第百五十四話 名将、的場ユリ
VTECエンジンの快音を響かせながら、私たちのチームのフィットは再び周回を重ね始めた。無論、イレギュラーによるピットストップを挟んでしまっていたので、順位こそクラス12位、総合でも15位くらいまで落ちてしまってはいたが、大体アクシデント前と同じぐらいのペースで走れているようだった。
「ふう・・・・よかった、よかった。あと2周あのまま頑張れ!」
ほっと胸を撫でおろしたユリはそんな事をボヤいていた。
そんなユリに、私は一つの疑問をぶつけてみた。
「ねえ、ユリ。そういえばなんでそのまま莉緒に行かせてたの? どっちにしろ莉緒の出番は、さっきの時点であと4周だったし、あのタイミングでユリにチェンジでもよかったんじゃないの?」
「ん~、私も一瞬そう考えたんだけど、アタシはみんなでいい思い出になる方で考えたんだ」
いい思い出・・・・?と首をかしげていると続けて
「よく子どもなんかが、自転車の練習しててコケても、辞めさせずにそのまま練習させる方が上達早いって言うじゃん? そのノリよ。もし、あのまま走らせるのをやめさせてたら、壁にぶつけて嫌な思いだけが残っちゃうじゃない? アタシはそんなの嫌だし、莉緒だって走らせ方凄く上手な子だからさ、そのまま走らせてしっかり経験として上書きできる方を選んだのよ。その方がきっといい思い出になるしね」
あくまでただの競技としてのパフォーマンスだけでなく、『みんなで思い出に残る、楽しいレースを』という観点でユリは、この裁量を取っていたのだ。
やはりこの子は天才肌だし、キレものだ・・・・心から私はそう感じた。
「流石はリーダーだよ、ユリ・・・・本当凄いと思う」
「ふふふん、でしょう? さ、あともうちょいで私の出番来るし、アタシはぼちぼち準備するわ」
一瞬ニヤッと笑ってこちらを見てから、ユリは控室の方へと向かっていった。
そしてレースもいよいよ、後半戦へと進んでくる。
続く。




