バルトへ、龍の情報を得に。
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というのも最近、話が思うように進められておりませんので、進行速度を速めたいと思っております。
少したるんでしまって申し訳ありませんでした。
お付き合いいただければ嬉しく思います。
翌日の夕方、数時間の睡眠の後に目が覚めたアインは、軽食を腹に入れてから仕事に戻った。
仕事と言っても、宿の中での確認作業等が主なものとなる。
リビングに置かれたテーブルの上に、山のように書類が重ねられていた。
「クリスは俺が寝てからも、仕事してくれてたのかな」
寝る前には見かけなかったカップが、クリスの座っていた席に増えている。
寝る間も惜しんで仕事をさせたことは心が痛むが、アインも彼女の頑張りに答える気になる。
「……やるか――って、あれ?」
書類の山を眺めていると、ふと、一枚のメモ紙を目にした。
手に取ってみると、文字はカティマのもので、
「や、優しい……」
暇だから半分片付けて置いた――要約すると、彼女の文字でそう書かれていた。
恐らく、彼女はクリスの仕事を手伝ってくれたのだろう。
メモ紙が置かれていた山をみれば、その近辺の書類にはしっかりとサインがなされている。
よくよく見れば、重要箇所を要約してるものまである。
カティマもアイン同様、危機感を抱いている――だからこそ、こうして手伝ったのかもしれない。
「感謝して、つづきを終わらせておこうかな」
ソファに深く腰掛けて、カティマがまとめた要点を眺める。
昨晩の出来事、地下研究室についての調査結果や、ノイシュたちが行方不明だということが書かれていた。
既に古代生物研究所の施設と、周辺は封鎖。
近隣の研究所への聞き込みに加え、他の関連機関へも照会をかけているという。
また、王都からの決定により、ノイシュらは大陸中にその情報が行き渡ることになった。
……そして、
「イスト交易商会と、アルベロ男爵家への立ち入り……ね」
とはいえ、この件についてシルヴァードからの達しがある。
イスト交易商会への立ち入りは、アインではなく、他の騎士と文官に任せるとのこと。
今更ではあるが、王太子を動かすのを止めておきたいのだろう。
そして、アルベロ男爵家が問題だ。
そちらの立ち入りは、ある者が立候補をし、立ち入りや聞き込みを行うことにしたとのこと。
リビングアーマーのマルコだ。
全盛期の力を取り戻したと喜んでいた、あのマルコがアルベロ男爵家へと立ち入るのだ。
「……うん。過剰戦力にもほどがあるけど、今回ばかりは……うん」
彼もきっと、アインへの強すぎる忠誠心をいかんなく発揮するはず。
シュトロムにはクローネたちもいるのだから、この辺りは心配していない。
「となると……俺がイストで出来る事は……」
もうないはずだ。
いや、あるにはあるのだが、これ以上、イストに残ってするべき作業は無い。
騎士や文官に任せられる段階まで進んだと言えるからだ。
意外と順調だったことは喜ばしいのだが、結局、心に残るのは、地下の研究所で見つけた卵の殻。
それに対する不穏な事実ばかりが、脳裏に焼き付いて離れなかった。
「殻の調査はもう少しかかるかな? まぁ、そりゃそうか」
絶滅されたとされていた生物の痕跡なのだから、調べるのには時間がかかる。
報告に上がってないのも当然かと、気怠そうにため息をついた。
つづけて、他の残された書類を流し読みしてみると、それらは簡単な確認が必要な物と分かった。
大した仕事量ではなさそうだから、ソファへだらしなく身体を崩した。
一枚、二枚、三枚と、紙をめくる音だけがリビングに響き渡る。
確認する最中に、喉が渇いて茶を淹れることはあったが、それ以外は書類の確認へ費やした。
――まだ少し眠気があったが、手早くすましておくのが優先。
しばしば欠伸をしながら、少しずつ書類の山を片付けていったのだが、
「……あれ……アイン様……もうお目覚めだったんですか?」
「クリス、おはよ。仕事してくれてたんだね、ありがとう」
と、礼を述べたところでアインの表情が固まった。
眠たそうに瞼をこする彼女を見て、つい、戸惑いから硬直したのだ。
「……大丈夫ですよー……意外と、徹夜には慣れてるので……」
半分寝ているか、彼女の油断かのどちらかだろう。
アインとしてはこの両方な気がしてたが、慌てて彼女から視線をそらした。
「ニャハハ……」
着替えを忘れたのか? いや、むしろ、着替えの途中で眠ってしまったのどちらだろう?
クリスは上にシャツ一枚を羽織り、それ一枚で現れたのだ。
肌の露出は無かったものの、足元がいつもより過剰に露出されている。
ゆったりと腰掛けていたソファから彼女を見た時、細長く白い足が、何より先にアインの視界に入り込んだのだ。
「も、もうちょっと寝てきてもいいんだよ?」
クリスは寝ぼけている。
こう結論付けたところで視線をそらし、自然な動作で書類仕事に戻った。
内心では、戸惑いが抑えきれてないのは否定できない。
「ッ――わ、私はいらない子ってことですか……?」
「いやいやいや……そうじゃなくって、クリスもずっと寝てなかったし……って!?」
「ま、また置いてけぼりなんですか!? 私はまた、アイン様とバルトまでいけないんですか……!?」
視線をそらしたはずなのにどうしてこうなった。
被害妄想が膨らみ、クリスがアインが座るソファに近づく。
やがて、アインの足元付近で膝を折ると、懇願するような……子犬のような瞳でアインを見上げた。
(忠犬属性がここまで……じゃなくてッ!)
胸元のボタンがいつもより1つ2つ開けてあるせいか、その付近が強調される。
彼女らしい甘い香りが、祈るような視線と共にアインに突き刺さる。
いつもより、彼女の潤んだ唇や、長い睫毛に目線が釘付けになった……が、
(しょうがない。寝かせよう)
あくまでも冷静に心を落ち着かせ、クリスの名誉のため、アインは内心で想う。
これはむしろ、魅力的だから落ち着く必要があったのだ……と。
自分を正しいと思うため、内心で深く頷いてから席を立つ。
「――あ」
アインが怒ったのかと、クリスが不安そうに顔を上げた。
しかし、間を置くことなくアインが手を伸ばし、クリスの手を取って歩き出す。
「まだ旅の日程はつづくから、クリスもしっかり休んでほしいし、いらない子なんて、一瞬でも考えた事はないよ」
「で……でも……」
「大丈夫だから、もう少し寝てて。後で起こすかもしれないから、その時は許してほしい」
ほどなくして、クリスの部屋の扉の前に立ち、扉を開けて彼女の背中をそっと押す。
おっかなびっくりだった様子の彼女も、最後はアインに頭を撫でられ、頬を緩ませて頷いた。
「……わかりました、もう少しだけ……休憩させていただきますね……」
「そうしてくれると助かるよ。じゃ、また後でね」
角が立たないよう彼女を見送ると、アインは勢いよく振り返ってリビングを見る。
すると、外套を掛けるような棚を見て不敵に笑う。
テーブルに立てかけて置いた剣を手に取り、わざとらしく言うのだ。
「侵入者かな? 怖いし、切っておいた方がいいかもしれない」
金切り声のような音を一瞬鳴らし、剣が刀身を露にした。
脈打つ刀身を輝かせ、棚に近づきながら演技をする。
「――ま、待つのニャ!? 私なのニャ! カティマ! 第一王女なのニャッ!」
外套の陰から慌てて姿をみせたカティマ。
息を切らし、不満げな表情でアインを睨みつけた。
「ひっどいのニャ! そういう脅しはするもんじゃないのニャ!」
「クリスの太ももにさ、肉球の跡がついてたんだけど」
「ニャァアア!? そ、そんなはずはないニャ! 私が手を貸したのは二時間もま――ハッ!?」
「あのさ、さっき声が漏れてたから。隠れるならもう少しうまくやったほういいと思うよ」
また変ないたずらをしたものだ。
カティマの頭を鞘で軽く叩き、詰問するような目を向ける。
「……あのニャ? 私が手を貸したのって、クリスが眠たいっていってたから、部屋まで一緒に行って、着替えを渡しただけニャよ?」
「ん? ってことは、脱がしてけしかけたわけじゃないってこと?」
「ニャー……さすがの私も、そんな下種いことはしないのニャ。私も女だからニャ」
言われてみれば、カティマは悪戯や騒々しいことはするが、人の嫌がることなどはしてこなかった。
今回の件も、クリスが知れば恥ずかしいようなことだし、言われてみれば納得だ。
「じゃあ、クリスの露出が多かったのって……」
「寝る前に着替えたいっていったから、私が着替えを渡したのニャ。ボタンが外せないって言ってたから、仕方ないから手伝っただけニャ」
アインはさっき怒った事を反省した。
今回のカティマは、本当に何もしていなかったのだ。
「たぶん寝ぼけてたんじゃニャいか? 昔と比べて、クリスはアインに懐きすぎてるし、隙が増えてるだけだと思うニャ」
距離が近くなったのは同意する。
だが、起きてからさっきの件を注意するのは、異性からするのは恥ずかしいはず。
「クリスが起きてきたら、カティマさんからそれとなく言ってもらえる? 俺が見た――って言わないように」
「仕方ないのニャ。まったく」
「で、カティマさんはどうしてそこにいたの?」
「面白そうだったから、隠れてみてたのニャ」
前言撤回だ。
怒った事を反省したが、この野次馬根性はどうしたものか。
行き場のない感情を得ながらも、アインは大きなため息をはく。
「そういえば、アインが起きてから言おうと思ってたことがあったのニャ」
「……何かあったの?」
「私にもくれたあの卵の殻ニャけど、本物だと思うニャ」
また随分と唐突だ。
目を白黒させて彼女を眺める。
「私なりに調べたのニャ。痕跡としては、双子の時と性質が近いのニャ」
相変わらず優秀なケットシーで、まさか、この一晩で検証を終えるとは思いもしなかった。
「だから、龍の卵って断定出来たってこと?」
「そーだニャ。あと、あの卵の中身も多分双子だニャ」
「……本気で言ってるの、それ?」
「うむ、本気だニャ。成体の痕跡が二頭分あったからニャ」
「――すごく大変そうなんだけど?」
一匹でも対処に困るというのに、それが二つというのは勘弁願いたい。
大変そうと言ったが、内心では、それなり以上の危機感を感じていたのだ。
「私が思うに、うちの双子みたいに魔石を与えれば、相当な速度で成長するかもしれないニャ」
「魔石の店とかギルドに達しをしないとってことか」
「それは無理だニャー。魔石は生活必需品ニャから、規制何てすればとんでもない面倒事だニャ」
結局のところ、ノイシュたちを追うのが先決ということだろう。
「赤龍信仰をしている者も、徹底的に調べ上げるのニャ」
「もう赤龍って認定してもいいの?」
半信半疑にアインが尋ねる。
「ここまできて、別の龍なわけないニャろ? 条件が揃いすぎてるニャ」
「……そりゃそうか」
もはや他の証拠や情報なんて必要ない。
卵の色なども踏まえてしまえば、赤龍で間違いないだろう。
この瞬間、アインの内心で敵と目標が定まった。
「赤龍信仰をしてるやつらが敵だ。生まれてしまった二頭の赤龍は危険、だから、俺たちが抑えないといけない」
今までに溜まっていたいくつもの問題。
犯罪組織の件や、ローブの男、そして、イスト交易商会や、アルベロ男爵家の件が一気に片付いた。
例えるなら、赤狐の問題の時と同じように、明確な目標が出来たと言える。
「バルトにはいつ行くのニャ?」
「明日の朝までにはイストを発ちたい。急いで向かって、シルビアさんに赤龍のこととか……以前の赤龍の件も尋ねておきたいしね」
早いうちにシュトロムに戻りたい。
もしかすると、主要人物は王都に戻り、赤龍の対策会議が必要となるかもしれないが。
(やれやれ……誕生日は近いけど、こんな祭りは求めてなかったなー)
何もないというのもイシュタリカらしくない。
そう思えば、こうした事件も致し方ない気もしてくる。
国土が広くて人口も多ければ、比例して問題が生じるものだからだ。
今日もアクセスありがとうございました。




