10.気付かない歪み
あれから一週間が経とうとしていた。虐めによるストレス解消を生きがいとしていた和島海だったが、美山春の虐めを始めてから一週間、彼女のイライラは解消されるどころか、増すばかりだった。
「あーなんか調子狂うわ」
和島はトイレの手洗い場の鏡を凝視しながら呟いた。隣で同じようにして立つ柴田は黙ってうなずくだけだった。
「あの子…私がいじめてるってわかってるのかしら…話しかけてもいっつも作り笑いしてるし気味が悪い…」
和島のイラつく様子にも柴田は慣れた様子で呟いた。
「うみのいじめ方、他の女子とかと違って陰湿じゃないもん。 こそこそしてなくて堂々としてるし」
「まあ、確かに…陰湿なのは私も嫌いだからね…」
「だから気付かれにくいだけだよ。本人が鈍感なだけだから。周りはあの子のこと、関わりたくない存在って認識し始めてるよきっと…」
「…絢佳は本当にそう思ってる?」
和島は視線を鏡から柴田に移し変えた。
「うん」
一瞬だけ淋しげな表情を見せて、柴田は頷いたのだった。
「ほんと、早く不登校にならないかな―」
和島が呟いたとき、女子のある一グループがやってきた。
一言を聞かれたことに、罰が悪く感じたのか、和島はそそくさとそのグループとのすれ違い様にトイレを出た。続いて柴田も何もなかったかのように出て行く。
「…今の聞いた?」
「やっぱり和島さん、美山さんのこと嫌ってるんじゃ」
「絶対そうだよー、だってあの子好かれ無さそうな顔してるじゃん。そう思うでしょ真子も」
グループの中にいた市野真子に、グループのほかの女子から問いを突然投げかけられる。
「あ、うん…そうだね」
愛想笑いして問いをかわした市野だったが、トイレの出口の方を見つめたまま、不穏な表情をしていた。
「なあ、葵。このクラスでぶっちゃけ一番可愛い子って誰だと思う? 今のところ須藤夏樹ちゃんが圧倒的一位で次点で和島と松本なんだけどさ」
休み時間、男子の中はこんな話で盛り上がっていた。入学してから一週間以上がたち、そろそろクラスメイトの顔と名前を一致させ始めた頃だったからだ。
先程の問いを男子に訊いて回る新庄は葵にも同じ質問をしていた。
「別に誰でもよくね…みんな同じ顔に見えるわー」
笑いながら誤魔化す葵に新庄は薄ら笑いを浮かべる。
「おいおい、どうしたんだよー、やたら消極的だなー、気になる子でもいるのか?」
「…気になる…か…」
新庄の言葉に思いつめたように呟いた葵。
ココ一週間、記憶を辿ってみると、1人、思い当たる人物がいた。
「…そういやさ…なんで美山って和島にいじられてんの?」
葵の天然ボケをも思わせる大声での問いに、クラス全体が固まった。
ちょうどそのとき、黒板側の扉から美山春が、そして後ろ側からの扉から和島海が教室に入ってきた。




