Σ(゜д゜lll) マユハ、交戦(前編)
同時刻、真鈴野マユハは黒いジャージ姿で、白いハリセンを握っていた。
その五十メートルほど先には、赤いジャージ姿の役者たちが、二十人くらい立っている。
彼らは鋭い眼光を向けてきていた。
「我々を裏切るとは、いい度胸だ!」
先頭にいる男が叫ぶ。
さらに他の者たちも口々に、
「制裁あるのみ!」
「制裁あるのみ!」
「制裁あるのみ!」
彼らは《閣下隊》だ。
ルックナーを慕う役者たちが、自発的に立ち上げた一団で、『役者連館』において、無視できない影響力を持っている。
そんな彼らと、マユハは現在、「交戦状態」にあった。
そして自分の手には、「ハリセン」がある。これは《劇番衆》の武器だ。《役者勢》と戦うための武器。
「私で良ければ、相手になります」
マユハが告げると、《閣下隊》の面々が笑った。彼らから漂っていた緊張感が、一瞬で弛緩する。
この時、相手につられて気を緩めなかったのは、正解だった。
次の瞬間、《閣下隊》が猛突進してくる。
予想していた以上の迫力に、マユハは素直に驚いていた。
(これが《劇番衆》の視界)
アヤトやメモリは、こんな状況で戦っていたのかと、素直に感心する。
ハリセンを握る手に力を込めると、直進してくる《閣下隊》を見据え、マユハは心の中で繰り返した。
(今の彼らは敵、彼らは敵)
床を伝わってくる怒濤の足音に、さらに全身が緊張してくる。
どう攻撃すればいいのかを考えた時、頭の中に浮かんできたのは、アヤトの姿だった。緑色のハリセンを振るい、力強く戦っている。
ここ最近、『役者連館』のあちこちでは、《空中戦艦》撃破の映像が、繰り返し流れていた。それらの映像には決まって、「屈辱を忘れるな!」「あの新人にも鉄槌を!」という貼り紙がセットになっている。
そんな事情もあり、アヤトの姿を思い出すのは簡単だった。ここは闇雲にハリセンを振るうのではなく、彼の戦い方を参考にしよう。
ただし、注意が必要だ。あの動きは、驚異的な「反復横とび」ができてこそ、可能なもの。劣化コピーの動きになるのは、ある程度覚悟しなければならない。
足りない分は、「柔軟性」で補うことにする。自分がアヤトよりも、確実に勝っている点だ。
迫りくる一団から、リーダー格の男が飛び出してくる。
「裏切り者には、鉄槌オン!」
ものすごい形相で、真正面から向かってくる。両腕を広げて、こちらにつかみかかろうとしてきた。




