神隠しのダンジョンの変化。
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視線の先、神隠しのダンジョンの異変は皆の興味を誘う。
地面から突き出た結晶はアインが生み出す根のようにうねり、神隠しのダンジョンの外周に纏わりついていた。色はこれまでの白や半透明と違い、サファイアのように美しい青色だ。
ところで結晶の高さを見ていると、なんとなく既視感がある。
(十階層ぐらいだ)
だから大した高さではないが、昨日までの件との関係を予想した。
たとえばあの結晶が、踏破されたところまで伸びた証とするならばどうだろう。誰がそんな仕組みを用意したのかはこの際どうでもいい。そもそも、あんな巨大なダンジョンに細かいことを言うのも今更なのだ。
アインはこの予想をすると同時にげんなりした。
どれだけの階層を踏破すれば最上階にたどり着くのだろうと。
「私たちが行けたところまで伸びてるのかしらねぇ」
「恐らくそうではないかと、私もマジョリカ殿に同意します」
「あっ、私もです。仕組みは分かりませんけど……たとえば十階層を一区切りとすれば、その区切りの階層のさらに上の大部屋を制覇した場合に、結晶が伸びてくると予想できますので」
(…………おぉ)
アインは全員が同じことを考えていたことにさらに納得した。
つづけてクリスが自分以上の予想をしていたことに対し、思わず彼女の横顔を眺めた。
さすが近衛騎士団長。
見事な洞察力だと素直に尊敬の念を抱いたのだ。
「むぅ」
クリスが不満げに唇を尖らせてアインを見る。
「もしかして、私の言葉が予想外だったんですか?」
「逆だよ。俺なんかよりよっぽどすごい予想だったから、素直にすごいなーって思ってただけ」
すると彼女は疑いもせず、パァッと明るい表情を浮かべて上機嫌に歩く。軽快で、これからピクニックにでも行きそうな足取りですらあった。
それを見たアインも微笑ましくなったが、まずは先ほどの予想をマジョリカと語り合う。
「あの結晶って、最後には一番上まで届くのかしら」
「めっちゃ先が長い話だ……」
「これだけの高さだものねー、仕方ないわ」
ふっ、と。
歩いていると不意にすれ違う仮面の少女、セラ。
彼女は昨日と違い困っている様子だ。
その証拠に「面倒なことに――――」と不満げに呟いていたのだ。
「どうしたのさ」
「あっ……殿下、昨日ぶりだね」
「うん。で、何か悩んでるみたいだけど」
「悩んでる……そーだね、ボクは悩んでたんだと思う」
「で、どうしたの?」
別に指摘はしないがクリスたちから見れば、今のアインは少し無遠慮に思えた。
いつもならもう少しゆっくりと距離を詰める性格をしているのに。
今はどうしてか違って見えたのだ。
「ボクにとって絶妙に相性が悪い問題が発生しちゃってね。どうしたもんかなーって考えてたんだ」
「……内容は?」
「言えない。だから余計に困ってるってとこ」
じゃあ解決も何もないと、すぐ傍で聞いていたマジョリカが肩をすくめた。
けどアインは違ってまじめに頷くと。
「仮に俺が手伝える話なら、いつでもどうぞ」
頼もしい口調で言い切ったのだ。
「助かるよ。英雄と謳われる殿下となら相性がいい話だと思うから」
「相変わらず要領が掴めない話だけど」
「不満だった?」
「普通なら不満だろうけど。俺は君に恩があるから」
「あははっ! 昨日のことなら気にしないでいいのに。お金だって貰ってるわけだしねー」
アインは鼻で笑うように「そっか」と言って歩き出した。
「頼みたくなったらいつでもどうぞ」
「危険なことかもしれないのに、そんなことを言っても平気なの?」
不敵に。
あとは試すようにセラは強気に言った。
「……まぁ、そのあたりの匙加減は任せるから」
投げやりとまではいかずとも、主体性に欠けている言葉だ。
前を歩く彼を追い、クリスは「もー! いつもそうなんですから!」こう口にして呆れた。マルコと言えば仕方なそうに口角を上げている。
「あ、殿下殿下、中に入ったら面白いものがみられると思うよ! ――――どう面白いのかは見てのお楽しみってことで!」
◇ ◇ ◇ ◇
今日も今日とて、巨大な塔の中に足を踏み入れる。
以前同様、青白く光る石材に覆われた回廊が広がっているはずだった。
だが、違う。
あるのは巨大な円状の広間だ。床の中央には魔法陣と文様が金色の何かを用いて描かれている。
高さは……数十メートルぐらいだろうか。
一際目を惹いたのは、円の壁側に沿って伸びる階段だ。
螺旋を描いて上へ上へ延びていき、最後は天井へ延びる一直線の階段に合流する。天井には正円状の穴が設けられていて、次の階層へつづいてる様子である。
「良かったわね、殿下。上の階層に行くのが楽になったわよ」
「最高だね。あくまでも細かい事を抜かせばの話だけど」
「……ほ、ほんとに不思議なダンジョンですね! アイン様!」
「クリス……無理に気遣ってくれなくていいから……」
さて、冒険者の中には面食らっている者もいるようだ。
それでも先を進み、すでに上の階層に足を踏み入れている者もいるらしく、螺旋状の階段を軽快に進んでいく者の姿もある。
不意に耳に届いた会話によると、上は昨日、マルコが討伐した魔物たちが居た大広間につづいてる様子だ。
「俺たちも行こうか」
「あら、いいの?」
「ここにきてしり込みするような話でもないし、不思議なのも今更だからね」
もうこの程度で警戒する段階にはないと。
暗に告げたアインが、誰よりも先に一歩を踏み出した。
◇ ◇ ◇ ◇
意外と冒険者たちって協力的なんだな――――。
上の階層、十一層にやってきたアインが一人納得していた。
大部屋を除く小部屋などで、今日も冒険者たちによる狩りが行われていた。彼らはいくつものパーティが協力して、魔道具や装備を惜しまず戦っている……ようだ。
ようだ、というのはアインが実際に目にしたからではないからだ。
補給を務めるパーティというのが居て、その面々から聞いた話に過ぎない。
狩りは順調で、色々と珍しいものも手に入っているそう。ちなみにシルヴァードが欲していたモノに関しては、ギルドを通して褒章を出すと告げているので安心だ。
「旦那ッ!」
と、昨日の冒険者がマルコに声をかけた。
「昨日はすまなかった! あんたが居なかったら俺たちはきっと――――」
「構いません。我が主にとっても、そして私にとっても有意義な情報が得られましたから」
「だとしてもだ。これは感謝の品ってことで……受け取ってもらえないか?」
「……これは?」
マルコが受け取ったのは、こぶし大の赤銅色の石だ。
さすがのマルコも価値を見出せず、思わず眉をひそめたのだが。
「宝箱に入ってたんだが詳細は分からない。けどこれを持っていると、あの虫共の動きが鈍くなんだよ」
この情報には興味を抱いた。
「――――ふむ」
「コレ、金属ではないみたいね。ただの石っころに見えるわ」
「金剛がそう思うのも無理はねえ。だが何があるか分からないダンジョンだしよ」
「そうね、情報は一つでもあったほうが良いわ。あと、私の事を金剛って言うのはやめなさいな」
すると最後に冒険者は笑い、大きく頭を下げて走り去ってしまう。
まだこの階層の攻略予定があるのだろう。
「なんでその異名で呼ばれたくないの?」
「脳筋みたいじゃない……この私に似合ってないわ。これもすべてカイゼルのせいよ。あのむっさい男が言い出したから広まった異名なんだから」
(カイゼル教官が元凶だったのか)
「いい迷惑よね。私もカイゼルに何かあだ名でもつけてあげればよかったわ」
「帰ったら付けよっか。面白そうだし」
「いいわね、何なら陛下からいただく褒章をそれに使っても良いわ」
そう言ったマジョリカの顔からは、決して冗談だけではないという意思が伝わってきて止まない。
「でも、さっきの階段が出来た時って、中にいた冒険者たちはどうしたのかしらね。いきなり壁も床もなくなったわけじゃない? それであんな階段と穴が出来ちゃって、落っこちたりしなかったのかしらね」
「大丈夫だったみたいだよ。ゆっくりとした変化だったから逃げる余裕があったってさ。さっき冒険者が話してるのを聞いた限りだとね」
「あらそうなの。その変化とやらを見たかったわね」
「俺も見たいから、次は……二十一層だとして、そこの大部屋を制圧したら待ってみよっか」
マジョリカは「いいわね」と言って頷くが。
当然、クリスとマルコは難色を示して頭を抱えた。
何はともあれ先の話だ。
アイン一行が十二層へつづく階段を発見したのは、それから数時間後のことだった。
物語の進行がゆっくりになってしまっていますが、年末進行という事でどうかご容赦いただけますと幸いです。
さて、2019年もお世話になりました。
今回のお話で今年最後の更新となります。
次の更新予定日は1月2日(木曜日)ですが、三が日というのもありまして、更新できなかった際にはご容赦ください。
また、その際はtwitterにて告知して参ります。
来年も結城を、そして魔石グルメをどうぞよろしくお願い致します。




