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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
最終章―楽園の覇者―

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437/623

やっぱり魔石は美味しいっていう話。



明けましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願い致します。



魔石グルメ5巻の予約が各書店様や通販サイト様ではじまっております。

今回も五万文字以上の新規書下ろしを加えた自信作です。楽しんでいただけますよう精いっぱい仕上げた一冊となっておりますので、どうぞよろしくお願い致します。

 ◇ ◇ ◇ ◇




 ――――王都。アインが十二層に足を踏み入れたのと同時刻。

 法務大臣フォルス公爵が頂きに立つ法務局の一室にて。ディルは一冊の資料を片手に、もう一方の手に紅茶の入ったカップを持ち、器用にページをめくっていた。

 そんな彼の背に声をかける者が居た。



「ディル護衛官殿」


「これはフォルス公爵」


「王太子殿下がご所望だという情報は見つかりましたか?」


「さて、どうでしょうか」



 フォルス公爵はディルから何も聞いていない。彼が知っているのは、王太子アインの命令によりディルが調査で足を運んだという事だけであった。



「ところで、公爵のご子息が法務局を離れると聞きましたが」


「ええ、来年より王城へ参ります」


「ウォーレン様付きの見習いになるとか」


「そうなります。幸いなことに宰相閣下より推挙を頂けたもので」


「つまり……未来の宰相ですね」


「末尾に候補(、、)と付けるべきでしょう。レオナードより勤勉で、才に溢れた存在が在野から発掘されるやもしれません」



 するとフォルス公爵は遠慮がちに笑った。



「王太子殿下ほどの逸材が現れたら、とは思っております」



 彼の努力を近くで見てきたディルからすれば、非現実的ですらある。

 過剰にアインを崇めるわけではないが、アインと同等の逸材が居るかと考えると、可能性を否定するわけではないが頷ききれなかった。



「――――さて」



 資料の最後のページが終わった。

 ディルの表情からは何か必要な情報があったように見えない。

 だというのにディルは満足げだった。

 探るように、フォルス公爵は鎌をかけるように言う。



「本来であれば持ち出しは許可できないのですが、今日はお持ち帰り頂いても」


「いえ、もう十分ですよ」



 ディルはそう言って資料を棚に戻した。



 それから彼は、腕時計に目を向ける。

 どうしたもんか、少し悩んでいるようだったがフォルス公爵に頭を下げた。



「ご協力いただきありがとうございました」


「もうお帰りに?」


「ええ、アイン様へメッセージバードを飛ばしてから別の仕事に向かおうかと」


「そうですか、では王太子殿下へもどうぞよろしくお伝えくださいませ」


「承知致しました」



 フォルス公爵と別れたディルが廊下に出る。先ほどまで読んでいた資料の事を考えながら、アインの指示の意味を今更になって理解していた。



「あの短い間に、これほどの推測を打ち立てておいでだったとは」



 はじめて会った頃のアインは確か七歳……いや、八歳だったかもしれない。

 当時から敏い少年ではあった。

 けど、これほどの成長を遂げるであろうと予想したことはない。

 ウォーレンから下される命令には、どうしてそこまで考えられるのかと呆気にとられることだらけだ。今回のアインからのそれにもまた、よく似た感情を掻き立てられる。



「さて……顔を出してから行こう」



 どうせ城に寄る必要があるのだ。

 先に彼女へ顔を見せなかったことを指摘されると思うが、些細な問題だった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




「すぅー…………」



 アインが目を伏せがちに息を吸った。

 腰に手を当てると、面前の光景から目をそらして振り返る。



「アレ、ヤバくない?」



 背後から聞こえてくる咀嚼音を聞こえないふりをした。そんなアインと目を合わせたクリスが、引きつった笑みを浮かべて言う。



「魔物の数ですか? それとも――――あの、異様な共食いでしょうか?」


「どっちも」


「……ですよね」



 足を踏み入れた大部屋は、このダンジョンの外周にそぐわないほど巨大だった。

 十一層と比べてもさらに数倍は大きくて訳が分からない。

 仕組みを探ろうとは思わないのは、もうこんなのは今更だからだ。



 問題はクリスが口にしたように異様な光景にある。



 百に届きそうな数の魔物たちは、すべてが例の虫によく似た魔物だ。

 問題はそのすべてが互いを襲っていることに尽きる。

 ある魔物は別の魔物を食み、ある魔物は必死に鎌を振り回して生き残ることに必死だ。



 また一体、また一体と倒れていく。

 群がった魔物が死体をあっという間に食い荒らす姿には、さすがのアインも言葉を失ってしまう。



「マルコ殿、いけるかしら」


「お望みとあらばいくらでも……ただ、状況が変わりそうです」



 彼の視線の先で、虫の魔物に異変が生じつつある。

 倒れた魔物を食べた個体の体躯が変貌しつつあったのだ。

 簡潔に言うと全身が大きくなっている。禍々しく光を反射する鎌は更に鋭く。百足を思わせる下半身は更に長くなっていく。



 つづき、成長した個体同士で共食いがはじまる。

 勝利した個体が敗北した個体を食み、更なる巨躯へと変貌していく。



 そしてもう一度――――もう一度と同じ行動が繰り返される。

 こうなってしまうと、残りは早い。

 一体の強力な個体が生まれて間もなく、あとの残った個体は捕食されるだけだ。



「……アイン様」



 まだ対処しないのかという意思を込めてクリスが呼んだ。

 実のところアインは、脅威に感じていないから様子を見ていたのだが。



 ツッ――――。

 不意に肩に落ちてきた水滴に、手を添えた。

 高い天井を見上げるも何かいるわけではない。

 雨漏りか水漏れと思ったが、そんなことが発生する場所でもない。だったら何だろうと少し疑問に思ったのだが、所詮は水だろう。



 そろそろ倒して先に行かなければならないから。

 あまり見たくない光景に目線を戻したアインが見たのは、元の身体の数倍は巨大になった魔物の姿だ。



「でっか!?」


「だからアイン様……早いうちに倒しておいた方が良かったんですよ……」


「でかいのは問題じゃないんだ。あんなでかい虫たちが共食いしてる光景が少し衝撃的だっただけだよ」


「もー……大丈夫なんですよね?」



 愚問だ。



「大丈夫」



 決して余裕ぶっていたわけじゃない。

 正直、嫌悪感を抱く光景だったのは事実だが、油断していたわけではないのだ。

 あくまでも、あの所業の先にどのような魔物が誕生するか確かめたかっただけで、力の差は戦わずして察しが付いた。



 ――――ピチャッ。

 何やら生々しい水滴が肩に滴る。

 またか。

 アインが肩に触れると、またなんてことのない水気があった。



「なんだろうね、この水」



 剣を抜いてから振り返りながら言った。

 するとアインが見たのは、魔物の方を向いて驚く三人の表情だ。

 正確には、三人の視線は天井に向いている。



「あらあら……」



 困った声色で言ったのはマジョリカだが、アインは状況が分かっていない。

 聞くより前に魔物の方へ視線を戻す。

 天井を見上げると、何やらよろしくない雰囲気を感じる。何か重さに負けて弛んできた天井からは、少し勢いよく液体が滴っているではないか。

 当たり前だが魔物も警戒している様子だ。



「すぅー…………」



 最初のように息を吸ってから、一歩、二歩と後ずさる。

 とてつもない質量の水が流れ出てくることが容易に想像できた。



 だが、一行が逃げようと思ったのとほぼ同時だった。

 天井が勢いよく崩壊し、球状の液体が落ちて魔物を包み込む。

 水? 違う、あれは――――。



「奴は魔物ですッ! アイン様は我らの後ろへッ!」



 マルコとクリスが勢いよく前に出た。

 恐らく現れたのはスライムだ。

 特筆すべきはその大きさと、身体の中で虫の魔物を消化していること。

 スライムの体内で、辛そうに泡が生じている。

 だが数秒もすれば巨躯ごと溶かされて、その泡も消え去った。



「ッ…………!」



 マルコの踏み込みが深くなり、一瞬のうちにスライムとの距離を詰める。

 時を同じくしてスライムの全身の色が変わりだした。鋼色で、なんとも堅牢そうな色に変化していった。

 スライムの魔石はその軟体の上部にある。飛び上がったマルコは、魔石の周囲が鋼色になる前に剣を突き立てようと試みた。



 交錯した剣と鋼の軟体。

 鉄を切り裂くような音と共にマルコの剣が突き立てられた。



(硬そうだ)



 アインが冷静に分析していた。

 というのも、マルコの表情が少し曇ったからだ。

 しかし無事に魔石は砕くことが出来た。



「リジェネーターね」



 そう言ったのはマジョリカだ。



「えっと……そのリジェネーターっていうのは……」


「古い魔物よ。個体数も少なかったから文献も少ないの」


「一応聞いておきたいんだけど、魔石を破壊したら大丈夫だよね?」


「魔石を破壊された個体は息絶えるわ。でもね」



 小首を傾げ頬に手を当てるマジョリカは、何やらつづきを聞くが減退する雰囲気を醸し出していた。



「アレ、魔石が砕かれても周囲に魔力があると再生するらしいのよねぇ」


「あははっ、マジョリカさんったら。……そんなの、人為的に魔力を漂わせなきゃ出来ませんよ?」



 こんなところでポンコツっぷりを見せるな。

 クリスの意見に足りない点を思い出して、アインは思わず頭を抱えた。



「クリスが言う通り、普通ならそうなるはずよ。けど問題なのは――――」



 そう、問題はただ一つ。



「ここって、空気中の魔力が外と比較にならないのよねぇ」



 これだ。ならどうやって倒すべきなんだろう。

 完膚なきまでに砕く? それとも何か別の方法で……。

 考えていたアインにマジョリカは追撃を仕掛ける。



「あ、殿下。勘違いの内容に言いたいのだけど、アレ……砕け散った魔石の数だけ再生するわよ」



 ふざけるなとアインがもう一度頭を抱えた。

 すると間もなく。



「お? なんかすげえ魔物がいるぞ」


「落ち着け、あまりむやみに攻撃を仕掛けるのは推奨できん」


「いいわ! 私たちの力であいつも討伐してやりましょ!」



 背後から聞こえてきた冒険者たちの声。

 やって来たのは、例によって探索中の複数のパーティだった。



「すぅー…………」



 アインはもう何度目か分からない、深い呼吸をした。

 このまま一度撤退する、残念だがこれにはあまり安心感がない。

 リジェネーターは天井を破って降りてきたわけで、つまり、この大部屋を出て追ってくる可能性だってあるわけだ。

 同時にアインたちが力を振るった際には、冒険者たちが邪魔になる。



「マジョリカさん、リジェネーターを完全に倒す方法ってある?」


「あるわよ」


「よーし決心が付いた」


「アイン様ぁ……天井を見上げてますけど……本当にやるんですか……?」


「逃げたら冒険者が危なそうだし、仕方ないよ」



 命を捨てるような職種の冒険者ではあるが、目の前で命が奪われる様子は見たくない。

 だからアインが決めたのは。



「マルコッ!」


「はっ! 存じ上げておりますッ!」



 アインの足元から太い木の根が生じ、崩落した天井の上へ延びていく。



「魔物寄せの香水でも使いましょうか?」


「……何時間ぐらいつづくの、それ」


「六時間ぐらいかしらねぇ……」


「つまり六時間ぐらい戦いっぱなしになるわけだ」



 背に腹は代えられない。リジェネーターを自分たちの下におびき寄せるにはぴったりの戦略だ。

 今からもうげんなりしてきたが、クリスも仕方なそうに十二層を見上げている。



「行きましょうか……」



 彼女の声を切っ掛けにアインが走り出す。

 木の根を登る最中、魔物寄せの香水を振りまかれながら。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 六時間後、香水の効果が切れた頃。

 ようやく終わったと息をついたアインが、十四層の大広間で腰を下ろした。



「も、もうスライムは十分です……」


「クリス……スライムじゃなくてリジェネーターだよ」


「どっちも同じです……」



 ふらふらと、体力の限界を迎えたクリスがアインの膝の上に倒れこんだ。

 やがて規則的な寝息が聞こえてくる。

 すぅ……すぅ……。

 油断しきった寝顔をアインの方にだけ向けて、安心しきった様子だ。



「仕えてる立場でそれってどうなのかしらね」


「俺は気にしてないよ。そもそもクリスの立場って色々複雑だし」


「ふぅん、複雑……確かに複雑ね」


「色々とね」



 男女の意味でも、以前と比べてその傾向は強い。

 あとはクリスの血筋にもよる。彼女は仕えるような立場にはないからだ。でもそれをマジョリカに言える訳もないから、アインはとりあえず疲れを癒すために体を休めた。



「殿下」



 カランカランと音を立てて床に落とされたいくつもの魔石。それらはすべてコバルトブルーの鮮やかな魔石で、アインが意識して呼吸すると爽やかな香りが漂ってくる。



「食べたい?」


「食べる」


「即答ねぇ、じゃあどうぞ」



 一個、無作為に選ばれた魔石がアインに手渡された。

 彼の掌の上に置かれると、少しずつ、色が失われていく。



「あ、これすごい。大好きかも」



 良質なフルーツという言葉では言い表せない、甘美で味わい深い果汁のアロマ。

 何か多くの果実の味が入り混じっているようにも思えるが、最も強く味覚を刺激して止まないのは、メロンによく似た甘さと風味だ。



 それでいて、シュワッ! と刺激感もある。

 ソーダを思わせる炭酸の刺激が心地いい。



 後に抜ける清涼感が見事だ。



 自然とアインの喉も潤っていく。

 今までの疲れがすっと消え去るようだ。



「美味しそうに吸収するじゃないの、殿下ったら」


「実際に美味しいからね。なんかこう……王城で楽しむ豪勢な果実の盛り合わせとも違うんだ」



 たとえるならば、そうだな。



「夏場の港町マグナ近くの砂浜に、横になれる椅子を置いて傘を立てる。そこで穏やかな海を眺めながら飲む、良く冷やされた果実のソーダ……! って感覚。それが絶品の一杯だから、更に嬉しいって感じ」


「最高じゃない。それだけで達成感があるわね」


「でしょ? まぁ、マグナ近くの砂浜でそんなのしたことないんだけどさ」



 あくまでも想像だよ、アインはそう言って笑った。



「アイン様はもう少しそのままお楽しみくださいませ。私が野営の支度を致しますので」


「私も手伝うわよ」


「これはこれは……感謝致します」


「まだ休んでていいよ。マルコも疲れてるでしょ?」


「確かに疲れはございますが、私の場合、眷属の力によりアイン様のお力を分け与えて頂いております。なのでアイン様がご休憩なさる方が効率的かと」



 そう言われると納得せざるを得ない。

 この一瞬でよく思いついたもんだとマジョリカは口笛を吹いた。

 当然、アインも迷いながら「分かった」と答えた。



「ほら殿下、お代わりを置いておくから好きなだけどうぞ」


「……あ、ありがと」



 二人が仕事をしている横で休むのも気がひける。

 でも先ほどまで、戦闘中に最も活躍したのはアインなのだ。



 リジェネーターの倒し方は単純明快で、魔石を傷つけずに体から引き離すこと。

 こうすれば再生しないのだ。

 普段はしない戦い方で疲れを催したのは致し方ないこと。

 とは言え良い勉強になったのも事実である。



「はぁ……美味しい……」



 とりあえず、せっかくだから休ませてもらおう。

 野営の支度風景を見ながら、アインは残る魔石を掌に載せた。



今日もアクセスありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちゃんと魔石グルメしてる!
[一言] どんな蟲毒が完成するかと思ったら 凶悪なスライムと大混戦かあ
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