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Σ(゜д゜lll)  息抜きがてら、ある場所に

「そうそう、もう一つやることがあったんでした」


 海箱ユユは悪い顔になると、机の上の電話、その受話器を取った。


 息抜きがてら、ある場所に電話をかけてみる。


 その場所とは、『迷宮スイーツ』の一軒だ。お菓子の販売だけでなく、喫茶も可能な店舗。


 そこには現在、ルックナーが出向している。


 その惨状、じゃなかった、その様子を聞いてみようというわけだ。


 あのお店は最近、若い女の子たちに人気で、長い行列ができているそうだし、スタッフも若い女の子ばかりだ。


 きっと今頃、ルックナーは悲惨なことになっているはず。


 若い女の子たちにかこまれて、おろおろしている姿を想像しながら、海箱ユユは悪人スマイルになった。


 受話器の向こうに店長が出たので、


「私です。お店の方はどうですか?」


「すごいです! ここ数日の売上は、過去最高を更新しまくっています!」


 興奮気味に話す店長。


 なんでも、ルックナー目当ての女性ファンが大勢、お店に押しかけているらしい。


 ここまで大人気になっている一番の理由は、ルックナーの服装だという。『迷宮スイーツ』に男性用の制服は用意していないので、ルックナーは役者時代の衣装を着ているそうだ。しかも毎日、違う衣装なんだとか。


 それを聞いて、海箱ユユは自分の失敗に気づいた。


 あの男、元は『海箱座』の人気役者で、その強烈な演技は、今なお語り草になっているんだった。


 特に悪役をらせたら当代随一で、《悪を極めし者》とか《悪マ的スター》とか《諸悪の元凶》と呼ばれていたのだ。


 そんな男が現役時代の衣装をまとって、再び現れたとなれば・・・・・・。


 海箱ユユは頭痛がしてくる。


 先日の模擬戦、自分も《役者勢やくしゃぜい》として限定復活して、ファンから歓迎されたことを思い出す。こうなる可能性は、あの時に気づいておくべきだった。


 引退した役者が、期間限定で復活したのだ。なまで見たいと思うファンが、お店に殺到するのは、自明の理!


 ルックナーは今頃、鼻高々だろう。想像するだけでも腹が立つ。


 いいや、自分は早とちりをしているのかもしれない。


 今回の出向期間中、ルックナーには「かわいらしいエプロン」をつけさせるよう、店長には言ってある。「お客さまから、店の人間だとわかるように」という、それっぽい理由も、でっち上げている。


 だとすれば、ルックナーは「さらし者」になっている可能性も・・・・・・。


 だって、「かわいらしいエプロン」だ。あの男には似合わないアイテム。


 すぐさま店長に確認してみる。「新人」はちゃんと、「かわいらしいエプロン」をつけているのか。


「つけていますよ」


 期待していた答えに、凶悪な笑みを浮かびかけたが、


「ギャップ萌えって言うんですかね、あのエプロンが、悪役の衣装といい感じに組み合わさっていて、ものすごい人気なんですよ。さすがユユさん。こうなることを、事前に予想されていたんですね」


 ぐぬぬぬぬ。


「お店の女の子たちも活気づいちゃって。おかげで、この混雑でも、お店を回せています。《閣下かっか》が来てくれて、本当に大助かりです」


「・・・・・・」


 海箱ユユは絶句するしかなかった。


 ルックナーを少しだけ知る者は、おそるおそる《あのお方》と呼ぶ。


 それに対し、彼をよく知る者になると、親しみを込めて《総帥そうすい》とか《閣下》と呼ぶ。


 店長がこれでは、すでに他の女の子たちも、籠絡ろうらく済みに違いない。


 議決権のある株式を大量に保有しているからと、安心しきっていたが、こういう内部からの切り崩し方法があったなんて・・・・・・。


 このままだと、ルックナーに『迷宮スイーツ』を乗っ取られてしまうかも。


 悪い未来予測ばかりが、かなり鮮明に浮かんでくる。


 だが、あの男を今から別の場所に、左遷させんし直すのは難しい。周囲を納得させるだけの、それなりの理由が必要になる。


(いっそのこと、黒幕の関係者とでも言って、逮捕たいほしてしまいましょうか)


 もやもやを抱えたまま、海箱ユユは受話器を置く。まったく息抜きにならなかった。


 困ったことに、ルックナーの出向期間は、まだ残っている。


 その間、『迷宮スイーツ』がどうにか持ちこたえてくれるのを、ひたすら祈るしかない。


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