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君と僕の空白を埋めるミッション。~幼馴染と宇宙で、二度目の初恋を~  作者: 舟津湊


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3/3

#God's perspective


その部屋には、退屈と好奇心が飽和していた。


午後の日差しがカーペットに長い影を落とし、マリオカートの軽快な電子音が、誰にも聞かれることなく虚しく響き続けている。


ソファの上、五歳の男の子と女の子は、もう画面を見てはいなかった。


ほんの数分前までコントローラーを握りしめていた小さな手は、今、お互いの「未知」を探り合っている。

それは無邪気な「お医者さんごっこ」の延長線上にある、深淵で広大な世界。


静寂。


いけないことだ。

幼い二人はそれを十分に知っている。

いけないことは、許されないことではない。


二人ぼっちだから。

今、許されるこの空間、時間の中で、その寂しさと、「得体のしれないなにか」で二人の間を埋めずにはいられなかった。


そして驚く。自分たちはどうすればいいか、を考えるまでもなく、二人の体が勝手に動くことを。

まるで自分たちが生まれるずっと前から、それが「約束ごと」であったみたいに。


男の子の戸惑いと、女の子の少しの勇気。

男の子の少しの勇気と、女の子の戸惑い。


交錯しながら、儀式は続く。


そして、子供の語彙力では到底説明できない感覚が、二人を駆け抜ける。

世界から切り離されたような、二人だけの浮遊感。溶け合うような万能感。


この瞬間、ユイとタクヤは、二人だけが知っている「世界の秘密」の共犯者になった。


やがて、自分たちの預かり知らない「事情」が二人を現実に引き戻す。

海を越える距離が二人を物理的に分かつことになったからだ。


それからというもの、二人はそれぞれ、秘密の部屋にある幻の宝を探すように数多く「愛のようなもの」を経験し、同じ数だけそれは失われてきた。


それは無駄な人生経験のようにも見えたが、絶望感と飢餓感が、再び二人が向き合うチャンスを与えることになる。


〇


かつての少年と少女は、大学、大学院へと進み、JAXA、NASAとそれぞれの場所で、空を目指した。


なぜ宇宙を目指す?

それはわからない、でも。

「あのとき」感じた、なにものかが、別々の空の下にいる二人を突き動かしていたからだ。


勉強、訓練、研究。

黙々とそれをこなしていく。


埋まらない心の穴を埋めるかのように、知識と技術を詰め込み、やがて二人は地球上で最も狭き門――NASAの宇宙飛行士候補生として、ヒューストンのオフィスの通路で再会を果たした。



「君は……ユイ?」

「た、タクヤ……なの?」



視線が合った瞬間、止まっていた時計の針が、まるで心臓の鼓動のように、再び動き出した。


〇


そして今。


二人は地上四〇〇キロメートルの彼方にいる。


与えられたミッションコードは「Eden」。


巨大宇宙ステーションの建設や火星への移住を見据えた実験だ。

極秘裏に行われるその実験目的は、「無重力環境下における生殖活動の可能性と、人体および心理状態の反応データの収集」。


人類にとって責任重大なミッションではあるが、NASAから候補生の打診に対し、二人は示し合わせ、快諾した。



宇宙船のハッチがロックされ、完全な密室が出来上がる。

窓の外には、圧倒的な闇と、青く輝く地球。


重力という束縛から解き放たれた二人の身体は、羽毛のように軽く、空間を漂う。

五歳のあの日と同じように。


上下も左右もない世界で、二人は愛し合う。

五歳のあの日と同じように。



そして、気づく。

これまで地球上のどんなベッドで、どんな相手と試しても得られなかった「あの感覚」が、今、蘇ってきていることに。

二人の言葉で言えば、「こらえられない、なにか」「なんだかわからないもの」。

その正体がなんなのかは、依然としてわからない。

二人はそれをこれからも追い求めていくだろう。


でも、なぜその感覚が蘇ったのか?

二人は営みを通してそれを実感する。


それは、ユイとタクヤの二人ぼっちがもたらした必然だ。


窓の外に広がる、頼るもののない絶対的な、「二人の孤独感」。


行き先がわからない。だからこそワクワクでめまいがするほどの「二人の冒険心」。


そして何より。

目の前にいるのが、タクヤだから、ユイだからという「二人だからこその安心感」。


――あのときと同じだ。


ユイの、タクヤの、脳裏にセピア色の光景が蘇る。


あの日、誰もいないリビングで感じた、世界から見放されたような、けれど世界で一番安全な場所。

そこで二人は、一つになった。


まさに、今。


二人の愛は波紋のように広がり、船内に収まらず、やがて宇宙の真空へと溶け出していく。


それは、数十年越しのランデブー。


二人は抱き合ったまま、ゆっくりと回転し、青い星を見下ろした。



「ねえ、ずっとここにいようか?」


「NASAが許してくれるかな?」


「大丈夫。だってここは、二人ぼっちの秘密の園(エデン)なのだから」



-了-

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― 新着の感想 ―
  "大人"のお話と思いきや、やっぱりロマンチックな物語。 本当に短いお話の中にたくさんの気持ちがこもっている舟津先生の作品には、いつも胸がキュンとなります。
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