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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
二十四章 ―戻った平穏とアインの誕生日と―

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新たな目標。




次の話から次章になります。

 アインはたった一人で港に居た。

 日が昇って間もない、周囲に人が居ない静かな時間のことだ。



 彼は桟橋で足をぶらつかせ、両隣に乗った双子の頭を優しく撫でている。



「んー……」



 ここ数日、アインの気分はスッキリとせず、ひどく曇っていた。

 夢、あるいは精神世界での、竜人とのあのやり取りが原因だ。



「……どうしたもんか、この感情」



 聞くべきことを聞けなかったから――ではない。いや、それも無視することではないが、それ以上に敗北が尾を引いていた。

 あれは言葉にするまでもない完全な敗北で、経験したことのない、力の差が歴然な戦いだった。



 相手が余力を残したままで、自分は本気。

 昔、マルコと戦う前にカインの手ほどきを受けたことはある。

 ただし、あれは戦いではなかったという前提が付く。

 そのせいもあって、はっきり言えば悔しすぎた。



「でも、神様だと思ってた相手だし」



 と、本音では残酷に吐き捨てたいが、



「そんなんで割り切れるほど器用じゃないしなぁ……あー、もう!」


「グゥウ?」


「キュルゥ……」


「あ、あぁ! ごめんごめん、ちょっと色々あったんだ」



 声に驚いた双子の額をそっと撫でる。

 すると、双子は気持ち良さそうに目を細める。

 そして数分も経たぬうちに寝息を立てた。



 冬の海辺の風は肌を刺すように冷たい。

 その冷たさが、アインが抱く火照りを癒すように頬を撫でる。



 ……双子を撫でていると、少しずつ気分が落ち着いてきた。

 アインはおもむろに上半身を後ろに倒した。

 うっすらと雪が積もった桟橋に転がって呟く。



「次の出会いに期待するしかないか」



 もう一度挑戦だ。

 だがこの前のことは偶然だったようだし、幸運が何度もつづくかと思うと半信半疑だ。



 それでもアインは願う。



「どうか神様――次こそはあの竜人に勝て……って」



 神を名乗っていたのは、竜人の彼女だったことを思い返す。

 じゃあ誰に祈ればいいんだろう? 疑問に思ったときのこと。



「服が汚れちゃうわよ? 王太子殿下」



 声を掛けたのはコートを羽織ったクローネだった。

 腰をくの字に折り、アインの顔を覗き込んで微笑みを向ける。

 灰色の空から雪が降りだしたのと同時に、海風でクローネの髪の毛が靡いた。

 艶めく髪が光を反射する様子はダイヤモンドダストのよう。



「……居た」



 アインは小さい声で言った。



「えぇっと……私のことかしら?」


「うん。居たみたい」



 祈るべき相手がここに居たと、アインが心の内で呟いた。

 一方のクローネは合点がいっていなかったが、アインの隣でしゃがみ込む。



「ここまで来てくれた女神さまに祈ってみてもいい?」


「どうして私を見てそんなことを言ってるのかしら……?」


「そりゃ、クローネが昔言ってたことだし」


「私が昔に?」


「うん。俺が海龍を倒しにマグナに行く前に言ってたよ」



 城を抜け出す少し前、カティマの地下研究室を出てすぐだったはず。

 アインはクローネと邂逅し、クローネがアインの頬に口づけをしたのだが、その際に彼女は言っていた。



「『女神の祝福』だ、ってさ」


「ど、どうしてそんな昔のことを持ち出すのよ……もう」



 クローネがアインの頬を指でつつく。

 彼女の頬は照れくさそうに紅が乗った。

 二人はそれから笑みを交わし、立ち上がったアインがクローネの手を引く。



「双子にばいばい(、、、、)って言わなくていいの?」


「寝ちゃってすぐだし、起こさないでおこうと思って」



 なるほど、クローネは同意してアインと腕を絡ませた。

 身体を密着させ、身体を預けて歩き出す。

 冷たい外気と、互いの腕のぬくもりの温度差が心地良い。



「港までは誰が付き添いを?」


「マルコよ。もう大丈夫って言って、先に屋敷に戻って行ったけど」


「あー、道理で一人だったわけだ」


「そういうことよ。それにしても、はぁ……吐息も一段と白くなったわね」



 アインは楽しげに笑う彼女を見ていると、今抱きしめたらどうなるだろう――という衝動に駆られた。



(さすがに外だしね)



 それはそれでどうかと思ったので控えたが、屋敷に帰ったら大丈夫だろう。

 クローネはそんな衝動を知ってか、ほくそ笑んでから、さらに腕をぎゅっと絡めた。



「――それで」


「ん?」


「それで、今度は何を考えているのかしら。私にお祈りしたいことがあるのよね」


「あ、ああ……何て言えばいいのか迷うけど」



 特に強く思うことはただ一つ。



「どうしても勝てない相手が居て、次こそは勝てますようにってお祈りしたかったんだ」



 勝てば聞きたいことも聞ける。だから何よりも、アインは勝つことを最優先に祈りたい。

 話を聞いたクローネは、唇に人差し指をあてて少しの間迷っているようだ。



「努力を重ねるのはダメなのかしら。例えば今までのように」


「うーん、重ねた結果がとんでもない敗戦だったしね」


「あら……そうだったのね」



 クローネは、アインが負けた相手のことを聞かずに答えを模索する。

 不意に雪がしんしんと降りだした。

 数分も経たぬうちに、歩くと雪を踏むキュッキュッという音が鳴りだす。



「急いで帰ろうか」


「ううん。たまにはこんなお散歩もいいじゃない。それに、アインにまだ答えらしい答えを言ってないわ」


「屋敷でも聞けるし大丈夫。急がないと身体を冷やしちゃうってば」


「今日は二人とも休日なんだもの。ゆっくりしましょう?」


「……風邪を引いたら困ると思うよ?」


「そんな日に港で黄昏ていたのはアインよ。私はお迎えに来ただけで、傘を忘れてしまっただけ」



 不満げに頬を膨らませたクローネが、ずいっとアインに顔を近づけた。

 眉を潜めていたが、迫力よりも甘えたい感情を隠しきれていない。



「帰ったらゆっくりお風呂にでも入りましょう。そうすれば風邪なんて引かないわ」


「あれ、一緒にってこと?」


「当然じゃない。背中も流してあげるから、一緒にゆっくりしましょうね」



 アインは突然の魅力的な誘いへと、拒否するだけの精神力を持てなかった。



「というわけで、話を戻すわね」



 と、クローネが話を戻す。



「私は良く知らないのだけど、アインがその相手に負けたのは何回ぐらいなの?」


「うーん……一回?」



 それを聞いたクローネがアインの腕を抓る。



「痛いッ!?」


「ぜんっぜん思いつめるような話じゃないわよね?」


「いやいやいや! 俺にとってはすごく大きくて、全く無視できな――」


「違うわ。自分で大きい問題にしようとしてるだけね。私の予想で申し訳ないのだけれど、久しぶりに完膚なきまでに敗北してしまって、余りの実力差に呆然としてしまった……とかかしら?」


「ぐ、ぐぅっ……」


「ふふっ、図星みたい」



 クローネは上機嫌に微笑み、さっき抓ったアインの腕を優しくさすった。



「今のアインが出来る事は二つだと思うの」


「二つ? それってどんなこと?」


「一度は敗北した事実を全部受け止めて努力することと、あと一つは、もう勝つ事を諦めることよ」



 アインの胸が高鳴る。



「それは……後者なんかは最悪だろうね」


「今までのアインは前者を選んできていたはずなの。あっ、その、今のアインが逃げてるとかではなくて、少し悩んでいるってことだからね?」



 彼女はアインを慰めるように指を絡める。



「今のアインは少しだけ戸惑ってしまってて、どう頑張ればいいのか迷っているだけなんだと思うの」



 そして、彼女はアインの答えを待つことなくつづきを言う。



「でも大丈夫。いつだってアインは頑張っていて、どんなことからも逃げ出さなかった。――私が全てを捧げたいと思った貴方は、誰よりも尊くて素敵な人よ」


「……言い過ぎだよ」


「そんなことないわ。私の(、、)アインはそんな人よ」



 力強く言い切ったクローネは顔を上げ、アインの頬に口づけをした。



「コレがアインにとって、女神さまの祝福になるといいのだけれど」



 さすがにその一言は照れくさかったのだろう。

 困ったように笑ったクローネは、アインからさっと顔を反らした。



「――元気出て来た気がする」



 そうだ、クローネが言った通り。

 これまでも多くの難敵と戦ってきたし、多くの壁を乗り越えて来た。



(もう一つ壁が出来ただけだ。また超えてしまえばいい)



 と考えてみると不思議なことに、これまでの不快感が消え去ったどころか、逆にやる気で満ち溢れてくる。

 今から訓練をしたい! と心が躍り出した。

 だが今は、腕を掴む彼女への想いが強く前に出た。



「明日から頑張ろうかな」


「じゃあ……今日はどうするの?」


「ゆっくりしようかなって」


「ふぅん、一人で?」



 そんなこと言わなくても分かるだろう、アインは照れくさそうに苦笑したが。



「ねぇ、誰と一緒に過ごすのかしら? 教えてくれないの?」



 楽し気で、アインをからかう言い方はクローネの魅力だ。

 不意にクローネは、強くアインの腕を引いて顔を近づける。

 二人の瞳は数センチの距離にあり、互いの吐息まで感じられた。



 引かれた腕に両腕で抱き着かれ、アインが気が付いたときには指もすべて絡まっていた。

 もはやクローネは全力で甘えようとしているのだと。



 しかし、たまにはこういう日も悪くない。



「それはね」



 だからアインは腕を伸ばしてクローネを抱き上げた。



「ッ――ア、アイン!?」


「もう屋敷の近くだし、この辺りに住んでる人なんて他に居ないよ」


「だからって……ッ! もう……!」



 言葉では不満を言いつつも、彼女はアインの胸板に顔をこすりつける。

 そんなことをされてはアインからしてみても、何時にもまして彼女が愛おしくてたまらない。



 同時に、クローネの髪に付着した多くの雪に気が付いた。



(クローネは大丈夫って言ったけど、早く戻った方がいいか)



 抱き上げたこともあって調度いい。

 アインは歩く速度を上げ、彼女を抱き上げたまま屋敷へと戻る。



(またあの人と会える日が来るかもしれない。なら俺は、その日に向けてもっと強くなろう)



 単純な答えながら、たどり着くのに寄り道してしまった。

 胸元でじゃれつく想い人への感謝の念は止まることを知らない。言ってしまえばずっと前から感謝してばかりだったが、今日また新たに感謝した。



 アインは新たな決意と目標を胸に、晴れやかな表情で空を見上げた。

竜人の話が終わった時が一区切りって感じでしょうか。


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― 新着の感想 ―
[一言] あーあ…リアルに口角が天井を突き破らないかなぁ…|´-`) 先ずは城之〇くんを出来るようにならないと話にならんやろなぁ…|´-`)
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