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AMADEUS  作者: 水月
~第一章~ 那由多の宇宙(そら)
3/6

第1話 003

 十数分後。

 学校へ再び戻ると生徒達は各々の部活動を終え、日もだいぶ傾きはじめていた。校門のそばには帰路に就く生徒達が姿が揺らめく炎のように流れいっているが、その中に一人の影だけがカバンを持って立ち尽くしていた。その影は俺達の存在に気づくと、こちらに向かって走ってきた。やがて、その影はなつめという人物を形成していく。


 「よし、二人ともちゃんといるね。いざ、旧校舎へ」


 なつめは俺達の顔を確認すると、踵を返して校舎を指差す。


 「噂なんだから別に確かめなくてもいいんじゃないか?」


 俺はなつめの説得を試みる。

 が、しかし。

 それに対してなつめは、


 「おっと~と~? さては智也君はビビっちゃってるのかな?」


 と、言った。

 やはり好奇心旺盛ななつめの前には微塵も響いてはいなかった。それどころか、なつめは口元に両手を添えてニシシと笑っている。

 見慣れた光景。

 なつめは小さい頃から俺にこうやってちょっかいをかけていた。小どもの頃こそ喧嘩に発展したりもしたが、もうそんな年ではない。こんな時の対処法の一つ二つも思いつく。


 「ビビってない。それより、なゆたは本当に一緒に来て大丈夫だったのか? 今ならまだ引き返せるぞ」

 「だ、大丈夫だよ。二人もいるし」


 なゆたは華奢な体をゆらゆらと動かし落ち着かない様子だ。無理もない。なゆたは小さい頃から幽霊とか怪奇現象とかそういう類い全般が苦手だったからだ。


 「何かあったらあたし達が守ってあげるから」


 なつめはなゆたの方へ歩み寄ると、そっと、包み込むように、なゆたを胸の中で受け止める。子どもの頭を撫でるようになゆたの頭をゆっくりと撫でるなつめ。

 どうやらなゆたの取り扱い方には慣れているようだ。なゆたの方は少し緊張がほどけたのか、軽く肩を落として「ありがとう」と、一言添えて校舎を仰ぐ


 「なゆたも心の準備ができたみたいだし、まずは理科室の小窓に向かおう」


 なつめは、校舎を遠回りに迂回しながら俺達を理科室まで先導する。もちろん、教職員や生徒会にバレないように軽く屈んだ姿勢で、だ。


 「生徒会もうは見回りを始めているから二人も屈んで」

 「おいおい、これ見つかったら洒落にならんぞ」

 「甲斐性がない男ねえ」


 なつめは呆れた視線を俺に向ける。


 「悪かったな甲斐性がなくて」


 生徒会の目を盗み、徐々に理科室に近づく俺達。ザル警備とまでは言わないが、意外にも理科室までは容易に辿り着くことができた。


 「智也、そこで屈んで」

 「どうしてだ?」

 「いいから!!」


 俺はなつめの指差す小窓の真下にいって屈んだ。ゆっくりと腰を落として屈むと、背中、腰に何か負担のかかるものが乗っていることに気づく。後ろを振り向けば、その答えが現在進行形で何かをしようとしている真っ最中だった。


 「……一応聞くが、何をしてるんだ?」

 「何って今から理科室に入るに決まってるでしょ。言っとくけど上見たら許さないから」

 「誰もなつめのなんか見たって興奮しねえよ――痛ッ!!」

 「余計なこと言わないで早く立ち上がりなさいよ」


 今までの恨みを晴らすように軽く挑発をするが、俺はなつめに頭を踏まれてしまう。

 本当に可愛げのない奴だ。顔が全てではないとはまさになつめのためにあるようなものだ。頭を踏んづけられながらも俺はゆっくりと立ち上がる。なつめは小窓を開けると、軽快な身のこなしで難なく校内へと侵入する。


 「よし、次はなゆただ」

 「え? 私……?」

 「安心しろ。上は見ない」

 「そんな真剣な眼差しで言われても……」


 なゆたは靴を脱いでゆっくりと俺の肩に体重を乗せる。なゆたが落ちないように足首を両手で固定してゆっくりと腰を上げると、少し戸惑いながらも窓の内側へと入っていった。窓の内側ではなつめがなゆたを受け止めて無事に校内に入れてくれたようだ。


 「ほら、二人とも忘れものだ」


 俺は二人の履いた靴を一足一足窓の中へ放り込む。学校への潜入は万事うまくいっていた。

 はずだった。


 「誰かいるのか?」


 若い男性の声とともに草むらを歩く足音。それは生徒会が俺達の通ってきた道から来てること以外に考えられなかった。慌てて隠れる場所を模索するが、近くに隠れられそうな場所はない。窓の内側にいるなつめを見ると手を仰いで「早くこっちに来い」と言っている。

 一か八か。

 もはや、俺は考えることを放棄し、助走をつけて力の限り強く地面を蹴って小窓に飛び移った。何とか小窓の縁を掴んだお陰で腕の力で上半身を校内に入れることに成功する。


 「なつめ、早く俺を引っ張れ!!」

 「わ、わかった」


 なつめはジャンプして俺の両手を引っ張る。そのおかげで俺の体は一瞬にして校内への潜入に成功するが、引きずり下ろされたスピードを減速させる手立てもなく、そのまま理科室のタイルでできた床へと落下してしまった。

 俺は慌ててなつめの後頭部に左腕を添えると、体を回転させてそのまま地面に叩きつけられた。なつめのクッション代わりになった俺は想像を絶する痛みと引き換えになつめに怪我を与えずに校内に侵入することができた。


 「なんだ――気のせいか」


 若い男性の一声とともに靴音が遠退いていった。そして場は静寂に包まれる。学校内に侵入する分には静かに越したことはない。しかし、今の状況ではとても静かになってはいけない、なってほしくない状況だった。俺の目の前に覆い被さるようになつめが居たからだ。一刻も早くその場から抜け出したいのだが、腰を強打したばかりの俺は動くことが出来なかった。数秒後、なつめがゆっくりと起き上がると僅か数センチ先になつめの顔があった。なつめの長い髪の毛が俺の頬に重なり、こそばゆい感覚と甘い香りが神経を刺激する。

 ――世界が止まった。

 そう表現するのが正しいだろう。

 いくら幼馴染みとはいえ、異性。ましてや、こんな状況は過去にも、これからもあるはずがなかった。なつめは馬に乗るように俺を跨がった姿勢のまま硬直している。

 なつめもこの止まった世界を打破しようと何か言おうとするが、口をパクパクさせるだけでなかなか言葉を紡ぎだせない。


 「あの、その、ありがと……」

 「お、おう」


 夕日の所為なのか、なつめの頬が赤らめたような気がした。前を見ていられなかった俺は、すかさず視線を横に向ける。


 「二人とも大丈夫?」


 なゆたが駆け寄るとなつめは高速でその場から離れた。体の重りがなくなった俺は、ゆっくりと上体を起こしてを理科室の机を杖代わりに立ち上がった。


 「だ、大丈夫。智也は大丈夫だった?」

 「ああ、なんとかな……」


 ………………。

 しばらく続く沈黙。

 とても気まずい。確かに俺にも非はあったがあんな顔をされたらこっちまで恥ずかしくなる。息が詰まりそうなこの雰囲気を変える話題が欲しい。

 ふと、足元に伝わる冷ややかな感覚が脳に伝えられる。


 「あ……」

 「………………」

 「智也君どうかしたの?」


 俺達は確かに学校の潜入には成功した。が、重大なことを忘れていた。

 ……内履きだ。


 「なあ、俺達内履き忘れたよな」

 『あ……』


 窓から涼しい風が目の前を過ぎ去っていく。変な空気が一周回って再び変な空気になっていた。


 「あたし達、重大なことを見落としていたのね。内履きを取りに行きましょ」


 さっきまでは黙っていたなつめが一息で呼吸を整えると、理科室のドアをゆっくりと開けた。


 「さ、二人とも、ちゃんとついてきて」


 まだ日は暮れないとはいえ、生徒会はすでに巡回を始めている。果たして、そんな中誰にも見つからずに内履きを取りにいくのは可能なのだろうか。

 でも。

 いつまでも少年心的な何かを持ち続けるなつめのペースは嫌いではない。


 「待って。あそこに生徒会がいる」


 なつめが曲がり角から少し顔を覗かせると、そこには二人でなにやら話し込んでいる生徒会の役員が立っていた。内履きのある生徒用の玄関は目前。だが、二人は話し込んでいてその場から動く気配はない。ここは諦めて別のルートから内履きを回収するか。


 「ここは諦めて、別のルートを探した方がいいんじゃないか?」

 「何を言ってんのよ。今こそあんたの出番でしょうが」

 「――は?」


 なつめは来た道を少し戻ると、ある空き室の前で立ち止まった。


 「おい、ここって学祭で使う道具置いてる部屋だろ? いったい何を」


 空き室の中でガサゴソと何かを探すなつめ。俺となゆたは首を傾げながらなつめの動向を静かに見守る。


 「あったあった。これよこれ」


 なつめが段ボールから取り出したのは仮装するための衣装だった。それも季節外れのハロウィンのだ。ご丁寧にカボチャの頭までセットだ。


 「これで生徒会を引き付けて」

 「ん? 何かの冗談だよな?」


 半信半疑、苦笑しながらなつめが渡そうとするハロウィンの仮装衣装を押しとどめる。


 「ちゃんとあんたの分も取ってきてあげるから――ねっ?」


 気づけば押しとどめていた手を除けて、俺の両手にはハロウィンの衣装が乗せられていた。

 こういう時だけ女ぶりやがって……。


 「覚えてろよなつめ……」

 「あたしは別に旧校舎で智也に押し倒されたって先生にチクってもいいのよ?」

 「勘弁してください」

 「冗談よ」


 軽く笑った口調でなつめは言った。俺は内心焦っていたというのに……心臓に悪い。


 「で、集合場所だけど、旧校舎の屋上につながる方の階段で集合。できれば旧校舎とは反対方向に生徒会を引き寄せてくれると助かるわね」

 「智也君できそう?」


 なゆたが心配そうにこちらを見つめている。まあ、損な役回りはいつも俺が引き受けていたことだし、別に今に始まったことではない。

 俺は渋々カボチャの衣装を身に纏う。どこか土臭いパンプキンヘッドを被るとなゆたの方を向いた。


 「やれるだけやってみるさ」


 そう言い残して、俺は颯爽と角を飛び出し二人の生徒会役員の前に立ちはだかった。たちまち俺は二人の生徒から半分白い目で見られる。


 「おい、もう下校の時間は過ぎているぞ。その衣装を脱いで早く帰りなさい」

 「………………」

 「聞いているのか」


 引き付けるったって前に出てただ逃げればいいのか?

 彼らにはできるだけ遠くに行ってもらいたい。何か弱みでも握ることができれば穏便解決できるのだが……。


 「俺は」

 「……?」

 「俺はカボチャの妖精――貴様たちの悪事の数々を生徒に打ち明けるぞ!!」

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