Σ(゜д゜lll) あのカーテンの奥では
アノン監督だ。今は「夢を追う少女の瞳」をしている。
「ひょっとして、自主的処分は終わりなの?」
マユハのすぐそばまで来るなり、ものすごく嬉しそうな顔を向けてきた。
「あ、はい。その節は本当にご迷惑を」
「良かったー、待ちわびてたよー」
軽く抱きついてくる彼女。
「ねぇねぇ、今日じゃなくて、明日の《ゲキバン》に参加しない? ボクの担当日だし」
そう言ってから急に、何かを思いついた顔に変わる。アノン監督の瞳が両方とも、「冒険に憧れるような少年のもの」へと変化していった。
「ひょっとして、アヤトの自主的処分も終わりだったりする?」
マユハが小さくうなずくと、
「良かったー♪」
この喜びよう、自分たちのことを、かなり心配してくれていたらしい。
「ところでさ、話は変わるんだけど」
抱擁からマユハを解放すると、視線を大きく移動させるアノン監督。
「あの中を見たいんだけど、どうにかならない?」
彼女が興味を示しているのは、この大部屋の一角だった。黒いカーテンで遮られていて、その奥からは、大勢の気配がしている。
アノン監督はどうにかして、あの中をのぞこうと、何度も挑戦したそうだ。
しかし、カーテンの前には、十人近い役者たちが見張りに立っていて、ことごとく失敗したという。
だが、アノン監督も手ぶらで引き返してきたわけではない。
「ボクの見たところ、あのカーテンの奥にも、別のカーテンがありそうなんだよね。たぶん他にも、遮蔽物を用意しているっぽい」
偵察の結果を話してくれる。
そこから導き出される結論は、カーテンの前にいる見張りたちを、強行突破するだけではダメ。
別のカーテンや遮蔽物を攻略する前に、さらなる見張りたちに、確保されてしまうだろう。そうなったら当然、あの奥に隠しているものを、目にすることはできない。
「ちょっとくらい見せてくれてもいいのにね」
少しだけ口を尖らせながら、アノン監督が不満をつぶやいた。
「ねぇねぇ、あの中ってどんな感じ?」
笑顔での質問に、マユハは困ってしまった。
期待している彼女には悪いけれど、
「私も見せてもらえないんです」
正直に告げる。
だから、アノン監督の好奇心には、そこそこ賛同できる。
実を言うと、《ゲキバン》の練習前に自分も、あの奥をのぞこうとしたのだけど、カーテンの前にいる見張りたちに、体良く断られてしまったのだ。
ただし、あのカーテンの奥で現在、何が行われているのか、それについては教えてもらうことができた。
新型《空中戦艦》の特訓だ。従来のものよりも、さらに攻撃力を増した《空中戦艦》だとか。
「それなら、ぜひとも拝んでおかなくちゃ」
「さすがに無理ですよ」
マユハは彼女を引き止める。
アノン監督は《ゲキバン》の際、《劇番衆》を指揮する立場だ。
そして、新型《空中戦艦》は、《役者勢》にとっての秘密兵器。
どう考えても、見せてくれるとは思えない。
そもそも、マユハだけでなく、《閣下隊》の大半にまで、秘密にしているくらいなのだ。
新型《空中戦艦》に関わらない者に対しては、《閣下隊》のリーダーなど、ごく一部の者を除いて、同じ《役者勢》といえども、非公開になっている。
その代わり、マユハや《閣下隊》は、別の役割を担っていた。
いくら強力な「新型」でも、それ一本では攻め方が単調になる。
また、《選定候》の中には、その特殊な攻撃方法により、「新型」の天敵となり得る者が存在するらしい。
これらの問題点に対処するため、《役者勢》は現在、二つのチームに別れていた。
単独もしくは少人数で「回廊を突破することが可能」な者は、通常の練習を行い、個々の実力を伸ばす。
それ以外の者はすべて、「新型」の構成要員だ。ひたすら特訓あるのみ。
そういうわけで、前者にチーム分けされているマユハがいくら見たいと思っても、あのカーテンの奥には通してもらえない。新型《空中戦艦》の正体は、とても気になるけれど・・・・・・。
「じゃあ、共同戦線を張ろうか?」
アノン監督が誘ってきた。




