Σ(゜д゜lll) 目の前で割ったら
(おそらくですけど・・・・・・)
内通者が誰なのか、その目途は、すでについている。
でも、それが正しい場合、新たな問題が浮上してくる。
これは面倒なことになりそうだ。優先順位を間違えないようにしないと。
海箱ユユが深いため息をついていると、代表支配人室の扉が開いた。
お世話係の女の子が戻ってきたのだ。お掃除道具を取りに行ったはずなのに、手には何も持っていない。
けれども、彼女は恥ずかしそうな顔で、隣の部屋へと直行した。そこにお掃除道具があるのを思い出して、途中で引き返してきたらしい。
代表支配人室の床には今なお、粉々になったティーカップが散らばっていた。
それを眺めながら、海箱ユユは悪い顔になると、一つのアイデアを閃く。
内通者の目星はついたものの、アコンプリスの正体はまだ特定できていない。
三年前の大火災時に、この街にいた人物だ。おそらくは若い女性で、ある種のお茶わんを集めている・・・・・・。
それなら、こういう方法はどうだろう?
海王丸邸にあった「女の子シリーズ」のお茶わん、あれをアコンプリスと思われる人物を見つけ次第、その目の前で割ったら、わかりやすい反応をしてくれるのでは・・・・・・。
重要な遺留品はすでに、『志歌島』への移送を完了している。やろうと思えば、すぐにでも試せる方法だ。
悪い顔をしたまま、そんなことを考えていると、お世話係の女の子が戻ってきた。今度はちゃんとお掃除道具を持っていて、床の上を綺麗にしていく。
片付けが終わったタイミングで、新たな電話が鳴り出した。
受話器を取る海箱ユユ。相手は海王丸監督だった。たった今、千座一達を連れて、映像室に到着した、と報告してくる。
(え?)
すでに着いたものだとばかり思っていた。
ホワイトボードの一つに、急いで視線を飛ばす。
そこには、『奥館』全体の地図が貼ってあった。そして、地図上のどこにも、「海王丸監督」と「千座一達」、彼ら二人の所在を示すマグネットは、見当たらない。
どうやら、うっかり勘違いをしていたようだ。
と思いきや、海王丸監督が弁解してくる。
久しぶりに来たのだからと、千座一達の急な要望により、ついさっきまで、『奥館』の売店等を見て回っていたのだとか。
そのせいで、予定を大幅に遅れての、映像室到着になったらしい。本来ならば、もっと早く着いているはずだった。
海箱ユユは声を潜めると、一つ確認しておく。
「あなたの師匠とアノン監督、うまくやれそうな感じですか?」
「・・・・・・そう思えるのなら、ここの担当、今すぐ俺と代わってくれ」
不安が的中する。あっちでは着いて早々、かなり重苦しい雰囲気になっているようだ。千座一達とアノン監督、あの二人の関係は、二年前の監督就任時の一件で、小さくない問題を抱えている。
先日、アノン監督と話した時には、「努力してみる」と言っていたけれど、やはり関係改善は簡単ではないみたいだ。
とはいえ、今日に限っては、『海箱座』の舞台を預かる者として、協力し合って欲しい。
そこで受話器の向こう側から、
「ボク、少し散歩してくる。全回廊に完封指示を出した以上、ここでやることは、当分なさそうだし。《無無劇》の構想を練ってくる」
アノン監督の声がした。いつもより早口だ。怒っている感じはしないけれど、笑っている感じもしない。
そのあと、部屋を出ていく音が続く。
「で、俺はどうしたらいい?」
海王丸監督が弱気な声で聞いてくる。
海箱ユユは考えた。たしかに、アノン監督の言う通りだ。
本日の《無無劇》、その幕はまだ上がっていない。全回廊に完封指示を出している中、映像室でやることと言えば、《ゲキバン》の映像を見守ることと、最終兵器の作動くらいだ。
いくらブランクがあると言っても、千座一達は『海箱座』の舞台監督を何十年もやってきたのだ。一人でも十分にこなせるはず。
いずれアノン監督が戻ってくるだろうけれど、いっそ二人だけにした方が、関係改善の糸口になるかも・・・・・・。
だったら、海王丸監督には別のことを任せたい。今の状況を手短かに説明すると、『奥館』内部の捜索をお願いする。
「不審者がいないか、見つければいいんだな? 特に、若い女性に注意しろと」
「そうです。部下が必要だと思いますから、捜索の前に警備員の詰所に寄って、女性隊員を二名ほど連れて行ってください。あとは、善処してよろしく!」




