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大分県立丹生嶋高校 武装工作員襲撃事件 ー武装JK斯く戦えりー  作者: メガネ2033


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2/2

事態急変

 地下に続く階段をふさぐように設置された鉄柵の前にたどり着くと、私たちはスカートの右のポケットから学生証を取り出して壁に取り付けられたセキュリティ端末にかざす。

 

 BEEP。


 機械音と共に電子ロックが解除された鉄柵を押し開いて校舎の階段を下り、分厚いコンクリートで覆われた地下を二人で進んでいく。

 この物々しい構造にした理由は、湿気に弱い武器弾薬を保護するためと教わったが、保安上の理由が大きいことは誰の目にも明らかだった。


 薄暗い廊下を進んで武器庫の扉をくぐった時、私達を出迎えたのは予想した通り西城君だった。

 

「西城君、お疲れ様。相変わらず早いね」


 私が声を掛けた時、西城君は既に武器庫から警備装備を引っ張り出して、短機関銃の弾倉に弾を込めているところだった。


「あれ? 南部会長も望月副会長も早いね。俺はさっき天城大尉に召集命令を受けたばかりだったんだけど」


 警備装備として導入されたドイツ製の短機関銃UMP9は、警察が使うMP5短機関銃に比べて大幅に安いこともあり、全国の学徒防衛隊に大量配備されている。

 ……というのは西城君からの受け売りだ。私は詳しいことはよく分からない。


「私達も一緒だよ。スマホの連絡アプリにも連絡来る前だったから、武器庫のカギを開けないといけないかなぁと思ってきたけど、西城君がいてビックリだよ」


「教官にちょうど会えたからね。三船(みふね)も途中まで居たけど、生徒会室の鍵開けに向かったから今頃は防衛隊の通信機器の調整をやってるんじゃないかな」


 どうやら三船君も一緒にいたらしい。

 同じ生徒会で会計を担う三船悠真(みふねゆうま)は、結構な無線マニアで自宅に短波無線機があると聞いたことがある。その経験を買われて防衛隊では、無線通信全般を掌握する通信担当として活躍している。

 

 そして、どうしてかは不思議で仕方がないが望月ちゃんの彼氏でもある。


 馴れ初めとかは聞いたことがないが、どうやら幼稚園時代からの幼馴染らしい。

 活発少女を絵に描いたような望月ちゃんに対して、どちらかと言うとオタク気質な三船君が恋仲にあるというのは、どうにも不思議な感じがしてならない。


「悠馬は生徒会室かぁ。あいつのことだから、今頃は無線機に噛り付いてるんだろうなぁ」


 三船君について語る望月ちゃんはいつも緩んだ表情を浮かべている。付き合い始めてもう半年になるはずなのに、付き合いたてのカップルのような空気がまだ抜けない。

 いや、これが普通なのかも知れないけど、私は恋愛の経験がほとんどないからよく分からない。


 始めての彼氏は小学生時代にいた釘宮(くぎみや)君だったが、恋愛なんてよく分からない年頃で周りの雰囲気に押されて付き合っただけだから、全く当てにならない。

 もちろん、形だけの恋愛などそう長く続くわけもなく、三ヶ月も待たずに自然消滅している。


「まぁ、でも三船の無線技術はスゲェよな。特小無線からUHFまで何でも使えるから、通信担当があいつで俺は心強いよ」 


 西城君は関心したしたように頷いた。彼は基本的に何でも出来るからか、自分よりも優れた技術を持つ人へのリスペクトが強い。

 成績が優秀でも変に驕ったりしないのが、西城君の美点だと思う。


「いいや、あれは絶対オタクなだけだよ。私と話しても機械とか無線とかの話しでめっちゃ早口になるし。まぁ、好きなことが役に立つっていうのは羨ましいけどね」


 冗談めかした感じで、望月ちゃんが笑ったちょうどその時、室内の電気がフッと消えた。


「え?」


 その声が誰の口から発せられたのか。

 余りに一瞬の出来事だったことで、何が起こったのか理解が追い付かない。


「これ停電か? 予備電源は?」


 西城君が短機関銃にセットアップしたウエポンライトのスイッチを押した時、室内に灯りが戻った。

 時間にして一瞬の出来事ではあったが、学校警備のほとんどを監視カメラを含む機械に頼っている以上、停電はあってはならないことの代表格だった。


「念のため、生徒会室に行こう。あそこなら警備状況や外部の状況も手に入るよ」


 私は先輩から引き継いだばかりの、緊急時マニュアルを思い出しながら指示を出すことに集中した。


「分かった。冬華はこういう時に一番頼りになるからね。西城君も行こう」


「あぁ、俺も望月副会長に賛成だな。武器装備だけは持って行った方が良いだろうけどね」


 西城君が実弾を込めた弾倉を短機関銃に差し込みながら立ち上がる。

 流石に槓桿は引いていないから比較的安全とは言え、先ほどの停電は警戒レベルを上げる理由としては充分すぎた。


「確かにそうだね。まずは警備装備を装着するのが先決だね。望月ちゃんもそれでいい?」


 あれだけ防弾ベストを着るのを嫌がって見せた望月ちゃんだったが、異常な状況に危機感を覚えたのか素直に頷いて装備の着装を始めた。


 私も防弾ベストとチェストリグなどの装備を一通り身に着けてから、短機関銃と拳銃を手に取る。

 定期整備で細部までメンテナンスが施されたUMP9は、全ての点で完璧に動作してくれている。こういう時は普段の自分の勤勉さに感謝したくなるものだ。


「あぁ会長! お疲れ様」


 声をかけられて視線を上げると、防衛隊に所属する生徒たちが続々と武器庫に入ってくるところだった。


「お疲れ様。みんなも召集命令を受けたの?」


「おう。さっき天城教官から装備着装の上、第二種警戒態勢での待機命令を受けたんよ。それにさっきの停電のせいで今校内は大騒ぎだよ」


 防衛隊の腕章を付けた男子生徒が、興奮気味に語った校内の様子に違和感を覚えてしまう。


「大騒ぎって……ちょっと大げさじゃない? そりゃあ私達みたいな防衛隊の生徒にとって停電は厄介ごとだけど、一般生徒にとっては大したことじゃないでしょ? すぐに予備電源に切り替わったわけだし」

 

 望月ちゃんが不思議そうな表情で答えると、その生徒は驚いたようすで口を開いた。


「会長も副会長もニュース見てないん? 今、大分市内の火力発電所が爆発したって話題で教室は持ちきりだよ」


 爆発。

 なるほど、それが停電の原因だろう。火力発電所での事故など聞いたことはないが、あの辺一帯は製鉄所などの工業地帯が広がっているから、怪我人などが出ていなければいいけれど。


「ありがとう。私達は生徒会室で情報収集をするから、警備地点で何か異変があったら無線で連絡ちょうだい。無線機には三船君がしっかり張り付いてるはずだから」


「了解。まぁ何もないと思うけど」


「うん。私もそう願ってるけど、一応警戒はしっかりね」


 彼との会話はそこで打ち切り、私たち三人は急いで校舎へと続く階段を駆け上った。


 武器庫を出て本校舎の三階まで階段を駆け上り、西側に増築された校舎別館にある生徒会室へとひたすらに走り続ける。


 全力疾走したせいか、生徒会室前にたどり着いた時には既に額に汗が浮かんでいた。

 厳しい残暑の中で、重たい防弾ベストを着こんだままの階段ダッシュは流石にしんどい。隣で荒い息をつく望月ちゃんもげんなりとしている。


「あっ、やっときたね。早速で悪いんだけど良くないニュースがあるんだ」


 大型無線機の前に張り付いていた三船君がこちらに気付いて振り向いた。本来は大柄な彼だが、猫背で作業することが多いせいか、実際よりも小さく見える。

 普段の彼であれば、好きな無線機を前にして楽しそうな表情を浮かべているのだが、今日の彼にはそれがない。


「火力発電所の爆発事故のこと? それならさっき武器庫で聞いたよ」


「違う。あれは事故じゃないよ」


「えっ? それどういうこと?」


 問いかけた望月ちゃんの表情は不安に満ちていた。きっと私も同じような表情を浮かべていたと思う。


「どうもテロか何からしいんだ。警察無線を傍受してるんだけど、さっきからG配備って単語が頻度に出てる。感度が悪いからよくは聞き取れないんだけどね」


 テロとは穏やかではない。

 そして今になって思い出したが、確か件の火力発電所は陸軍が示した重要防護施設の一つだったはず。万が一にもテロ攻撃などが原因の火災だとしたら、全く笑えない。


「ごめん。警察のことはよく分からないんだけど、そのG配備ってのは何なの?」


「確かG配備のG()ってのはゲリラの頭文字だったと思う。過去に京都や金沢で東の工作員が起こしたテロ事件で発令されたって聞いたことがある」


 私の疑問には、これまた深刻な表情を浮かべた西城君が答えた。彼はこの手の話をよく覚えているから、こういったときに本当に頼りになる。

 私はどちらかというと理系だからか、歴史などはあまり得意ではない。


「テロ事件って……、それヤバいんじゃない? 大分市内からここまでそんなに離れてないんよ」


「それは副会長の言う通りだけど。現実問題として、俺達にできるのは六個警備班を警戒配備地点に展開させての様子見くらいじゃないのか?」


 西城君の言うことはもっともだ。

 五人一班で編成された六個の警備班にはそれぞれの警備地点が予め定められている。


 東側の正門を守る第一警備班、西側の裏門を守る第二警備班、本校舎の正面玄関の警備を担当する第三警備班、地下の武器庫を守る第四警備班、屋上に配備される狙撃班、そして予備隊としての即応班。

 これら六班に追加して、私たち生徒会が総指揮を執ることになっている。以上、三十四名が丹生嶋高校、全校生徒300名を守る学徒防衛隊の全戦力である。


「警備班は天城教官の指示で所定の位置に配備されるはずだから、その辺は大丈夫だと思う。問題は市内の中心部でテロが起こった場合でも、応援に来るはずの陸軍歩兵47連隊が予定通りに来てくれるのかってとこじゃないかな?」


「いや、てかまずテレビとかネットとか確認しようよ! その方が絶対分かりやすいけん!」


 望月ちゃんの鶴の一声で、その場はまず情報収集を行うことで落ち着いた。


「あれ? なんかスマホ繋がらない」


「望月ちゃんも? 三船君、パソコンはどう?」


「こっちは大丈夫。二人共、スマホの調子悪いの?」


「うーん。さっきまでは普通に電波あったんだけどなぁ」


 どういう訳かスマホが繋がらないというトラブルに見舞われたけれど、取り敢えずパソコンが動けば情報収集に問題はないということにして割り切った。

 生徒会室に据え置かれているデスクトップパソコンを全員で覗き込むと、そこには沢山のセンセーショナルな記事の見出しが躍っていた。


【大分火力発電で爆発 原因不明】


【大分火力発電で大きな爆発 死傷者多数との情報】


【県内各所で停電 交通に大きな影響か】


【西部軍司令官 非常事態を布告 大分県内に軍の派遣を指示】


 見出しを見ただけでも、爆発による混乱の様子がありありと浮かぶ。

 そして、これら記事の中から決定的な一文を見つけて、思わずクリックする。


//////

【県警 爆発はテロによる可能性】


 本日14時頃、市内の大分火力発電で発生した爆発について、県警察本部は何者かによる意図的な攻撃によるものとの結論を出した。

 県警・沿岸警備隊の調べによると、出火元と見られるLNGを満載したタンカーに、爆発物が仕掛けられていた形跡があったことから、県警はこの爆発をテロによる可能性が高いとみている。

 これを受けて、県はテロ災害対策本部の設置に踏み切った。

 県警によると、この爆発で少なくとも70人以上が負傷した。

//////


「これ三船君の言った通りだね……本当にテロだなんて信じられない」


「前線は本州の真ん中辺りだってのに、こんな田舎を攻撃して何になるっていうんだ」


 私だけでなく西城君の声も心なしか震えていた。

 自分達にとって身近な場所で起こった凄惨な事件に対する恐怖と、それを行ったであろう犯人への怒りが私達を支配していたのは間違いない。


「ねぇ。こんな状態だし一回、あまぎんにも声かけて、今後どうするか話し合ったほうがいいんやない?」


 望月ちゃんの意見はもっともだったが、ほぼ同時に無線機から鳴り響いた空電が会話を遮った。


『警備一班より本部班』


 私達を呼び出したのは、警備一班のようである。正門前の警備を担当する班だが、この声は今しがた武器庫で声をかけてきた男子生徒と同じ声である。

 確かに思い返せば、彼は警備一班の所属だったと思う。


「本部班より警備一班。感銘良好。状況送れ」


 すかさず三船君がマイクを手にしてPTTスイッチを押し込む。


『先程、不審車両が正門前を通過した。白の中型バンで運転手の顔は見えなかったが、正門近くで不自然に徐行していた。一応、報告しておく。送れ』


「本部了解。近隣市内で爆弾テロ発生の情報あり。引き続き警戒せよ。終わり」


 通信を終えた三船君が不安そうな表情で私を見た。


「南部会長。武器使用に関してだけど、早めにガイドラインだけでも伝えたほうがいいと思う。テロ情報とかも入ってる訳だから、いつも通りの正当防衛・武器等防護じゃあ現場への指示も伝えずらいから」


 三船君の言う通りとは思うけれど、生徒会長というだけではそこまでの権限はない。武器使用に関しては、やはり教師たちに確認しなければ判断することが難しい。


「それは私だけでは決められないよ。望月ちゃんの言う通り、天城教官を呼んで相談するしかないかな」


 しかし、私の判断は少しばかり遅すぎたのだということを、嫌というほど実感する羽目になった。

 私が結論を伝えたと同時に、校舎正面にある校庭の方から連続した銃声が鳴り響いたのだ。


「本部班より警備一班。状況送れ」


 三船君がすぐさま無線にとりつき、さっき会話を終えたばかりの警備一班を呼び出した。

 しかし、無線への応答は全くない。


「会長! これは攻撃です!」


 西城君が叫んだのと同時に、大きな爆発音と揺れが校舎全体を襲った。

 全く予期していなかった揺れに、思わず地面へと倒れこむ。


「本部班より各班。状況を報告せよ」


『警備二班より本部。裏門側にて銃撃を受けた。現在、交戦中』


『警備三班より本部。校舎正門付近から銃撃を受けている! 敵は確認できるだけで7人。自動小銃にロケットランチャーを持ってる! 早く応援を送ってくれ!』


 ロケットランチャーだって?

 思わず顔を上げると、全員の驚愕した表情が目に入った。


 それもそのはずで、学徒防衛隊が想定する敵は主に国内で活動する共産ゲリラやヤクザ、それと生徒による銃乱射などがせいぜいで、それも警察や軍隊が到着するまでの初動対処が主な役割で訓練内容もそれに準じている。


 軍隊並みの装備を整えた敵と、正面切っての銃撃戦を想定した訓練などやったことはない。


 こんなのを相手にしては、とてもではないが勝ち目はない。


 あまりのことに無線機の前で固まる三船君からマイクを取り上げて、私は周波数を切り替えて職員室を呼び出した。


「生徒会より天城教官。私たちは攻撃を受けています! 直ぐに軍の即応部隊を呼んでください!」


『天城だ。すぐに対応するから、しばらくの間持ちこたえろ』


 持ちこたえろって……そんなの無茶苦茶だ。

 抗議しようと、PTTスイッチを押し込んだところで、再び爆発音と衝撃が襲い掛かってきた。


「今度は何!?」


 望月ちゃんの悲鳴交じりの叫びに答えたのは、今日二度目の停電だった。


「発電機が……」


 西城君が絞り出すように発した声が、何があったのかを教えてくれた。

 校舎の北側。正門から見て右手の奥に佇む予備電源用の発電機が破壊されたのだろう。


 これが破壊されてしまっては、校舎を囲む鉄柵に張り巡らされたセンサーや監視カメラは機能を停止してしまう。そして何より通信の要だった無線機も機能を停止してしまっている。


「スマホは!? 他の通信手段はないの?」


 三船君が素早く携帯を取り出したが、確認してすぐに首を横に振った。


「ダメだね。圏外になって繋がらない。調べたわけじゃないからハッキリとしたことは分からないけど、電波妨害の影響を受けてるんだと思う」


 今度は電波妨害ときたか。

 なるほど。それならばさっきスマホが繋がらない中で、有線のパソコンだけが繋がったのにも納得できる。


「マズイな。これじゃあ外部や各警備班との連絡ができないぞ。南部会長、どうしたらいい?」


 西城君がうめくように問いかける。誰もがこの異常な状況にパニックになりかけていた。


「まず、通信の確保が最優先だよ。三船君、無線機は復旧できる?」


「この大型無線機は電源が無いと動かないけど、特小無線は電池で動かせるから各班ごとの通信は何とかなっていると思う。けど、外部との通信や指揮系統の回復には、電源の復旧が必要になるかな」


 三船君は生徒会室の棚に整然と並べられた小型のトランシーバーへと視線を向けていた。

 各班をつなぐ指揮系通信とは別に、戦闘時に連携を取るために班員間でやり取りをする為の特小無線が、いまや最後の命綱になってしまったらしい。


「分かった。電源の復旧はできそうなの?」


「壊された予備電源を治すことはできないけれど、災害備蓄倉庫にある小型発電機を手に入れることができれば、無線機に使う電源は賄えると思う」


 関東大震災や阪神淡路大震災の教訓から、各学校には避難所機能を持たせるためにそれなりの備蓄品が集積されている。

 まさかそれが、校内防衛の役に立つ日がこようとは夢にも思ってなかったけれど。


「それならまず電源を確保しよう。発電機の回収と無線の復旧は三船君に頼みたいんだけど、一人で大丈夫?」


「場所も分かるし一人で大丈夫だよ。それより被害が大きい正門に増援を送らなきゃマズイんじゃないかな? 南部さんが良ければ備蓄倉庫から近いし、待機している即応班に伝令してくるよ」


「ありがとう。多分、狙撃班も今頃は正門側を援護してるだろうし、即応班が動いてくれれば警備三班もだいぶ余裕が持てると思う」


 通信を聞く限り、敵の主力は正門側に集中しているようだ。

 それに裏門側は先生達向けの駐車場になっている関係上、遮蔽物が多いから比較的至近距離での銃撃戦になるため、短機関銃を持つ私たちの方が敵よりも局所的に有利になるはずだ。


「西城君は校舎裏門側の応援に行って欲しい。生徒全員を校舎から脱出させるとしたら、それは裏門側にある対防爆シェルター(バンカー)になるから。皆を安全な場所に避難させる為にも、退路の確保をお願い」


「了解。第二警備班の援護に向かうよ。無線は持っていくから、何かあったらすぐにコールしてくれ」


 西城君は緊張した面持ちでわずかに頷きながら了解してくれた。よく見れば手に力を込めているのか、銃のグリップを握る右手の血管が浮き出ている。

 実技での腕前は並ぶ者がいないとも言われた、西城君ほどの人でも緊張するのだと思うと、私も少しだけ冷静になれた。


「望月ちゃんは、各学級委員達と連携して一般生徒の避難誘導をお願い。裏門側の安全確保が完了次第、地下の対防爆シェルター(バンカー)へ生徒を避難させなきゃ」


 太平洋戦争の教訓から、各学校などの公共機関には爆撃に備えた防空壕の設置が義務付けられている。有事の際はそこに退避して救助を待つというのが、いつもの避難訓練のシナリオだった。


 ろ過設備などは備えていないので、核兵器への防御力は限定的だがその分で浮いた予算を活用して、スペースの拡張に成功しており、五百名もの最大収容人数を誇る巨大な防空シェルターを地下に築くことに成功している。


 例え対戦車ロケット弾をもってしても、航空爆弾にも耐えうる厚さ三十センチもの対爆扉を破壊することは出来ないはずだ。


 最大の問題は、校内から直結で行ける武器庫とは違って、校舎の外に出入口があると言うことだ。

 本校の場合は、広大な敷地を必要とする地下施設となる都合上、倒壊する建物などがない校庭の真下に設置されている。

 地域住民の受け入れも想定した作りのため、校舎裏側の駐車場付近に入口を設けたことが、この瞬間には裏目に出てしまっている。


「オッケー。訓練通りだから大丈夫だね。武器庫にある訓練用の小銃とかはどうしよう?」


「本来は封鎖して退避しなきゃだけど……敵の武器を考えると、小銃や機関銃も投入しないととても勝てそうにないから。無線が回復しだい警備四班に搬出を指示しようと思う」


「それあまぎんに許可とらなくて大丈夫? 後で怒られるんじゃない?」


「うーん……望月ちゃんもその時は一緒に怒られてくれる?」


「真面目な冬華らしくはないけど、それだけヤバいってことだもんね。オッケー、全部終わったらみんなで一緒に怒られよう!」


 自分も怖いだろうに、望月ちゃんは気丈に笑って見せた。

 そんな彼女の存在は、初めての実戦を前にして、恐怖と不安にさいなまれていた私に大きな勇気を与えてくれた。


「南部会長はどうするん?」


「私は正門を守る警備三班の援護に行ってこようと思う。怪我人が出ているのなら、私が助けに行かないと」


 医学の道を志してからというもの、戦闘時の外傷救護訓練には人一倍真剣に取り組んできた自負もあるし、何よりも助けを求める人の為に出来ることをしたいという気持ちが強かった。


「指揮官が最前線かぁ……まぁでも、南部会長らしくていいと思いますよ」


 三船君は笑って手に取ったトランシーバーを私達に手渡してくれる。これで私達四人の間での通信は確立された。

 指揮官の私が第一線で仲間を救いたいという、本来は有り得ないわがままを快く聞き入れてくれる。

 つくづく私は生徒会の仲間に恵まれたと思う。


「よし。絶対にみんなで生き残ろう」


「「「おう!」」」


 私達は返事と同時にそれぞれの目的地に向けて飛び出して行った。


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