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六影相剋――目覚めたら荒野だった記憶喪失の剣士は、六大勢力の争いの中で世界の歪みと向き合う  作者: いぬぬっこ
第二章 影醒

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第十四話 影走の結末 ── 名と布石

遠くの町の北端、敵の部隊が民衆を盾に力を誇示していた。

白黎は剣を抜かず、内功で場を整える。

空気の流れ、力の波、民衆の恐怖の震え、敵の呼吸――すべてを読み取り、局所的に歪みを断つ。

燕秋は屋根伝いに進み、敵の動線を誘導する。

剣も拳も、無駄には使わない。影として、意思を通すだけ。

民衆は知らぬ間に守られ、敵は混乱し、力の波は局所で途切れる。


夜半、正派の施設では内部抗争が起き、若手門弟の内功が場を歪めた。

白黎は踏み込み、剣と内功で流れを正す。

燕秋は人の動きを読み、最小限の力で全体の流れを制御する。

正派、邪道、中立――すべての勢力が見え、流れを読み、介入する白黎はもはや単なる影ではない。

意思を持った存在として、江湖を動かす。


剣は無駄に振らない。斬る、止める、また斬る。

最短の線で、敵の動きを断ち、戦力を奪う。

燕秋も連携し、殺さず戦力を封じる。

動きは無駄なく、完璧な呼吸と内功の巡りが支えていた。


一体、二体と幹部が迫る。

白黎は剣を構え、微細な呼吸と重心の移動で攻撃を逸らす。

燕秋は高台から飛び降り、敵の進路を攪乱する。

白黎の内功は水のように滑らかで、敵の干渉を受け流す。

剣は姿勢が崩れた瞬間に初めて動き、敵の意識の隙間を突く。

斬る、止める、また斬る。

最小の動きで最大の結果を得る。


民衆は恐怖で動けない。

だが、白黎の意思が通る場所では恐怖は抑えられる。

内功の波が静かに広がり、局所的に秩序を生む。

江湖の均衡は、影走の者の意思によって僅かに揺れ、しかし崩れない。



白黎の脳裏に、過去に奪われた村や救済された命、黄昏の戦いの光景がフラッシュバックする。

自分は何者か、影としての役割は終わったのか――

意思を持った存在として立つ意味は何か――

硝子の瞳が揺れる。


燕秋はその気配を察し、言葉をかける。

「考えるな、白黎。体が動けば、意思は後からついてくる。」

その声に、白黎の肩が少しだけ緊張を緩める。


赤霄原の高台に立つ白黎。

燕秋が静かに囁く。

「ここまで来たら、あとはお前次第だ。」


白黎は無言で剣を握り、内功を全身に巡らせる。

意思の一閃が、江湖全体の歪みに届く。

眼下では小規模な衝突が続くが、局所的に流れは白黎に制御されている。


次々に現れる幹部たち。

黒革の戦装束を纏い、暗い力の波で周囲を押し込む。

白黎は呼吸を整え、全身の筋肉を緊張させずに内功を集中させる。

砂塵が微かに舞い、影のように敵の動きを止める。

燕秋は屋根伝いに縦横無尽に移動し、敵を誘導する。

白黎が斬る場所は最小限。

だが、敵の連携は完全に崩れ、戦力は半分以下になる。


剣先が跳ね、燕秋の手首が光る。

連携攻撃は完璧で、敵の攻撃は白黎の読みの外に出ない。

血は流れず、戦局は完全に支配下にある。

白黎の内功が流れるたび、敵の動きは遅れ、燕秋の影走が敵を分断する。

民衆は静かに後退し、戦場の焦点は二人に集中する。



心理的緊張が頂点に達する瞬間、白黎は自分の存在意義を再確認する。

影として生き、意思を持つ者として立つ――両者は相反するようで、この瞬間に融合する。


燕秋の目が揺れ、無言で合図を送る。

「行くぞ。」

白黎は小さく頷き、剣を構え直す。


遠くの崖に、黒革の戦装束を纏った男の影。

破軍――かつて白黎が利用された術の中心で目を見開いた男だ。

瞳が赤霄原に差す月光に光る。

距離は遠い。だが存在の圧が江湖の一角を震わせる。


燕秋がそっと耳元で囁く。

「奴はまだ全てを知っているわけではない。だが、間違いなく、お前を待っている。」


白黎は視線を崩さず、深く息をつく。

硝子の瞳に決意が宿る。


「俺の名は……白黎」

声は静かだが、確かに届く。

自分の意思で世界を見据える名として。

千年眠り、影として存在した者は、ついに意思を持つ者として、江湖に立つ。


夜風が荒野を撫でる。燕秋が影のように寄り添い、二人はゆっくりと前へ歩き出す。

月光は荒野を白く照らす。江湖は依然として濃い影に包まれている。

しかし、白黎という意思が通った場所では均衡が生まれ、歪みは部分的に癒えた。


破軍の影は遠い。だが確かに、未来に繋がる布石となった。

江湖は動き続ける。正義でも、道でも、力だけでもない――

白黎という影が意思を持って歩むことで、新たな秩序が生まれる。


燕秋が囁く。

「行くぞ、白黎。」

白黎は剣を握り直し、前を見つめる。

硝子の瞳の奥には、迷いのない光。

江湖は未だ動き続ける。

だが、影走の者が一歩踏み込むことで、世界は少しだけ救われ、同時に新たな戦いへの布石も打たれた。

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