Σ(゜д゜lll) 赤の回廊で激突(マユハ視点 その二)
マユハが着目したのは、「歩幅」だった。
アヤトの歩幅は、自分よりも大きい。だから、大きな移動で挑んでも、勝つことは難しいだろう。
だけど、小さな移動ならば。
この移動、自分にとっては自然な歩幅なので、ここぞの時には無理が利く。
それに対して向こうは、普段とは違う歩幅での移動を、強いられている状態。
とはいえ、アヤトの反復横とびは驚異的だ。この程度の動きでは、彼をふり切ることはできないと思う。
けれど、アヤトのリズムを少しでいいから、乱すことができれば・・・・・・。
これしか活路が見出せない以上、そこに全力を傾ける。
小さな有利をコツコツ積み重ねていって、大きなチャンスに変えるのだ。今はこうやって、左右への動きを繰り返す時間帯。
マユハは自分の最速で動いた。
しかし、さすがにアヤトは速い。
小さな隙は何度かあったが、こちらが前に出るよりも速く、ハリセンをうまく牽制に使ってくる。突破口が見出せない。
このままでは、先に体力切れに追い込まれるのは、自分の方だ。焦ってはいけないと思うものの、現状維持だと待っているのは敗北のみ。
一か八か、突撃をかけるか?
その瞬間、アヤトのリズムがわずかに狂った。
彼の右側に、細いながらも突破口が出現する。
(ここで攻める!)
ほとんど反射的に、マユハは斜め前へと走り出していた。
アヤトが対応してくる。それまでの構えから、さらに半歩、横に平行移動して、この状況に即した迎撃態勢をとっていた。
緑色のハリセンが、高速の線となって迫ってくる。
突破できるか。その逆か。
際どいタイミングだが、これは――――――――――――――――――――駄目だ!
頭に浮かんだのは、ハリセンが命中するイメージ。
すかさずマユハは、急ブレーキをかける。両足の踵に、体重の大部分を無理矢理預けた。止まってー!
だが、もはや手遅れだった。
さらに前へと踏み込んでくるアヤト。攻撃の軌道を修正してくる。
目の前には、ハリセンが迫ってきていた。よけたくても、体が言うことを聞かない。急ブレーキによる影響だ。
ここまでか。
マユハは観念する。
ところが、顔のすぐ前で、ハリセンが急停止した。風圧だけが、顔をかすめていく。
情けをかけたのだろうか。そんなものは望んでいないのに。
とっさにマユハは、右手の指先をデコピンの形に変えていた。
ハリセンの真ん前から顔を外すと、アヤトを本気で睨みつける。
しかし、彼はとても真剣な表情をしていた。
その勢いに、マユハは気圧される。
アヤトが小さくつぶやいてきた。
「下」
わけがわからず、とりあえず視線を下げてみる。
そこには白線があって、アヤトの靴がかかっていた。
それで疑問が氷解する。
これに気づいたから、ハリセンを止めたのか。あの一撃、当たっていたとしても、ラインオーバーで無効になっていた。
勝った・・・・・・のか。
マユハは指の形を崩しながら、大きく息を吐く。
本当に紙一重だった。このラインオーバー、狙ったわけじゃない。
背後の『役者連館』側からは、ものすごい歓声が上がっていた。
当然だろう。現在の赤の回廊で「最強」と称される、《千手の狂王》を突破したのだから。
戦いの前や戦いの最中、彼らの声援は途切れなかった。それが見えない力となって、背中を押してくれた気がする。紙一重の勝負だったからこそ、この差は決定的なものとなった。
「安心するのは、まだ早い」
普段と変わらない声で、アヤトが告げてくる。その表情も、穏やかなものに戻っていた。
「じゃあ、あとはメモリ、任せたんで」
そう『奥館』側に伝えると、回廊の脇へと移動していく。
アヤトの言う通りだと、マユハは気合いを引き締め直した。
赤の回廊にいる「最強」は、《狂王》一人だけではない。《無法少女》もいる。
彼女も突破しなければ、『奥館』にたどり着くことはできないのだ。
三十メートル先で待ち構えているメモリは、「いかにもアイドル!」といった服装をしていた。白とピンクを基調としたドレスには、レースやフリルがたくさんついている。
彼女はバズーカ砲の先を、こちらへ向けてくると、
「はいはい、ちっちゃくてかわいい私を忘れないでね☆(キャピッ)」
不敵な笑みを浮かべていた。




