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 俺の名前は八原颯太(やはらそうた)。都心からだいぶ離れた某県の高校に通う十七歳彼女募集中だ。

 その日、俺はいつものように登校して、授業を適当に聞き流した後部活動に勤しんだ。俺の所属するサッカー部は結構強豪で、その分所属する人数も多い。当然レギュラー争いは熾烈を極め、それでも俺はなんとか実力と策略とコネと運でもってこの度めでたくその座を獲得したのであった。

 喜びに浮かれる帰り道、突然目の前が真っ白になった。くそっ、部活で頑張りすぎたか? などと考えているうちに視界は元に戻り、しかし俺は訳のわからない場所に立っている自分に気がついた。

 神殿? みたいなところの中心に立っていて、周りには白いローブを着たおっさん達が十数人。

「ようこそお出でくださった勇者殿。儂はオレンマラ・トウル王国の宮廷魔術師筆頭、ナイダ・アイガと申します」

 中でも一際偉そうなじいさんが話しかけてくる。

 この状況は……どうやら俺は、最近はやりの異世界召喚に巻き込まれたらしい。


 そのじいさんに連れられて向かった城で、俺は王様と対面した。無駄に待たされた挙げ句、偉そうなしゃべり方をする嫌な奴だったとだけ言っておこう。あ、あと、なんだか知らないけどやたらと俺のことを警戒してるふうだった。

 その後俺を喚び出したじいさん――ナイダ・アイガに詳しい話を聞いて、まあ詳細は省くけど、俺ってばやっぱり勇者らしい。勇者! 俺くらいの歳になるともう恥ずかしくて大声では言えないけど、やっぱり男子たるもの勇者という響きには憧れる。口に出しては言えない遠い昔に諦めた将来の夢ベストテンに余裕でランクインだ。

 ところがその地位を蹴った変わり者がいたらしい。俺の前任にして俺が喚び出される羽目になった原因、浅井藤花というらしい。まあ女子には勇者の良さが理解出来ないのかもしれない。いつだって女は、男のロマンを莫迦にして鼻で笑うのだ。

 まあそれはいい。百歩譲って勇者の地位を蹴ったことは水に流そう。おかげで俺が喚ばれたわけだしな。

 許せないのは、そいつが魔王の側に付いたことだ。民を苦しめ世界を滅ぼす魔の国の王。悪の権化。よりにもよって、そんな奴の側に付くなんて。しかもその女、去り際に城を破壊し、王様に全治三秒の大怪我(矛盾した言い方だけど、魔法のあるこの世界ではごく当たり前の表現らしい)を負わせたそうだ。そんで今じゃ魔女として死賞金首。許せねえ。

 そんなわけでその女、浅井藤花は俺の討伐対象ランキングの第二位にランクインした。第一位はもちろん魔王の野郎だ。


 一通りの戦闘訓練を終えた俺は、盛大なパレードに見送られて魔王討伐の旅に出た。王様は俺に、伝説の武具一式(聖剣とか光の鎧とかそんないかにもなやつ)と、旅の供として剣士と神官と魔術師をつけてくれた。

 それに関しては感謝しているが、文句もある。なんで付き人が全員男なんだよ!? しかもどいつもガチムチ。俺にそっちの趣味はねえ。いたってノーマルだ。空気読もうぜ、王様。こういうのは最低一人は美人な女がいるもんだろ。なんてむさ苦しいパーティーだ。ああ、筋肉より花が欲しい。誰か俺の荒んだ心を癒やしてくれ。

 まあしかたない。こういう場合の王道としては、帰ってから王女様と結婚だ。一緒に冒険出来るんならその方がよかったが、国で俺の無事を祈ってるってパターンも悪くない。ようは魔王の野郎をぶっ殺しさえすればいいのだ。そうすれば俺は、勇者で英雄で次期国王様だ。


 意気揚々と旅を進めた俺たちは、国境のダンジョンを越えた先に広がる森で魔物と戦っていた。理由は俺を実戦に慣れさせる為。確かに実戦がいきなり魔王とかいうのは勘弁してほしいから、俺は素直に参謀役の魔術師の案に従った。

 はっきり言って魔物は雑魚だった。剣士、神官、魔術師の三人がかりでなんとか一体を斃している間に、俺は易々と数十匹の魔物を斃すことが出来た。訓練中も思ったがさすがは勇者、ぶっ飛んだチート性能だ。

 そんな俺を、彼等は絶賛した。さすがは勇者様、と口々に褒め称え、結構いい気分だ。ま、ちょっとわざとらし過ぎる気がしたけど、大した訓練も積んでない俺が強すぎて、やっかみでも混じってたんだろう。

 念のため森に住んでいる全種類の魔物と戦い、そのどれもに余裕で勝利した俺は、もう十分と判断して敵のアジトたる魔王城を目差したのだった。


 待ってろ魔王、すぐにその首たたき落としてやる。そして俺は、英雄で次期王様だ!

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