Σ(゜д゜lll) 二人は親友、リンドエンドとエピテリカ(決戦前夜)
この街には、大小無数の劇場がある。
海箱シティの象徴たる『奥館』は別格としても、人気の高い劇場がいくつもあり、街のあちこちに散らばっていた。
それらの劇場のほぼすべてが、今夜は芝居を上演している。『紫曜日』は、その翌日の『赤曜日』と並んで、一週間の中でも客足が多く、格好の稼ぎ時なのだ。
ところが、ある劇場だけが、今夜の芝居をお休みしていた。別の催しをするために、本日は貸し切りになっている。
劇場の前では、強面の男性たちが見張りをしていた。招待されている客以外の者は、中に入ることができない。
とはいえ、劇場の外から眺めているだけでも、わかることがある。
たとえば、招待客の全員が、《劇番衆》だということ。
しかも、かなりの実力者ぞろいだ。《選定候》の姿も何人か目撃されている。
この顔ぶれが一堂に会するというだけでも、《劇番衆》ファンにとっては必見だった。
しかしながら、入り口の警備は厳重だ。招待状を持たずして、劇場内に侵入するのは無理だろう。
なので、ファンにできることと言えば、中の様子を想像するくらいだ。気の合う者同士で、劇場近くの飲食店に腰を据えると、互いの考えを語り合う。
それはそれで楽しいのだが、やはり劇場内に入りたい。
そんな彼らの願望はさておき、劇場の中では、内輪の親睦会が開かれていた。
今夜は食べて飲んで騒ごうということで、ステージ上には、食べ物や飲み物がふんだんに用意されている。
基本的には立食形式のパーティだが、ここは劇場。座る椅子なら、客席にたくさん用意がある。
各《劇番衆》が受け取った招待状には、「私服でどうぞ」と記されていたが、半数くらいの者が、《ゲキバン》の際に着る「専用衣装」で参加していた。
この親睦会の主催者も、そうだ。
紫の《選定候》、エピテリカ。
彼女も専用衣装を身に纏っている。黒いビキニアーマーだ。
親睦会が始まって間もなく、新たな客がまた一人、ステージ上へとやって来た。
紫の回廊を守る《劇番衆》で、その名を「リンドエンド」という。
(これは失敗しちゃったかも)
今になって、リンドエンドは少し後悔していた。
自分が着ているのは、白いイブニングドレスだ。
これのせいで、周囲からは浮いているように感じる。専用衣装の者か、フランクな服装の者しかいない。
(こんなことなら、私も専用衣装にしておけば良かった)
実を言うと、家を出る前に迷ったのだ。
でも、最終的には、イブニングドレスを選んだ。
そうしたのには、自分なりの理由がある。
リンドエンドの専用衣装は、戦乙女の甲冑なのだ。
あれだと、さすがに仰々しすぎるかなと思ったのだけど、あの時の決断を後悔せずにはいられない。
とりあえず、今夜の親睦会の主催者、エピテリカに挨拶しておく。
「本日はどうも。来ちゃったよ、エピ」
「リンド、来てくれたんだ。全力で歓迎するよ」
二人は親友だ。
「私たちが舞台にいるのって、少し変な感じだね」
リンドエンドが微笑みながら言うと、
「舞台に立つのは普通、《役者勢》の方だからな」
さっそく二人で乾杯する。
「今日の顔ぶれ、なかなかだよね。これって、エピの人徳?」
リンドエンドが会場を見回したところ、人数こそ十数人と少ないものの、おそらくは今日の参加者、実力重視で選ばれている。
それを明確にしているのが、《選定候》たちの存在だった。
この会場には、エピテリカを含めて、三人の《選定候》がいる。紫と藍とオレンジだ。
「各回廊の《選定候》には全員、招待状を送ったんだが・・・・・・。青は『マイペース』だし、緑は『超多忙』だし、黄色は『世捨て職人』だし、三人とも欠席しそうな気がする」
彼女の「あの三人に対するイメージ」が、自分とまったく同じだったので、リンドエンドは胸の中で笑った。
そのあとで、再び会場内を見回すと、ちょっとした疑問を口にする。
「ねぇ、エピ。今日の参加者ってさ、実力重視だよね? 石化少女たちや鈴木一億は呼ばなかったの? あの辺もかなり強いと思うけど」
「もちろん招待状は送った」
じゃあ、遅れて来るのかもしれない。リンドエンドは嬉しくなってきた。鈴木一億のぬいぐるみボディ、あれには触ってみたいと、前々から思っていたのだ。楽しみ楽しみ。
もう一つ期待しているのが、
「呼んだはいいけど、石化少女たちが、エピに勝負を挑んできたりしてね。《選定候》の座を寄こせー、って」
彼女たちには、そんな「かわいい」ところがある。
「その時は助太刀を頼む。リンドと一緒なら心強い」
「うん、任せておいて。私たち二人で、返り討ちにしちゃおう」




