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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
二十七章―天資英明―

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乖離。



先日からお伝えしていましたが、原作4巻とコミックス1巻が

【11月9日】に同時発売となります!

原作4巻はそれはもう新規で書き下ろしまして、

web版で物足りなかった箇所は徹底的に改稿を加えました。

範囲としては冒険者の町バルト編となり、マルコとの戦いも描かれます。

成瀬先生の挿絵付きですし、

web版でお付き合いいただけている方にも楽しんでいただけるように

頑張って仕上げた一冊となっておりますので、

ご予約の方、どうぞよろしくお願いいたします。

 アインが竜人のすぐ傍に腰を下ろすと、彼女はぽつりと語りだす。



「――――しかし、変な子よの」


「俺がですか?」


「そうじゃ。前に見た時とは別人のように見えるし、一目見て分かる自信を漂わせておる。何がお主のことを変えたんじゃ? たかが数日、たかが数か月。仮に数十年経とうとそれが穏やかなだけの日々であったのなら、お主のようにはなれん」



 すると彼女は小さく笑って。



「ま、勘じゃけどな!」


「ええー…………勘だったんですか」


「うむ! じゃが儂の勘もそう馬鹿にはできんぞ。幾度となく上位者にちょっかいを出されたときだって、勘頼りに命を拾ったこともある!」


「はい? 上位者?」


「読んで字のごとく、儂よりも強い奴らのことじゃ」



 ふぅ、と息をつく竜人。

 古い記憶を探るように目を伏せて、それでいて頬を少し引きつらせて。

 彼女はどこまでも自然体にアインを驚かせつづけた。



「儂はこの大陸よりも大きな龍を殺したこともあるし、古い神族を屠ったこともある。じゃが上位者どもは別格じゃったのう……。強さを過信してちょっかいを出したことは、今でも夢に見るほど後悔しとる」


「あれ、ちょっかいは出されたんじゃ? その言い方だと、先に手を出したのは貴女みたいですけど」


「こ、細かいことを気にしてはならんのじゃ!」



 彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめ、不貞腐れた様子で唇を尖らせた。

 アインはそれを見て笑い、話を変える。



「でも信じられません。神様が負けるような相手なんて」



 この時はあくまでも、神という絶対的な存在が負ける相手を疑うように言った。しかし実際は、アインは竜人の強さをよく知っている。彼女が勘を頼りにやっとのことで命拾いしたと言われても、まったく信じられなかったのだ。



「――――世界は広いということじゃ」


「俺にはこの大陸と……隣にある大陸だけが世界です」


「ほう? 海を渡ったところに島があるなんて、よう知っておったのう」


「は、母上から聞いていたんで!」


「シルビアが? いつの間にそこまで調べて……まぁ、あ奴なら不思議ではないか」



 思わず口走ってしまったが、シルビアのおかげで難を逃れた。



『お主は遠くの世界を見たいと思うか?』


『興味がないと言ったら嘘になりますけど、すぐに行きたいとは思わないです』


『む?』


『俺にはこの国に家族がいますし、するべきことがありますから』


『それは悪くない考えじゃ。お主は儂と違って家族がおるんじゃし、それを大事にするのは素晴らしいことよ』



 ふと、マルクはきょとんとした顔を浮かべて彼女を見る。



『貴女の家族はどこにいるんですか?』


『さてな。家族(リクァ)と離れてから数千幾年、どこで何をしておるのかも分からん。生きておるのかすら知らぬ』



 家族仲が悪かったのかとマルクが思う。

 しかし、実際はそうではなくて。



『別に仲が悪かったわけではないのだぞ。単に儂が故郷を嫌っていただけじゃ』


『聞いてばっかりなんですけど……どういう場所だったんですか』


『おかしな場所じゃよ。常に覇を競い合う同胞が居て、それを当然と思う友たちが居た。あの地を楽園(、、)と謳う馬鹿者ばかりで、儂は生まれながらにして価値観が合わんかったのう』


『な、なかなか珍しい場所だったんですね』


『じゃろぉー? じゃから儂は見限ったんじゃが、それを許さぬ掟があった』


『ならどうやって故郷を離れたんですか?』


『なんじゃ気になるのか。そんなの決まっておるじゃろうに』



 高笑いをした彼女からは、マルクが感じたことのない覇気が漂っていた。細胞そのものが敗北を悟るような力強さと、世界そのものが彼女を祝福しているような強さに満ち溢れている。



『奴らが言う楽園を、この儂が滅ぼしたからじゃ』


『ッ――――!?』


『ち、違うぞ! 別に快楽主義のように戦ったわけではない! あくまでも、儂が去ることを認めぬ奴らが襲い掛かってきたから……それから逃げるためにじゃからなッ!?』



 しかしマルクは頬が引きつるのを止められなかった。



『まったく、どうして儂が引かれなければならんのじゃ!』


『え、えぇっと……何と言いますか』



 反応に困っていたが、何とか「どうしてそんなに強くなれたんですか?」とアイン(、、、)が言葉を紡いだ。

 不意にじんとした頭痛が一瞬、アインの脳裏を駆け巡る。



(今のは)



 頭痛の理由を探るも、そんなのはお構いなしに竜人が言う。



「もともと強いからに決まっておろう」


「え」


「儂は生まれながらにして強かったからの」



 あとは時の流れに任せて生き、その強さは磨かれてきたのだと。

 アインからしてみれば少し理不尽に思えてならない。



「故郷を離れるまで努力をした記憶もない。ただ心の向うままに生き、躍れるものだけを欲していた。自分から強くなろうと思ったのは、故郷を離れてからじゃったな」



 彼女はそう言って立ち上がった。

 それまで静かにしていた木霊たちが名残惜しそうに、されど、いつものように朗らかな笑みを浮かべたまま宙を舞う。



「さて、儂は儂の仕事に戻ろうか」


「ママー! 今度はいつ会えるの!」


「いつ!? いつ会えるの!?」


「次はちょっと時間がかかるかもしれん。よくて百年、あるいは数百年じゃ」



 長い時間会えなくなることに、木霊たちが悲しむかと思いきや。



「じゃあすぐだね!」


「うん! 待ってるから!」



 と言って、あっという間に飛び去ってしまった。

 百年がすぐ? アインは思わず目を見開いたものの、エルフよりも更に気長な時間感覚と思えば、決して違和感はなかった。



「あるいは――――」



 竜人が神隠しのダンジョンに向かいながら。



「お主との約束のためになら、外に出てくるのもやぶさかではないが」


「あっ! ま、待ってください!」


「はっはっは! じゃあのー!」



 最後はあっという間に駆けていき、彼女は神隠しのダンジョンに足を踏み入れてしまった。

 一方、残されたアインはゆっくりと立ち上がり、空を見上げる。



 不意に訪れる耳鳴りにさいなまれたときのような、不可思議な空気に目を閉じる。五感が研ぎ澄まされすぎて目もくらむような、自分が自分ではないような、四肢が自分のものでないような感覚が身体を支配していた。



「さっきまで話してたのは……」



 思い当たる節は一つだけある。

 初代国王マルクだ。

 でも確かにさっきは自分だったという想いがアインにはあったし、自分の口ではっきりと言葉を発していた記憶がある。でも、何か違うように思えるのだ。



 自分の口から言葉がでてきていたが、その言葉が別人のものだった。

 こう思うと、違和感がない。



「意味が分からない」



 唐突な現象に対して考えが追い付かない。



「俺はさっきまで何をしてたんだ……それに、どうしてここにいるんだ?」



 すると、頭痛が頭を襲った。



 ――――『良い子じゃ。ではそうさな、お主がまた大人になったころにでもまた会うとしよう。約束を守っておったならば、儂が何か一つ願(、、、、、)い事(、、)を聞いてやろう』



 聞いたこともない竜人の言葉が、なぜか明確に思い返せた。

 思い返せたという表現が正しいかは分からないが、確かに頭の中に聞こえてきたのだ。

 やがて頭痛は収まったが、筆舌にし難い乖離感は収まることがなかった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 どうやってキングスランドまで戻ったのかは定かではなかった。

 しかしアインは、戻ってすぐに五感に変化が訪れた。



「……なんかスッキリした」



 というのも、竜人と会っていたころの不可思議なものが消え去ったのだ。いつの間にか、そんなものはなかったと言わんばかりに。



 つづけて、開墾が進んだキングスランドを眺め、大きく深呼吸をした。

 穀物の穂が黄金色に輝いて風に靡く。

 天球を覆う茜色の空と相まって、絵画的な美しさだ。



「おかえりなさい」


「あ、あぁ……ただいま」



 声をかけてきたシャノンに、少し気の抜けた返事をした。



「なによ。私に何か言いたいことでもあるの?」


「い、いやいや! ちょっとぼーっとしちゃってただけで……別に何もないって」


「ふぅん」


「――――それにしても」



 シャノンを見ると、これまで見せていなかった珍しい姿をしている。

 ごくありふれた町娘という感じではない。えんじ色のロングスカートをはいて、上には白いシャツを着て袖をまくり白い肌が露出されている。

 自慢の赤毛は夕暮れに照らされ、頬には薄く、土の汚れが付着していた。

 生まれながらの容姿の良さもあり、ただの農民にも見えなかったのだ。



「土、ついてるよ」


「ッ……ど、どこ? あ、だから私のことを見てボーっとしてたんでしょ!? 人がせっかくお出迎えしたっていうのに、ひどい人なんだから!」


「だからそういうんじゃないってば」



 仕方なさそうに苦笑して、アインがシャノンの頬に手を伸ばす。



「ほら、とれた」



 軽く拭えば元の滑らかな素肌だ。

 シャノンは手をのばされたことに抵抗もせず、どちらかと言うと呆然とした様子で受けれいていた。



「…………ありがと」


「ん、どういたしまして」


「…………あっち。マルコが貴方を待ってたから早く行ったら?」


「マルコが?」


「内容は知らないけど、帰りを待ってたわよ」



 すっと顔をそむけたシャノンがぶっきらぼうに言うも、不機嫌そうではない。



 さて、アインには帰りを待たれている理由に覚えがあった。

 今日まで、イシュタリカと袂を分かち気味に動いてきたことの目的だ。

 シャノンに礼を告げてから少し歩く。

 するとマルコもアインが帰ってきたことを察知していたようで、マルコの方から近付いてきた。



「おかえりなさいませ。お疲れのところ申し訳ありませんが、ご報告を」


「ああ、頼むよ」


「カイン様によるご助力の甲斐もあり、マルク様の悲願が達成目前でございます。残された地はわずかとなり、大陸はもはや二分されていると言っても過言ではありません」


「予定より数段早くて何よりかな」


「奴もそろそろ動くのではないかと」



 その言葉にアインは「だろうね」と短く頷いた。



今日もアクセスありがとうございました。


原作4巻とコミックス1巻の方も、どうぞよろしくお願いいたします。

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