Σ(゜д゜lll) 心情と事情
今回の誘拐事件を受けて海箱ユユは、アヤトたちの警備を今後、大幅に強化する予定だという。
これまでの見張り重視のメンバー構成から、戦闘を想定した構成に一新するらしい。
もちろん、モトナたちの捜索にも手を抜いてはおらず、かなりの人員を、すでに投入済みなんだとか。
その行動力は、頼もしい限りだ。
アヤトは考え込む。モトナたちの誘拐に関わった、謎の手練れは何者なのか。
先輩が変身能力を使えば、不意打ちくらいはできるにしても、そこからさらに、「一瞬で相手を気絶させる技術」が必要なのだ。
しかも、被害者は大勢いる。先輩には到底、無理な戦果だ。
また、『世界を旅する薬剤師さん』でもないだろう。
そもそも、先輩といい、『薬剤師さん』といい、戦闘に向いているようには思えない。
となると、俄然怪しくなってくるのは、海王丸邸に潜伏していた、残りの二人だ。
黒幕自ら動いたか、もしくは、謎の四人目か?
少なくとも片方は、戦闘面に長けている、その可能性が浮上してきた。
ここまで無言だったマユハが、海箱ユユに質問する。
現段階における、モトナたちの捜索状況、何か手がかりはつかめているのか。
「今のところ、これといったことは何も・・・・・・」
海箱ユユは大きなため息をつくと、
「あの二人が黒幕に協力するようなことがあれば、かなりまずいことになります。特に、デススちゃんの方・・・・・・」
それを聞いて、アヤトは察した。
あの二人は『異世界転生者』。
無能力の自分とは違い、アシュちゃんがくれる『異世界ライフで役に立つかもしれない特殊能力』を持っているのだ。
モトナの能力は、海箱ユユしか知らないみたいだが、デススちゃんの能力は、ここにいる全員が知っている。
炎を扱う能力だ。
ここ海箱シティにとって、あれは非常に危険な能力。
この街は道が細い上に、さまざまなデザインの建物が乱立している。ひとたび火事が起これば、燃え広がりやすい、そんな弱点を抱えている。
炎を扱える彼女が、もしも黒幕に協力したら・・・・・・。
大変なことになるのは、間違いなかった。
「・・・・・・ないよ」
メモリがつぶやいた。が、その声量とは逆に、強い意志を感じる。
「そういう子じゃないよ。デススちゃんは」
怒りの感情が見え隠れしている。
「ユユさんと約束してから、デススちゃんは一回も、あの炎を使っていない!」
アヤトだって信じてあげたい。
しかし、この街は三年前に大火災に襲われて、当時の『奥館』を焼失しているのだ。
今でも街を歩いていて、たまに感じる時がある。ここ海箱シティは、まだ完全には立ち直れていない。
そのような背景があるからこそ、黒幕サイドにデススちゃんがいる、この状況は海箱ユユにとって、非常に好ましくないのだ。
アヤトは複雑だった。メモリの心情もわかるが、海箱ユユの事情もわかる。
マユハがさっと、メモリをなだめに入る。代表支配人室の外へと、彼女を連れ出した。




