ダンジョンの魔物とクリスの話。
今日もアクセスありがとうございます。
※追記
夕方公開の予定が間違えて昼に公開になってました……。
上層でリザードマンと剣を交わしてから数十分。
二人は順調にダンジョン深くへと足を進めていたが、ふと、カインが立ち止まった。
「あぁ、これだこれだ」
「なんですか? この……絵、ですかね」
「詳しくは分からん。ただ、シルビアが調べてみたいらしい」
相変わらずの青白く光る回廊。
その壁に、外の地面にあったような絵が彫られていたのだ。
今回の絵は外のとは違い、一人の少女が泣いているもの。
「周りにたくさん人居ますけど、なんで泣いてるんですかね」
「さぁな。別に人が居るからって、それが好まれてるとも限らんだろう」
「あぁ……言われてみれば確かに。それで、絵の何を調べるんでしょうか」
「歴史と経験、とだけ口にしていたな」
余計に分からなくなり、アインは口を半開きに硬直する。
「――そうまぬけ面をするな。ハイムにある遺跡の話は聞いてるな? あの遺跡にあった絵が、どうにも気になっているとのことだ」
「な、なるほど……なるほど」
追求しないのが勝ちだ。
きっと、この問題は自分の想像では解決できない。
薄っすらと笑みを浮かべて頷いて歩き出した。
「おい、待て。まだ描き写してる」
カインはペンを滑らせながら言うと、アインを数分程待たせた。
覗き込むと、彼は意外と器用なようで、壁の絵と大差ないメモを残していく。
「……何を見てる」
「その、描くの上手だなって思って」
「……はぁ」
得も言われぬ表情でアインを眺め、カインはそのまま歩き出す。
「お前は昔から相手の気を抜かすのが上手いな。分かってると思うが、別に褒めてるわけじゃない」
「え、えぇー……なんか理不尽じゃありません?」
「何一つ理不尽ではないだろうに。ほら、一度飲んでおけ」
革製の水筒を放り投げてアインに手渡すと、彼は懐から干し肉を取り出して齧りだす。
どうやら歩きながらの小休止のようだ。
「修練は欠かしてないようだな。いい事だ」
これまでの事を暗に褒められ、アインは自然を笑みをこぼす。
「マルコとの訓練はどうだ? あいつは強いだろう」
「残念なことに、何度か負けたこともあります」
「所詮は十年少々の年季だ。マルコや俺のような、数百年に渡る練度ではない。そう気を落とすことでもないがな」
当たり前のことだと言われた気がしたが、言葉通りには受け取れない。
生来の負けず嫌いが鳴りを潜めないのだ。
数歩先を歩くカインは、アインが後ろで不満げにしてるのに気が付き、振り返らずに笑う。
「とはいえ、逆に剣にこだわらなければ俺たちが負ける。魔法のシルビア、武の俺、魔王のアーシェですらな」
内包された強さの奔流はそれ程だ。
もはや、敵となる存在はいるのかすら危うい節はある。
……しかし、カインはその存在を示唆する。
「今のアインと本気でやり合う。それで勝てるのは神ぐらいなものだろう」
「か、神……!?」
「そうおかしな話でもない。このダンジョンの最深部、そこにいるかもしれない神のことだ」
「いやいやいや! カインさんはその、本当に居るって思ってるんですか!?」
アインが思い浮かべる神は例のロリ女神だ。
再会できるならしたい気もある。いくつか礼を言いたいこともあるからだ。
「いるさ。そうじゃなきゃ、ダンジョンと言う存在の説明がつかない」
「……といいますと?」
「建物自体は俺がスケルトンの時代からある。逆算すれば、千年近くのはずだ」
長すぎる。
というか、スケルトンからデュラハンになるまでの経緯すら、アインは初耳だ。
だが千年前からあると聞けば、神がいる説もそう嘘には思えない。
「俺も一度は手合わせ願いたいものだな。神がどのぐらい強いのか……と」
カインは言い終えると同時に干し肉を食べ終わる。
間を置くことなく新たな階段に差し掛かり、二人はゆっくりと足を踏み入れた。
「――そういえば、赤龍の話があったか」
ぽん、と手を叩いてカインが言う。
「何が知りたい? 強かったかどうかか? それとも、奴らが襲って来た目的か?」
「えっと、そのどっちもです」
「目的については実は分かってない。なにせ、奴らは言葉を発しないからな。強さは……当時のマルコが苦戦するぐらいだろうか」
「だからシルビアさんが倒したってことですか?」
というのはマルコから聞いた話だが、シルビアが難なく倒したとのこと。
この話だけを聞くと、あまり驚異的ではないのだが、
「あぁ。アーシェがやろうとしてたが、シルビアが素材を欲しがってな」
「……理由が何とも……」
「とはいえ、身体がもっと大きければ分からなかったが」
曰く、当時出現した赤龍の大きさは、現状の双子ほどの大きさだったという。
30m近くの大きさで、普通に考えればとても大きい。
しかしながら、長寿なため、それ以上育てば面倒になる。
「海龍の成体ほど大きくなるんですか?」
「さてな。それぐらい大きいのが飛んでくるなんて、面倒にも程がある――が」
含みある態度でカインがほくそ笑んだ。
この無機質なダンジョン内にありながらも、彼は対照的にどこか優雅だ。
「与太話に過ぎないが、本当に黒龍なんてものがいるのなら、それぐらい大きかったかもしれないな」
「実は今回、その黒龍についても尋ねに来たんです」
「だと思ったが、それに関してはシルビアに聞いてくれ。俺よりも詳しいはずだ」
彼の言葉にアインは頷いて答える。
しかし、本当に与太話で終わってほしいものだ。
せめてどれぐらい強いのか知りたいのだが……。
「――さて、次の魔物もすでにお待ちだ。さっさと奥に行くぞ」
ほどなくした到着した新たな階層。
リザードマンが居た場所と違い、まるで廃墟のように薄暗い空間だった。
地面も壁もすすけており、さっきまでの青白い空間と雰囲気が変わる。
「次の魔物が待ってるって……何がですか?」
「あれだ」
数歩遅れて到着したアインも様子を窺う。
すると、今まで戦ったことがない相手たちがいた。カタカタ――骨と骨が不気味な音を奏であっていたのだ。
「俺も昔はあんな姿をしていた。魔石を破壊しないと死なないから、気を付けろよ」
「相変わらず武装してるし……」
数十体のスケルトンが彷徨っている。
骨は灰色、着ている防具は革や鉄製など種類が豊富だ。
武器は全員がボロいナマクラを持っており、どことなくスケルトンらしさを感じさせる。
やがてアイン達に気が付くと、スケルトンは一斉に威嚇をはじめた。
(別に怖くはないけど異様な光景だ)
口元をカタカタと鳴らし、武器を振り上げて威圧する。
地上では見たことのない魔物の仕草に、ここがダンジョンだということを思い知らされる。
「瘴気窟あたりにでも行けばいるぞ。あるいは、人が寄り付かない山なんかの死体が変化することもある」
「あ、はい……そうですか……」
少なくとも進んでいきたいとは感じない場所で安心した。
魔物相手が嫌ということではなく、単に、異様な光景を醸し出す相手が好きになれないだけだ。
それに、魔石を破壊しないと駄目だというのも、多少なりとも面倒に思えてならない。
「俺がスケルトンだった時の方がつよい。だから案ずるな」
「……はい」
取りあえず戦おう。
剣を抜き、ゆったりと足を進めると剣が光った。
アンデッドに反応するという、マルコ製の特徴が露になる。
――すると、数十体のスケルトンの動きが止んだ。
何が起こるのかと思っていると、
「――カインさん。想定外なんですけど」
「あぁ。俺も想定外だ。すごいな、アレは」
唐突に魂を失ったかのように崩れ去ったスケルトン。
カラン、カランという乾いた音が一斉に鳴り響いたと思いきや、一斉に骨が集まりだしたのだ。
ムカデのような巨体を模して合体し、全ての手足には持っていた武器を繋げている。
脚部は何十本もあり、機動性も高そうなのが良く分かった。
いつの間にか頭部まで巨大になり、尖った頭部は獰猛な獣のように錯覚させた。
弱い存在は群れることも多い。
しかしまさか、スケルトンが合体するなんてカインですら初見なのだ。
「気が変わった。俺もあれと戦うことにする」
「じゃあ、俺は後ろで待ってますね」
「馬鹿を言うな。俺ですら初見の魔物なんだ。アインも戦え」
思えばこれがはじめての共闘。
彼との共闘はどんな時間になるだろう? 考えて見ると、意外とワクワクしている自分に気が付く。
「分かりましたけど、あいつ……魔石多すぎません?」
人の骨格のような胸部には、例えるなら葡萄のように魔石が連なる。
はっきり言えば見た目は気色悪いが、それよりも重要なことがあった。
「あぁ。アホみたいに多いな」
「……まさか全部壊さないと倒せないとか?」
「最高の相手だ。努々、油断しないようにしろよ」
まさに未知の魔物との遭遇。
探り探り戦うべき、そう考えていたアインと対照的にカインは勇猛果敢に襲い掛かる。
結果、アインも同じく彼を追い、このムカデのようなスケルトンに剣を振った。
「ッ――おぉ、なかなか素早いじゃないか」
「そりゃ、こんな体してますからね……!」
足が多い分、機動性が高いのは当然。
石畳を削るように進み、襲い掛かった二人に対処していくスケルトン。
同時にいくつもの手足から攻撃を仕掛け、身体を大きく広げて苛烈な攻撃を繰り返してきた。
地面を突き刺すように振り下ろされることもあれば、薙ぎ払い、掴むように、そして極めつけは噛みつくように頭が近づく。
合体したスケルトンの戦い方は異質で、二人が今までに経験したことのない戦闘だ。
「アインッ! 伏せろ!」
「は、え? 伏せろって――ちょ!?」
まさに空間ごと切り裂くカインの一振り。
剣を扱う者の頂点、その一撃は呆れる程力強い。
(これが……カインさんの……!?)
間近で感じ取る迫力は格別だ。
皮膚にひしひしと伝わり、全身を突き抜ける風が彼の力を感じさせる。
やがてそれはスケルトンにぶつかり、
「――なんだ。やはり所詮はスケルトンか」
渇いたものがこすれ合う音を響かせ、身体を真っ二つに切断される。
同時に胸部の魔石も砕き、致命的な一撃なことは一目瞭然。
突き抜けた剣の勢いは壁や天井にぶつかり、それらを無残にも崩壊させた。
この人はやはり別格だ。
アインは素直に称賛の目線を送ったのだが――
「あの、生きてませんか……あれ」
気が付いてしまったのだ。
破壊したはずの魔石は砕けた。
しかし、いつのまにか魔石は少しずつ復活し、切り裂く前と同じぐらいに光を見せる。
「もしかして、一度に全ての魔石を壊さないと駄目だとか……?」
「チッ……言われてみれば、スケルトンの特性に近いか」
やがて骨も集まり、さっきと同じく身体を構築する。
変わったのは狂暴性だろうか? 動きが激しくなっており、地を這うような動きは更に増した。
「折角だ。俺が奴の動きを封じたら、アインが一気に吸いつくしてこい」
恐らくカインは一人でも対処できる。
ここは共に戦ってるから、こうした手段を選び取ったのだろう。
アインからしてみれば望むところ。
彼の言葉に深く頷くと、もう一度、合体したスケルトンへ飛び掛かった――。
◇ ◇ ◇ ◇
アインが激戦を繰り広げているなか、場所は変わって魔王城。
優雅に茶を楽しんでいたシルビアの前にクリスが腰かける。
当然、クリスはまだ抜けきってない緊張に苛まれていたが、昨晩よりはマシになったと言えよう。
「はぁ……やっぱり、王都のお茶も美味しいのね」
「あ、ありがとうごさいます……喜んでいただけて何よりで」
自分の腕でも大丈夫か心配だったが、シルビアは淹れた茶を楽しんでくれている様子。
とりとめのない話をして一杯。
それを終えてからお代わりにもう一杯を淹れたところだ。
その二杯目が終わったところで、シルビアはクリスの目を見て口を開く。
「アイン君が居ないから聞きたいことがあるの。いいかしら?」
「はい……? アイン様が居ないから、ですか? えぇ、私に答えられることであれば……」
「ふふ、ならお手を借りるわね」
彼女はそう言って立ち上がると、おもむろにクリスの隣へ腰かけた。
いったい何がはじまる? 不思議そうに戸惑うクリスの手を取り、彼女は暖かな魔力をクリスに流した。
「――私が尋ねたいことはこれなの」
やがて、クリスの手元から瑞々しい緑が生じ出す。
緑美しいツタに、それに連なる葉の数々。
いったい何が、どうして自分の身体からこれらが……?
慌ててしまったクリスは、縋るような瞳でシルビアを見る。
「シ、シルビア様!? 急に何を……!?
「心配しないで。これはすべてクリスさんの身体から産まれたもの。私がしたのはきっかけを与えただけ」
そういってクリスの頭を撫でると、シルビアは興味津々な面持ちで尋ねるのだ。
「ねぇ、クリスさん。いつの間にアイン君と交わったのかしら?」
残念なことに交わった記憶なんてものはない。
しかし、クリスの顔を真っ赤に染め上げるには、十分すぎる力があったのだった。
スケルトンの話ぶったぎってますが、後ほどまたどうなったのかしっかりだします……!




