者ごっこに僕達を誘わなくなった。いや、冒険者ごっこをしなくなった。サマールが12歳の時、冒険者学院への入学ではなく、瀬田村の学校、しかも農業科へ入学した。
サマールは自分が持ってきた袋を開けて、パンを手渡してくれた。僕はゆっくりそのパンをかじった。
「この前、コハルが帰ってきて、嬉しそうに言っていたよ。お前がスキルをひらめいてようやく七本槍の道化衆に入れそうだって。でも、親父とお袋はお前達に戻ってきて、所帯を持ってほしいと思っていた。」
サマールの話に僕は何も言えなかった。サマールは特に僕の回答を求めていなかった。サマールは話を続けた。
「俺はお前達には才能があると思っている。コハルの水滴は誰よりも凄い。お前の資質もかなりのレア資質である事も分かっている。きっと多くの人を助けると。だから、コハルを応援して、送り出した。」
サマールは少し涙目で僕を見た。
「今回の事で責を追うなら俺だ。お前は何も気にするな。むしろ、帰って来たくれた事で、全員が行方不明とならなかった。遺族代表として感謝する。」
そう言うと、サマールはゆっくりと立ち上がって、帰り支度をした。
「おやじ達が来られなかったのは忙しいという事理由は本当だ。ただ、今はお前と話す気にはなれないと言うのが、本音だろうな。でも、気にするな。コハルの葬儀は3百日後、正式に死亡通知が到着してから執り行う。その時には二人も落ち着いているから、必ず出席してくれ。必ずだぞ。だから、それまで死ぬなよ。」
そう最後に言い残して、サマールは去って行った。コハルの両親からの差し入れは野菜だった。
サマールが帰ってから1時間くらいした後、再び訪問客があった。
ライガとキグナスだった。今日、王都緊急議会が開かれ、ライガとキグナスが招集された。今回の迷いの森と死狂の館、そして、バンパイアのバーブルの事を報告したのであった。議会決議で1週間以内に国内外にいる国王軍と王下聖騎隊を呼び戻し、更に1週間後を目途に死狂の館を攻撃するという内容だった。
キグナスが僕に向かって言った。
「その戦い、君にも参加してもらいたい。もちろん、報酬も出す。どうかな。」
僕ははっきりと答えた。
「戦力なるかは分かりませんが、やります。」
「ありがとう。」
「よし、決まりだな。」
ライガが割り込む。
「何が決まりですか?」
「ナギト、正式に俺と組まないか?」
組むってチームを?
「ま、正確には組むと言うより、俺が七本槍の道化衆に加盟させてもらう。正式なメンバーとしてな。」
「それはありがたいですけど、どうして?」
本当にありがたい申し出だが、ライガに何のメリットがない。ライガは王下Bランク、隊長権利持ち、僕は駆け出しのしかも王下Eランクで隊長権利もない。七本槍の道化衆はあと1ヶ月すれば、隊長不在で解体される。
七本槍の道化衆を奪う為?それだって、もっと有名な冒険部隊なら、価値はあるかもしれないが、そこまで名前も売れていない。むしろ、自分で冒険部隊を作って仕事をした方が、仕事が舞い込んでくるだろう。
「俺はお前の能力に惚れた。あのマナ寄せのスキルはバンパイアを倒せるスキルの1つだと思う。俺は今回の戦いであのバーブルを追い詰めた。心臓を串さしたが、あと少しで逃げられた。」
「それは僕のマナ寄せが効かなかったって事ですよね。」
「違うな、30年前、同じ様にあいつの心臓を刺した、その時は手ごたえが無かった。現王にも、こいつにも言ったが誰も信じてくれなかった。予想通り、あいつは生きていた。」
ライガは過去を思い出す様に自分の両手を広げて手のひらを眺めた。
「でも、今回は手ごたえを感じた。やつの顔つきも変わった。あと一歩足りない。」
突然、ライガは地図を僕に見せた。そこにはウブキ山系の光る坑道と呼ばれる洞窟の地図であった。そこは七本槍の道化衆(僕が入る前)が水脈を発見した洞窟だった。
「この地図が何か?」
「足りないのはお前のスキルではない。マナの力だ。低ランクの光る石ではなく、最高級の「最も輝く光の鉱石」なら、倒せるかもしれない。」
「かもしれない。」
「こればかりはやってみないと分からない。戦うんだろ。仲間の敵を取るなら、やれる事はやってみる。それしかないだろ。」
どうせ、あと一週間はここにいてもやれる事はない。それならやってみる価値があるものにしがみつくのも悪くない。やれる事はやる。良い響きだ。
「分かりました。やりましょう。」
「流石、リーダー。話が早い。」
「リーダーって、ライガさんがリーダーでも。」
「ナギト、お前は強い。自覚しろ。」
そう言って、ライガは僕の肩を叩いた。そして、キグナスの方を見た。
キグナスが咳ばらいをしてから話し始めた。
「それでは、七本槍の道化衆へ「最も輝く光の鉱石」の採取任務の説明をします。」
「ちょ、ちょっと待って下さい。任務?」
僕の割り込みを気にも止めず、キグナスは淡々と話し出した。
「何かおかしくないですか?」
この人達何か企んでいる?




