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 物語の悪役に憧れた。彼等の語る人生観に共感した。周囲から向けられ浴びせられる罵倒、憎悪、嫌悪――ありとあらゆる悪感情をまるで意に介さず立つ姿に、絶対の強さと気高さを見た。一人孤高に我が道を征くその背に、いつしか自分を重ねるようになった。その誰憚ることない生き様に、心底焦がれた。


 故に。


 正義の味方を憎んだ。正義の名の下に振るわれる暴力は絶賛され、集団にて個を嬲る彼等のやり口はなんの疑問もなく肯定され、いかなる非道を働こうとも許される。それは、正義という名の暴力装置。虐殺機関。正義の味方は何をやっても許されて、周囲は思考停止で追随して賞賛する。そんな、正義の味方を嫌悪した。


 目の前には、絶対の正義(勇者)。斃されしは魔王。それはまさしく物語の一幕で。後世に語り継がれる英雄譚のクライマックスだ。仲間達の協力の下、幾多の困難を乗り越え、ついに悪の権化たる魔王を斃した勇者。手には聖剣。胸には勇気。その背に託された数多の願い、希望、祈りを束ね、ついには魔王を貫いた。


 ああ、なんて――なんて汚らわしい。反吐が出る。



 リリの元へとたどり着いたわたしが見たのは、ラグに馬乗りになり狂ったように剣を突き刺す勇者の姿だった。

「死ネ…死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネェ!」

 壊れたレコードのように死ね死ねと繰り返し、そのたびに剣を振り下ろす。

 少し離れた場所に、勇者の仲間――剣士がいた。その腕の中には喉元に短剣を突きつけられたリリがいる。殴られたのか、顔が腫れ上がっていた。

 それを見て状況を理解する。彼等はリリを人質にラグを脅し、一切の抵抗を奪われた魔王を嬲り殺しにしたのだ。

 これが勇者のやり方か。これが、彼等の謳う正義の在り様か。こんなものが、正義な(正しい)のか。

「……ラグ。リリ…………」

 こぼれた声に、勇者がぴたりと動きを止める。ゆっくりとこちらに振り返り、わたしを認める。その目は憎悪で溢れていた。

「……魔女カ」

 そして勇者は、魔王を殺した剣をわたしに向けた。剣先からは、血が滴っている。

「殺ス。殺ス殺ス殺ス殺ス。殺シテヤルゾ! 魔女ォォォ!!」

 勇者が吼え、わたしに向かって駆け出した。そこにはなんの躊躇も躊躇いもなく。最早彼にとってのわたしは、裏切り者で、魔女で魔神で、斃すべき悪なのだと理解した。


 ならば、わたしは。


 それなら、わたしは。


 だから、わたしは。


 魔女で構わない。


 お前がそう望むのなら。


 魔神(絶対悪)にだって、なろうではないか。


 さあ、始めよう。



 ――わたしはその日、初めて明確な殺意を以て人を殺した。



 ねえ、ラグ。人間と魔族はいつか分かり合えるってあなたは言っていたけれど、わたしにはそんな日が来るなんて信じられないよ。

 ラグの亡骸を抱きしめる。それはまだ微かに温もりを留めてはいたけれど、もう、人ではなく物だった。

 人間は、自分たちと違う者を許容できない。いつだって争いの種を探していて、どんな些細なことにさえ言いがかりをつけ戦争を始める。仮に講和がなったとしても、そんなものは偽りだ。次の争いの為の準備期間にすぎない。

 だから。両者が本当に平和を望むのなら、関わり合ってはいけない。関われば諍いが生じ、争いに発展するから。それはたやすく拡大し、やがてはまた戦争になるだろう。それを防ぐ為には、理解しようなんて無駄なことはせず、関心を持たず、関わり合いにならないのが一 番だ。そう、無関心こそが真の平和への唯一の解答なのだ。

「…………っ」

 ラグ。これだけは、最後まで意見が合わなかったね。どこかにきっと、分かり合える道が在ると。あなたは夢を見すぎなんだよ、魔王のくせに。だから、だから――

「だから死ぬんだ、お莫迦」

 涙が零れた。

 ラグは何も、答えてくれない。お莫迦と言ったわたしに「何故ですか!?」と、涙目で騒がしく問い返してくれない。

 当たり前だ。それが死なのだから。

「……お莫迦。お莫迦。お莫迦…………ラグの、大莫迦」

 だからわたしは、ラグの身体を抱きしめて泣くだけだ。泣いて、泣いて、その後。

「……掃除、しなきゃ」

 小さく呟いた。


 そう。ゴミは、ゴミ箱へ。

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