16
「して、本日のご用件はなんですかな?」
案内された別室にて向かい合うわたしとおじいちゃん。
「ダンジョンコア、どこにあるか知ってる?」
わたしは出されたお茶には見向きもせずに用件を告げた。だってこのお茶不味いしね。わたしは学習する葦なのだ。
「……それをどうするおつもりで?」
おじいちゃんの目の端がぴくり、と動いた。
「使うに決まってる」
それ以外にどうすんのさ。応接室に飾れとでも?
ところがこの答えはおじいちゃんには不評だったようで、眉間に皺が刻まれる。
「それではお教え出来ませんな」
案の定否定の言葉が返ってきた。
「どうして?」
「コアが魔王の手に渡れば、我が軍の被害が増してしまいます」
そんなことかい。わたしは呆れてため息をついた。
「そもそも攻めてこなければいい」
魔王の側には侵略する気なんてないんだし。今日だって魔王たちにその気さえあれば、この国なんて簡単に制圧出来たのだ。
「それは出来かねます」
ところがおじいちゃんときたら、それはもうきっぱりと断ってくれた。
「なんで?」
「陛下の御命令だからです」
「だからって無理かどうかくらい分かるでしょ」
「しかし陛下の御命令です」
繰り返すおじいちゃん。
「いや、だからさ……」
「陛下の御命令を万難を排してでも成し遂げる。それが儂の仕事です故に」
「…………」
おじいちゃんは胸を張ってきっぱり答える。
話している内に分かってしまった。この人は賢い。でも莫迦だ。賢いから、大抵のことは他人より上手く出来る。手際もいいのだろう。でも莫迦だから、言われたことしか出来ない。言われた範囲内でしかその賢さを発揮出来ないのだ。
今回の件にしてもそう。魔の国のへの侵攻がいかに無謀か、この人は十分に分かっている。でも莫迦だから、「陛下の御命令」に背くようなことは考えられない。命じられた範囲内での最善を尽くすことには長けていても、そこからはみ出して考えることが出来ないのだ。ある意味絶対トップに立っちゃいけない人。
こういう人を上手く使うには、大局を見ることの出来る有能な上司を宛がうに限る。そうすれば、その能力を十全に発揮することが出来るからだ。
でもねえ……。この人の上司って、あの愚王なんだよねえ。救いようがないってのはこのことか。まあ悲劇の原因なんてのは、得てしてこんなものなのかもしれない。じゃあさくっと解決しよう。
「なら愚王を殺してくる」
それで新しく話の分かる王様を立てれば万事解決だ。簡単お得、一挙両得!
「藤花殿!」
なのにまたしてもこの解決策は不評だったようだ。
「ねえ、おじいちゃん。分かってるんでしょ?」
気色ばむおじいちゃんを宥めるように言い聞かせる。
「魔王に侵略の意図はない。人間が手出ししなければ、魔王の側だって手を出さない。でも人間は攻めてくる。だから道を塞ごうとしているの。それでお互い不干渉。それじゃあ、駄目なの?」
魔王の側に付いたわたしが言っても説得力ないかもしれないけど、あんなにいい魔王そうはいないよ? 自分からは侵略しようとせず、攻め込まれても復讐しようとせず、自分の領土だけ守れればそれでいいなんて、そんな甘っちょろい魔王、この先まず現れないよ。なんで今のうちに平和条約とか相互不可侵条約とか結ぼうとしないで侵略してるのさ?
「……陛下の御命令は、魔王を討ち魔の国を平定せよ、です」
「だから……!」
「それが陛下の御意思です」
思わず声を荒げたわたしを、おじいちゃんの頑とした声が遮る。
「…………」
これは無理だ。わたしは説得を諦めた。この人には、わたしの声は届かない。この人の行動を決定出来るのは、あの愚王だけなのだ。それがこの遣り取りで分かってしまった。分からざるを得なかった。
仕方ない。元々わたしは口が上手くない。弁なんて立たないし、そもそも誰かの説得なんてほとんどしたことがない。そんなわたしがおじいちゃんを翻意させようなんて、そもそも無理があったのだ。
ならどうするか。簡単だ。古今東西、話し合いで解決出来なかった物事を解決する方法なんて一つしかない。元々向こうが売ってきた喧嘩だ、せいぜい高値で買ってやろうではないか。
「おじいちゃんの言い分は分かった」
わたしは大きく頷いてみせる。
「そしてこれはわたしの言い分」
即ち。
「今すぐダンジョンコアを出して。でないと愚王を殺す」
戦争だ。




