13.陰照らす光
「バスケ…かあ…」
美山春は陽光の暖かい帰り道をその小さい歩幅で歩いていた。
後ろから1人の女性が自分を抜かしていく。
(…背高いなあ…モデルさんみたい…)
170cmは超えた身長。長い脚。目を奪うように綺麗な後姿だった。
目の前の女性を紅い顔で見つめていた春。その耳に携帯電話の着信音が聞こえる。
(あ…私のだッ!)
聞き覚えのある音楽に、自分の鞄の中の携帯電話を取り出そうと荷物をかきわけるが、その音は自分の鞄から鳴っていないことに気付く。
(あ、あれ…)
不思議がる春が顔を上げると、目の前にいた背の高い女性が右手を顔の前に立てて謝る仕草を見せていた。
「ごめんごめん、私のケータイ」
「あ、すいません…」
春も謝るが、その声は届いておらず、目の前の女性は携帯電話のコールに出る。
「もしもし、あ、葵? おっけ、夕飯遅れるのねー。 母さんには言っておくわ」
葵という言葉を聞いて、春は言いようの無い疑問が思い浮かんでくる。
(そういえばこの人…放課後成島くんと帰っていた…)
てっきり彼女だと思っていたが、電話の内容を聞くからに、かなり親密な関係にあるらしい。互いの母親の顔もわかるレベルなのだろうと彼女は思っていた。
目の前の美人は電話を切り、スマートフォンをポケットの中につっこむと一言呟いた。
「ったく…葵のやつ…姉貴を親との連絡係と勘違いしてんのかな…」
「あっ」
そんな彼女、成島紅音の独り言に、春は思わず声を上げてしまう。
ぱっと後ろを振り向く紅音と目が合って、春は目を大きく見開き、口を小さく噤む。
「…あ、ごめんなさい…」
成島紅音は目を瞑って頭を下げた。長い黒髪がだらーんと顔を覆っていた。
「いえ…あ、あの…」
「ん?」
震える唇を必死に動かしながら、春は紅音に問うた。
「な、なな成島葵くんの…お姉さんですか!?」
張り切ると無駄な大声が出てしまう。
それも美山春の悪い癖だった。
(葵のやつ…)
紅音も何か思い至ったかのような顔になるが、すぐに笑顔に戻る。
「そーだよ! ちょ、君何ちゃんっていうの?」
唐突でもない問いではあったが、春はやはり不慣れな問いに困惑する。
「え、えっと…美山春です」
「覚えとくぜー!!」
白い歯を見せてにかっと笑う。
成島紅音も、日向を歩く人のように見えたが、やはり、陰を照らすのはいつも陽光なんだということを春は改めて知るのだった。
(成島家の人って…みんな愛想いいなあ…)




