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六影相剋――目覚めたら荒野だった記憶喪失の剣士は、六大勢力の争いの中で世界の歪みと向き合う  作者: いぬぬっこ
第二章 影醒

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第十二話 影醒の深淵

朝霧の中、白黎は山道を進んでいた。前方には薄紫色の霧が低く立ち込め、視界を遮る。燕秋は少し後ろで、足音を抑えるように歩きながら囁く。「ここから先は、江湖の中心に近い。正派も邪道も、中立も、皆が影を潜める場所だ。」白黎は無言で頷き、剣を鞘から軽く抜き、内功を巡らせる。霧の中、わずかな振動、呼吸、草の擦れる音も見逃さない。


山を越え、谷を下ると、小さな町に着いた。瓦屋根は朝日を受けて鈍く光るが、街は静かだった。人々は日常を装うように動くが、視線には微かな警戒が残る。燕秋は指先で白黎の肩に触れ、低く告げた。「あの角の建物が天衡流の出先会所。情報のハブになっている。」白黎は目を細め、入口の門番、屋根の上の警戒者、道を行き交う人々の動きを一瞬で整理する。静かなる観察。影として、意思を持って動く準備は整っていた。


会所に近づくと、内部の動きが見えた。門弟が複数、書類を運び、修行者が演武場で体を動かしている。だが、目立たないところで緊張が漂う。燕秋が囁く。「何かが歪んでいる。表の秩序に隠れて、力が動いている。」白黎は無言で前に進む。内部の空気、呼吸の流れ、内功の残滓、すべてが異変を告げていた。


建物に入ると、正門を守る門弟が一瞬身構える。白黎の黒影剣法はまだ表に出ていないが、その存在感だけで警戒を呼ぶ。燕秋は一歩後ろで腕を組む。「影として出るなら、今だ。」白黎は剣を握り、内功を巡らせた。目的は戦闘ではない。歪みを探し、流れを調整すること。


会所内の中庭で、正派の門弟と、中立勢力の使者が対峙していた。言葉のやり取りは表面だけで、視線と内功の波が互いにぶつかり合う。白黎は影として、その中心に立つ。呼吸を整え、剣先でわずかに地面を踏む。微かな振動で流れを読む。燕秋は後方で手の内を確認し、必要なら調整する。


突然、異変が起きた。中立の一人が、密かに正派の書類を奪おうと動く。白黎は瞬時に反応する。剣を抜き、最小限の動作で進路を遮断。内功で微かな圧をかけ、行動を逸らす。誰も傷つけない。だが、意思は明確に示される。影としてではなく、意思を持つ者として、結果を作る瞬間だ。燕秋は息を潜め、状況を監視する。「完璧だ。まだ影だが、意思の色が差した。」


その後、建物内で異変の原因を探ると、邪道・玄影の影が間接的に介入していたことが判明した。文書の不正操作、内部の混乱、全てが玄影の意図した歪みだった。白黎は剣を鞘に戻す。目立たず、しかし、意思で流れを断つ。燕秋は肩をすくめる。「玄影か……ここまで直接的に力を使わずに歪みを作るとは。影の勉強になる。」


夕方、会所の屋上で白黎と燕秋は向き合う。遠くの山脈に夕陽が落ち、赤霧が谷間を染める。燕秋が言う。「今日の流れ、理解できたか?」白黎は無言で頷く。意思を持った影として、力を見極め、介入し、調整する感覚。これまでの戦いとは質が異なる。守るべきもの、見守るべき流れ、そして、踏み込むべき瞬間。すべてが重く、しかし確かに手に触れる感覚があった。


夜、町の宿で二人は休む。白黎は剣を膝に置き、内功を静かに巡らせる。燕秋は火の向こうで地図を広げ、小さく笑う。「次は東域、清談派の学都だ。正派・邪道・中立、それぞれの意図がもっと濃くなる。」白黎は無言で剣を握り直す。意思を持った影として、江湖の深淵に足を踏み入れる覚悟を胸に刻む。


翌朝、霧が山間を覆う中、白黎は剣を鞘に戻す。燕秋が囁く。「今日の影醒、忘れるな。力の流れを止めるだけじゃなく、意思を持って介入する。これが江湖で生きるということだ。」白黎は静かに頷く。黄昏の選択で芽生えた意思は、影としての自分に深みを与え、江湖の深淵で試される準備を完了させていた。

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