Σ(゜д゜lll) 突破不能、絶望の・・・(後編)
メモリは「あるもの」について言及した。
この《ゲート・シャッター》の先にいる《劇番衆》なら、今も見ることができるはずだ。
すぐそばの壁全体に書かれた、無数の署名を。
あれは、《役者勢》が《ゲキバン》に挑み、最初に回廊を突破した際、記念に署名をしていったもの。
あの署名は、《劇番衆》にとって「屈辱の証」だ。
と同時に、歴代の《劇番衆》が「正々堂々と戦ってきた証」でもある。
「なのに、こんな卑怯なことをして、恥ずかしくないんですか!」
さらにメモリは訴える。
「こんなことをして、次回以降の《ゲキバン》では胸を張って、この場所に立てるんですか!」
滝の奥から、はっきりとした声は聞こえない。
ただ、葛藤するような気配を感じる。
しかし、ペンキの雨は止まらなかった。
メモリの横で、マユハがゆっくりと右手を前に構える。その指先は、デコピンの形をしていた。
「駄目だよ、それを使っちゃ。私に任せて」
彼女を制止すると、メモリは覚悟を決める。こうなったら、強行突破するまでだ。
全身を覆うように、銀色の鎧が出現する。
バズーカ砲を床に捨てた。そうやって軽くなった右腕を、前後にぐるぐると、高速で回し始める。
鎧で強化されている状態なら、きっとできるはずだ。忌まわしき《ゲート・シャッター》を、力ずくでこじ開けることくらい。
このタイミングでアヤトが、後方から口を挟んできた。
「メモリ、一ついいか」
「今さら何を言っても無駄だよ」
「かもしれないけど、これだけは言っておきたい」
アヤトが告げてきたのは、
「そのパンチ、全力を希望する」
メモリは笑顔になった。それまで銀色だった鎧が、まばゆい金色に輝き始める。
というわけで、相方の了解も得たことだし、この最強パンチで《ゲート・シャッター》をぶっ壊してやる。
「さーて、ちっちゃくてかわいい私が通りますよ」
フルパワーのその先を、今こそ拝ませてやる!
ところが、緑の滝の向こう側から、
「ちょっとだけ待って」
自分の知っている声がした。
そして、全身にペンキを浴びながら、「彼女」が回廊内へとやって来る。
相手の姿を目にして、メモリはパンチを中断した。まさか、この人が《ゲキバン》の最中に、《関所回廊》に現れるなんて・・・・・・。
「今日は役者がもう一人欲しい、そう思っていたところだったんだよね」
未だ《ゲート・シャッター》は止まっていないが、それはもはや絶望ではなかった。
メモリの正面には、映像室にいるはずのアノン監督が、全身をペンキまみれにして立っている。
緑色の雫を滴らせながら、彼女が明るい顔で宣言した。
「ボクは本日の舞台監督として、真鈴野マユハの回廊突破を認める! この決定は、代表支配人にも覆させない!」




