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大分県立丹生嶋高校 武装工作員襲撃事件 ー武装JK斯く戦えりー  作者: メガネ2033


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プロローグ

 高校二年生の秋が始まった。 

 生徒会の仕事をやっていると、一般生徒よりもより色濃くそういった空気を感じるのだと思う。


 生徒会総選挙を終えて、晴れて生徒会長の座を勝ち取ったは良いが、書記で終わった一年生の時に比べて今年はやらなければいけないタスクが山ほど残っている。

 偉大な先輩たちから引き継ぎをこなしていく内に、毎日があっという間に終わってしまう。


 そんな状況だからこそ、私こと南部冬華(みなべとうか)は目の前でゾンビのようになっている少女の気持ちもよく分かっているつもりだ。


冬華(とうか)、今日めっちゃ暑くない? もう私なんか溶けそうなんやけど……」


 訂正。

 よく分かっていなかった。ゾンビ少女こと望月遥(もちずきはるか)の考え方が読めるなど、私もそうとう自惚れていたみたい。


 望月ちゃんとは小学校の頃からの親友で、昔から何をするのも一緒だった。現に私が生徒会長に立候補した際は、二つ返事で副会長としての立候補を引き受けてくれている。


 けれど、感覚肌の彼女の考えを読むことは何年一緒にいても本当に難しい。


「溶けるなんて、望月ちゃんはいつも大袈裟だよ。確かに人体は六割が水でできてるけれど、これくらいの温度では溶けないよ」


「えぇ……ホントかなぁ。冬華が言うならそうなんやけど、私はやっぱりアイスみたいにドロドロに溶けそうなんやけどぉ」


 望月ちゃんはしおれた花束みたいになって、暑さをアピールしている。

 まぁ、確かに今日はいつにも増して日差しがキツイ。丹生嶋市(にゅうじまし)は沿岸部だから風は吹いているが、この気温ではほとんど熱風だ。全然ありがたくない。

 しかも九月だというのに、今年はいつまでたってもセミが鳴いている気がする。


「ほら、聞いた? セミ! セミ鳴いてるんだよ。九月の大分で! あいつら一週間の命じゃないの? めっちゃ長生きじゃない」


 耳ざとくセミの声を聞きつけた望月ちゃんが、これ見よがしに街路樹を指差して抗議していた。

 気持ちは分かるが周囲の生徒の目が痛いから、ちょっと止めて欲しい。


「南部に望月か。……望月は何やってんだ?」


 低くその癖よく通る声。声の主は顔を見るまでもなく分かった。


「天城教官。お疲れ様です」


 陸軍から派遣されてきた私達の指導教官。天城恭平(あまぎきょうへい)大尉だ。

 国防の授業を専任で担当するだけあって、国の防衛政策などの座学は私のような門外漢の女子高生にも分かりやすく教えてくれる。


「あまぎんお疲れ様! 私は今溶け始めてたところだよ」


「お疲れさん。てか、何でもいいけど望月はその『あまぎん』っての止めてくれ。お前だけだぞ、俺をそんな呼び方するのは」


「えぇ……じゃあ何て呼べばいいん?」


「いや、普通に天城教官でいいだろ。何も悩むとこじゃないぞ」


 天城教官は強面だが、こういうイジリを受けても怒ることなく困った顔をして受け流す。本当に良い先生だ。


「天城教官かぁ……なんか堅苦しくない?」


「おう、人の名前に文句があるなら聞こうじゃないか」


「うそうそ! 天城教官、今日は急に声かけてきてどうしたん? 何か用があったんじゃないん?」


 笑顔が引き攣った天城を見て、望月ちゃんが慌てて話題をそらした。


「ん、そうだ。お前たち、朝のニュースは観たか?」


 朝のニュースというにはキー局が軒並み報じる全国ニュースのことだろうか?

 私の家はご飯の時はテレビ禁止なので、朝のニュースというのは観た試しがない。そういう情報は父が読み終えた後の新聞か、通学途中の電車内で見るスマホのネットニュースで仕入れるしかない。


「私は見たよ。京都で最近、新しい形態の猫カフェが流行ってるんだって! やっぱり首都のお店は田舎と違って進歩しちょるよね」


 なにそれ。私も行きたい。

 でも、教官が言いたいのは絶対にそのニュースではないと思う。


「いや、そのニュースじゃない。不審船だよ。昨日は津久見市の沿岸付近で目撃情報があったらしい。沿岸警備隊からの注意喚起が当校にも届いたって訳だ」


 不審船。


 最近、沿岸部でたびたび目撃されている小型船のことだ。

 当初は同盟軍(アメリカ)の特殊工作船や海軍の警備艇を見間違えたのではないかと噂されたが、いまでは東側の工作船だというのが一般的な考えだ。


 太平洋戦争終結後、ソ連の不法な南進によって日本は東京近郊をおおよその境界として、二つの国に分断された。


 ソ連が支援する日本民主主義人民共和国と、アメリカが支援する日本国。

 この二国が日本列島の上に存在するいびつな状況が、七十年に渡って続いている。


 日本史の先生ではないが、これは日本民族にとって悲劇的な状態だと思う。朝鮮やドイツのように統合できる機会があれば良かったが、ソ連が勢いをとり戻した今となってはそれも難しい。


 ともあれ、今は不審船の話だ。


「その顔はニュース見てないな? まぁいい、そんな事情もあって西部方面軍から第二種警戒態勢をとるようにとの通達があったんだ。お前たち学徒防衛隊には武器・装備の着装が許可されてるってことだ」


 第二種警戒態勢とは穏やかではない。

 これはもともと軍内部の警戒レベルを表す指標であったが、各学校での国防教育に陸軍教育総監部が大きくかかわるようになってから、武器庫などの防護を目的として学生にも影響するものへと変節を遂げていったのだ。


 学徒防衛隊は陸軍から貸与される武器や学校施設警備の為に発足した制動で、当初は国防教育を担当する陸軍士官に指揮権が与えられる手はずになっていた。

 しかし、「学生を軍の指揮下に置くべきではない」とする文部官僚の激烈な抵抗を受けて、指揮権は各学校の担当教諭に与えられることになったという歴史がある。


 まぁ、実際の現場では軍事のことなど分からない教員が、派遣されてきた陸軍士官に指揮を丸投げしているという悲しい現実があるのだが……、それはまた別の話である。


 第二種警戒態勢が発令されたからには、校内各所の機械警備を作動させて、武器庫を含めた重要警備地点に武装した歩哨を立たせる必要がある。

 当然、学徒防衛隊に割り振られている生徒は授業に出席することなく、警戒任務に就かなければならないのだから、たまったものではない。


 因みに私たち生徒会は、学徒防衛隊へ強制的に加盟させられている。

 幸いにも私は運動やら戦技やらは得意なようで、自分でも意外なことに、これを苦だとは思ったことがない。それに救護訓練などは将来に向けても良い練習になる。


「えぇ……、今日めっちゃ暑いのに防弾チョッキ着たくないよぉ。あれ重いし、武道場みたいな臭いするし」


 望月ちゃんがとっても嫌そうな顔をしている。

 機動力重視の戦い方をする望月ちゃんは普段から重たい防弾チョッキを嫌っているが、今回は暑さも相まってか一段と嫌そうだ。


 一応、学生が使うことに配慮されてか軍隊が使用する防弾ベストよりは軽量にできてはいるが、マグナム弾を含めた拳銃弾を止めることができるNIJ規格でレベルⅲAのベストが軽いわけがない。


「お前なぁ、軍ではあれでもだいぶ軽いほうなんだぞ。軍の使ってるプレキャリじゃあライフル弾を止める為のプレートが入ってるから、もっと重たいんだからな」


「重たいことには変わりないやん。それに前線からこんなに離れた場所の学校で、鉄砲持って警戒したところでカラスくらいしか来ないやん」


 望月ちゃんのぶっちゃけた物言いに、軍人の天城がいつ怒りだすかと内心で冷や冷やしたが、彼は苦笑いを浮かべただけだった。

 内心では彼も同じことを考えていたのかもしれない。


「まぁいいさ。警戒レベルが上がったからには、別府の歩兵47連隊が施設警備のために出動するだろうから、彼らが来るまでの辛抱だ。暑いかも知れないが我慢してくれよ」


 天城はそれだけ言い残すと、職員室の方へと去っていった。よく見れば彼の背には既に小銃が吊り下げられていて、私達を見つける前に武器庫から装備を搬出し終えていたのだと気付いた。


「さぁ、私達も武器庫に行こうか。多分やけど西条(さいじょう)君とかは真っ先に駆け込んでるんじゃないかな」


「西城君はまじめやけんなぁ。実技系はめっちゃ上手いし、将来は軍人さん一択やろうね」


 同じ生徒会で書記を務める西城君は、望月の言う通り戦技の成績がトップクラスだ。

 防衛隊の活動がしたくて生徒会に入った口のようで、普段の生徒会活動は最低限の労力で済ませようとするが、防衛隊の活動となると誰よりも生き生きと活動するのだ。


 以前に理由を聞いたら、父親が陸軍の空挺部隊に務めているらしい。自分の親の仕事にあこがれるのは、私も同じだからよく分かる。


「冬華はお医者さんになるんでしょ? ちゃんとあまぎんの誘いは断れたん?」


「あぁ……、なんとか断れたかな」


 私はそのことを思い出して思わず溜息をつく。

 医学の道を志していたが、国防の授業成績が良かったようで天城教官から軍への入隊を勧められていたのだ。

 進路で医大や看護学校を志望していると聞きつけた天城から、士官学校への推薦の話をもらったが熟考の末に固辞していた。


 人を助ける仕事という意味では、軍人も医者も一緒だと言われたが、それでも人の命を奪う可能性がある職に就こうとはどうしても思えなかった。


「そっか。あまぎんは残念がっただろうなぁ。でも、南部ちゃんはきっと立派なお医者さんになれるよ。私は応援しちょんよ」 


「ありがとう」


 望月ちゃんのこういうところには本当に助けられている。

 彼女の何気ない応援の言葉は、弱気になった私の背中をいつも押してくれるのだ。


「それ! 南部ちゃんは笑っている時が一番可愛いよ」


 望月ちゃんがはじけるような笑みを浮かべながら、私に抱きついてきた。


「もう! あまりくっついたら暑いよぉ」


 彼女の無邪気な笑顔を見て、私は胸の内に抱いた少しの不安を忘れて一緒に笑いあった。



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