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ラグと別れたわたしは、一路愚王の城を目差した。
人間側には航空戦力がないのか、旅は誰にも邪魔されることなく実に快調だ。眼下にはこれから侵略に向かうであろう兵士たちが見えたりするのだが、まあラグに任せておけばいいだろう。
向こうさんも空行くわたし達に気付いたようだが、具体的な対策がとられる前に遙か後方に置き去りだ。さすがレグナート。速いね。
さてさて。久しぶりにやって来ました愚王のお城。大体二週間ぶりくらいだろうか。ジグラートに破壊されたはずの城は綺麗に直っている。たった二週間でどうやって直したんだろう? これが異世界の神秘か。日本の建築業界の人が見たら間違えなく泣いてやる気なくすレベルだな。
ともあれ、どこから入ろうか。正面から行っても入れてくれるとは思えないし、それだと大騒ぎになりそうだ。
む? や、もう大騒ぎになっている。鐘がガンガン打ち鳴らされ、兵士がアリのように行き交っている。そうか、レグナート目立つもんね。白昼堂々ドラゴンで乗り付ければ、そりゃあ騒ぎにもなるか。
うん、これはもう言うしかないよね。あの有名な一言を!
「見ろ! 人がゴミ屑のようだ!!」
ついでに高笑い。……普段こんな笑い方しないから咽せて盛大に咳き込んだ。慣れないことはやるもんじゃない。
まあでも、一度言ってみたかったんだよね、この台詞。ただちょっと物申したい。ねえ、大佐。人間は〝よう〟ではなく立派に完璧に完全に紛うことなきゴミですよ?
ま、それはいいとして。
「さあて、愚王はどこかな?」
あ、愚王じゃなくておじいちゃん捜したほうがいいか。愚王じゃまともに話も出来ないだろうし。それとも二人ともセットみたいな感じで大体一緒にいるのかな?
少し考えて諦めた。王と宮廷魔術師筆頭の普段の生活なんてわたしに分かるわけがない。
「レグナート、あの辺の壁適当に壊して」
色々細かいこと考えるのが面倒になったので、大雑把に指示を出しレグナートにお任せすることにした。出たとこ勝負だ。大丈夫、為せば成る。
「るがああああああ!」
了解、とばかりにレグナートは一声啼き、爪を一閃させた。頑丈なはずの城壁が紙っぺらのように千切れ飛ぶ。
そして――おお! あれに見えるは愚王じゃないか。ほうら、なんとかなった。
愚王は腰を抜かして玉座にへたり込んでいる。相変わらず度胸がない奴だ。
「ま、ま、ま……」
わたしを指さしぷるぷると震える愚王。「ま」なんだよ?
あ、そっか。心優しいわたしは察してあげた。「まあいいか」だ。うん、まあいいか。愚王は放っておこう。それよりも……。わたしは部屋の中を見渡し、苦労人の宮廷魔術師筆頭の姿をさがす。愚王もいたし、きっと側にいるだろう。いなかったら愚王を締め上げればいい。
「藤花殿……」
適当に予定を立てていると、折よく向こうから話しかけてきてくれた。
「久しぶり、おじいちゃん」
ざっと二週間ぶりだね。元気してた?
「ええ、お久しぶりです」
ここで盛大にため息を吐くおじいちゃん。
「藤花殿……来るな、とは申しません。ですが、せめて正面からいらして下さいませぬか」
ああ、そういうことか。うん、壊したら直さなきゃいけないもんね。ちょっと反省。
「善処する」
「是非ともお願いいたします。是非とも」
大事なことだからか二度言われた。だから善処するってば。真顔で念押ししてこないでよ。
「して、本日はどのようなご用件ですかな? ――と、その前に場所を移しましょうか」
未だ玉座の上で瘧のようにぷるぷる震えている愚王にちらりと視線を向け、おじいちゃんは言う。
「ん。そうだね」
素直に頷くわたしに軽く頭を下げ、おじいちゃんは城壁の外で待機するレグナートへと目を向ける。
「それとそのドラゴンですが、なんとかなりませんか。兵がだいぶ怯えております」
おお、確かに。おじいちゃんの言うように、レグナートをぐるっと取り囲んだ兵たちは、然りとて攻撃するわけでもなくへっぴり腰で槍やら杖やらを構えていた。……このまま放っといてもいいんじゃない? ま、ここはおじいちゃんの顔を立てておくか。
「レグナート、ちょっと待ってて。自衛は構わないけどそれ以上は駄目」
「ぐる」
簡単に指示を出すと、大きく頷いてみせるレグナート。ほんと賢い子だね。
「ありがとうございます。皆、聞いての通りだ! そのドラゴンには決して手を出さぬよう! 後から来た者にもしかとその旨申し伝えよ!」
声を張り上げ命令を下すおじいちゃん。その姿は実に堂に入っている。さすがは宮廷魔術師筆頭。
「――では参りましょうか」
わたしはおじいちゃんの後に続いて部屋を出る。扉が完全に閉まりきった時。
「魔女だー! 魔女が攻めてきたぞーーー!!」
愚王の絶叫が聞こえた。……遅すぎるだろ。あと魔女って呼ぶな。




