34話
翌朝、俺に会いたいという人物がいると連絡が入り、部屋に呼んでもらった。
「他の町へ偵察に行っている者以外はすべて集めました」
アプス達だ。男女合わせて7人が皆跪いている。アプスを入れると8人。偵察に行っている人数を含めるとその倍になるとか。
「話はしてある?」
「はい」
昨日の夜にアプスが、ダークエルフの問題は解決したと連れてきた者に話をして、俺に仕えることになったとも話をした。今集まっている人も俺に仕えると言ってくれたそうだ。
「ランドルフ・プレイリー子爵です。と言っても昨日子爵になったばかりで、たぶん子供で未熟だけどよろしくね」
「「「よろしくお願いいたします。プレイリー子爵様」」」
う~ん、息ぴったり。
「楽にしてください。それとプレイリー子爵って慣れないからランドルフでいいです」
「「「はっ、ランドルフ様。ランドルフ様に忠誠を誓います」」」
なんでも皆俺に感謝しているとかで忠誠度は高い。一気に部下が増えた。
「国王陛下に忠誠を誓ったほうがいいと思うな」
建前はそうでも、ランドルフ自身に仕えたいとの事。命を捨てる覚悟だとか。
アプスさんどんな説明したんだろ。忠誠度合い高すぎるでしょ。でもなんかうれしいな。報いるためにもしっかりしていかないとね。
「このことについて早速族長に遣いを走らせたいのですが」
挨拶も終わったところで早速アプスが近づいて声を掛けてきた。
「オッケー」
「おっけ?」
「ああ、良いよって事。認めるよ」
だが、まだ島には戻れないので、移住は待ってほしいと伝えてもらうことにした。食糧支援は行う。アプスが事前に用意していたのであろう手紙を、男が一人それを持って遣いとして出て行った。内容は確認していないが村全体の事だし俺が口を挟むのも悪いだろう。
「それで俺に仕えるって事だけど何か得意なこととかってある?」
魔法は勿論使えるし、工芸品や薬を作ったりする知識。錬金術や細工に呪術。身体能力も俊敏性や悪路走破、夜目や狩猟などなかなかに優れている。特に錬金術と呪術は気になったので教えてもらおうと考えていた。
だがまずは紙を作る。そして馬車も作らないといけない。島の事も考えないと……となると俺をサポートしてくれる人がほしいな。ってか錬金術で紙って作れないのか?聞いてみたが良くわからないといわれた。
と言うことでサポートしてくれるメイドを育成することにした。個人的欲求が混じっていることは否定しない。アプスを含めて女性は3人。他の人は紙を作る材料の調達に行ってもらう。
戦闘もできる暗殺メイドを作り上げるのじゃ!!
早速ジュレップを訪ねて、メイドの教育をお願いする。許可が出たのでアプスを除く2人を預けた。一月ほどだとか。一月で教育ってできるものなのだろうか?いや、無理だろう。だがそれなりでいいと思う。新興貴族なのだし、最初はうまくいかなくても当然だろう。
残りの男4人を貴族街の外れにある研究室へ案内し、お金を渡して材料を集めてきてもらう。兵士にダークエルフ達を通してもらえるように通行所を発行してもらう。紙の製作が成功すれば、島で暮らすための支援を獲られると言うと、より一層皆やる気が出てきたようだ。
材料を集めてもらっている間に作業場所を魔法で作る。部屋に何も無いので土魔法で土台を作り、紙を漉くためのスノコも作ってみた。一応固めては見たが、耐久性に問題があるなら木で作ろうと思う。
困ったことがおきた。元々が物置部屋だったので排水場所がない。許可を得て工業用排水する場所まで魔法でつなげて確認してもらった。研究所を管理している人は一瞬でできた事に驚いていた。魔法で場所を探って穴を開けただけと言うと呆れられた。解せぬ。
そうしている間に材料を集めてダークエルフたちが戻ってきた。そういえばこの中に錬金術を使える人はいるのかと聞いたがいないとのこと。残念。
さて、実際やってみないとわからないがどうなることやら……。中学校くらいの知識でできた気がするんだけど。
早速準備に取り掛かる。もらってきた廃材を風魔法で切り刻み適度に細かく粉砕する。石灰石を外で燃やしてぼろぼろに崩す。様子を見に来た管理人に怪しい目で見られている。部屋に戻って分量も考えず、それを水にダバーっと入れてかき混ぜ石灰水を作った。この水に触れないように注意する。そこに細かく刻んだ木材を入れて煮る。それと平行して小麦粉に水を加え、それも煮る。
やばい、換気しないと。
風魔法であわてて換気した。しばらく時間が過ぎてから中身を水洗いして取り出す。今回は漂白剤は使わない。
さらし粉を作りたいが。塩素は海水から作ればいいんだけど、ここからは遠いからな。今作るにも材料にコストがかかるし……。それに白くした紙を発表する気は無い。見た感じ今のままでも十分に繊維がほぐれていて、販売されている奴よりは良い物が作れそうだ。
でんぷん糊を水に混ぜて煮込んだ繊維のほぐれた木材を入れる。何度かスノコで漉いて型を取り、取り出したのを魔法で水分を一気に抜いて乾燥させる。
う~ん。そこまでざらざらと言うわけではないが荒いな……破れやすいと言うか脆いし、厚さにムラがありすぎる。色は濃い肌色で質感はましか。全然だめだな。とりあえず見せに行くか。
残っている続きをアプスに任せ、ジュレップに見せに行った。
「試作第一号です」
ジュレップが感触を確かめた後、王様に見せに行くことになったが、宰相が対応した。早速インクをたらして文字を書く。
「色は薄いので文字はわかりやすくていいのですが、滲むし破れやすい。ですがひとまず作れるということがわかりました」
「これが作り方を書いたものです。注意事項も書いておきましたのでよく読んでください」
「助かります。研究しましょう」
「これで島の件はお願いしますね」
「ええ、勿論です」
きっとお抱えの商人や、大学の人達が作るんだろう。宰相の機嫌はよさそうだ。
部屋から退出するとジュレップに質問された。
「ねぇ、紙を王都で作るようになったら、ますますランドルフ君の島で作る価値がなくなるんじゃない?あれが完成すれば今出回ってるのよりいい紙ができると思うけど」
「あれは所詮試作です。島で作るのはまっ白い紙を作ります」
「ほう」
う~ん。その顔久々だな。
「手を抜いたのかい?」
「そんなまさか。ちゃんと既存の紙より良い紙の作り方を書いておきました」
「……ふっ、君も交渉の仕方がわかってきたようだね」
「子供ですので、まだまだ不勉強です」
ジュレップにも既存の紙より良い紙の作り方を教えておいた。パンターナ領でも紙の量産が行われるだろう。
「また何か頼むかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」
「ああ、わかったよ」
そう言って分かれた。その帰りに古い馬車をもらって帰った。
ダークエルフ達には引き続き紙を作るように伝えておく。島の産業にするのでがんばってほしい。
と言うわけで次は振動の少ない馬車を作る。こっちはまったく以てわからないので本当に手探りだ。
人が入る箱の部分を分解して取り除く。磁石の反発をイメージしようとしたが、それだと二つ魔法陣を設置て魔石も用意して大掛かりになる。
最初に考えていた単純に箱を浮遊させるだけの構造にしよう。
ダークエルフの中に細工がうまい人がいたので手伝ってもらう。将来は工兵要員だな。
構造は浮かんだが問題はインクなのだが、インクを水にぬれて流れたり滲んだりしないようにしなければならない。なのでインクは使用せず、正確に文字を彫ってもらう。木の板を用意し、馬車に合わせて大きさを調節する。先に魔法陣を書いて、その上に箱を載せて接触しないように高さを調節する。乗り心地も試して大丈夫そうなので、板の真ん中にランドルフが魔法陣を書き、その通りに文字を彫ってもらう。
量産するなら焼きゴテでやったほうが早いだろうか?試してみよう。
彫ってもらっている間に王都の鍛冶屋へアプスを伴い向かった。武器や防具に目が移りそうだったが我慢する。魔法陣を書いて、これを印字できる焼きゴテを作ってほしいと頼むと、何に使うのか聞かれた。悪用の危険性があるのか警戒されているので、秘密にしてほしいと言い、貴族の証の飾りナイフをだして内容を伝える。すると、このナイフを作ったのはこの店だと言われた。ランドルフの事もわかったようだ。ちなみに宮廷魔法士になった時もらった杖は身分証明として使えるが、大きいので持ち運びに不便だし保管してある。
王家ご用達ってか。助かったわ。ついでに指輪ともう一つナイフも作ってもらおう。
作るのには許可が要るので、後日ということになった。焼きゴテだけ作ってもらう。精密に作らないとだめなので時間をほしいと言われた。了承してお金を渡し、研究所に戻る。
彫り終わっていたようなので、早速用意していた魔石をはめ込む。魔石にあわせて削り、うまく浮いたのでフタをして魔法陣を保護する。浮いている箱の部分を水平に動かないように固定すれば終わりだ。
昔の自動車に近い乗り心地なんじゃないだろうか?中に高級シートを備え付ければ完璧だな。やらないけど。
日も落ちてきたので、今日持っていこうかと思っていたが、既に一つ渡しているので明日渡すことにした。
「で、なんでいるのかな?」
部屋に戻ると当然のようにアプスも一緒に入ってきた。
「御そばに「それは昨日も聞いたって」ですが……」
アプスの声がしぼんでいった。
そんな顔されたらこっちが悪いみたいじゃないか。この世界の道徳観念はどうなっているんだよ。
様々な種族がたくさんいるので、見た目に割りと左右されない人は多い。だからなのかランドルフが子供でもお構いなしのようだ。
「夜は長椅子で寝ますのでどうか御そばに……」
「わかったよ……一緒に寝よう。女性を長椅子で寝させるのは気が引けるし」
その言葉にアプスの顔が輝いた表情を見せてランドルフに突撃してきた。
「ありがとうございます!!」
「ぐぅるじ~~」
「はっ、すみません、つい……」
暗殺されるところだったぜ。いい匂いとやわらかい感触だったし許す。でもまだ寝る時間じゃないんだけど。
お城のメイドさんにアプスの分の食事を持ってきてもらうように頼むと、そのときに突然アプスが「これからはランドルフ様のお世話は私がやります!!」と言い出した。何を馬鹿なと思っていると、メイドさんは「かしこまりました」とあっさりと了承し、引き下がっていった。
なんでやー!!メシどうすんねん!!
ギロリとアプスを睨む。ビクッとするアプス。
「か、勝手なことをしでかしていまい申し訳ありません」
「……ご飯だけは持ってきてもらうようにしてね」
「……はい」
沈黙の中、二人で食事を取っているとアプスが話しかけてきた。
「あ、あの…」
「別に、怒ってないから」
「はい、それで……私もメイドとしての訓練を積みたいと思うのですが」
「でもそれじゃあ護衛兼、ダークエルフまとめ役兼、メイド?忙しいと思うけど」
「がんばりますっ!!訓練中は別に護衛を付かせます。まとめ役も。ですのでお願いします!!」
「できるならいいけど、そんなに気を張らなくても大丈夫だよ?別に見捨てたりしないし」
「いえ、そうではないのです。私がして差し上げたいのです」
褐色の頬が赤く染まった気がした。照れくさそうにこちらを見つめてくるアプス。
「お、おぅ。まぁ無理しないようにね?」
「ハイ!!ありがとうございます!!」
「明日、馬車を見せに行くときジュレップ様に頼みに行こう」
「わかりました」
それから一人で風呂に入りたいので、アプスに念を押して入ってこないように言い聞かせ、さっぱりして布団に入る。アプスも風呂を上がって、長い銀色の髪を乾かし「失礼します」と言って布団に入ってきた。
端っこで寝ていても風呂上りのいい匂いが鼻をくすぐるが、何とか見ないようにして寝入る。
子供の体だからなのか、女性の体に興味はあるが性的欲求と言うよりは、羞恥心と好奇心が勝っている気がする。アプスは美人なんだし文句無いんだけど、体が反応してくれないんだよな~。でもちょうど思春期に入っててもいい年齢だと思うんだが……。
考えていると眠気が襲ってきた。
翌朝、息苦しさで目が覚めた。アプスがランドルフを抱きしめて、その豊満な胸で顔を挟み込んでいた。
「ん゛ー!!ぷはぁ!!こんなお約束で死にたくない!!」
思わず叫ぶと、アプスが飛び起きて俺を護るように背中に隠した。辺りを見回して警戒し、何事もないとわかると落ち着いてランドルフを見た。
「何事かと思いました」
「それはこちらの台詞だ!!お前が俺を抱き枕にしてたおかげで窒息死しかけたぞ!!」
「それはその……申し訳ありません。可愛い寝顔でしたのでつい……」
可愛いとか言われてもうれしくないんだからねっ!!じゃなくて!!
「可愛いとか言うなっ!!そのけしからん胸に殺されかけたわっ!!」
「お嫌い……でしょうか?」
「いいえ、大好きです。じゃ無くて!!今後は禁止ね、まともに寝れないから」
「そんな……別に好きにして下さっても」
話の途中で頭にチョップをかます。
「あぅ」
「あのさ、お前最初あった時とキャラ違いすぎ」
思わず言葉が乱暴になる。
「きゃら?」
「性格っていうの?出会った時はもうちょっと凛々しかったのに……」
「仕事のときはそうでも普段はいつもこんな感じです……。そちらのほうがよかったでしょうか?でもそれはなんだか心の距離が離れてる気がして嫌です」
うぐっ、可愛い顔して見つめてきやがる。貴様は捨てられた子犬かっ!!
「いや、もう普段どおりでいいけどさ。とにかくやめてね」
「はぃ……」
だからそんな顔するなっての!!
「とにかくジュレップ様のところに行って、そのあと王様のところに馬車を納品するから準備してくれ」
いそいそと着替えて準備を始める。
って目の前で生着替えかよ!!いいおっぱい……じゃなくてだな!!もうツッコミがしんどいわ!!
アプスに注意しつつもしっかりと胸から視線をそらさないランドルフ。まったく説得力がない。
はぁ……。修行中はいいけど、もしかしてメイドの訓練が終わったらこれが毎日続くのか?メイドってそういうんじゃないと思うんだけど。うれしいけど何言われるかわからないし、敵視してる奴がいたら付け込まれる材料になるかもしれないよ……。ましてやここは王城だしさ。あくまで侍女兼護衛って所を強調しないとな。
朝食を食べ終えて準備をし、出来上がった馬車に乗ってジュレップの屋敷についた。追加でアプスも頼むと伝えると了承された。アプスは嫌がったが泊り込みで教えてと必死に伝えた。どうやら通いこみで教えてもらう予定だったようだ。
王様のところに行こうとするとジュレップも行くと言い出し、一緒に乗り込み乗り心地を堪能した。
「ランドルフ君。前回も思ったけど、今度からはちゃんと先触れを出すようにね」
「はい、すみません。ありがとうございます」
ダークエルフさん活躍おなしゃっす!!
しばらく控え室で待っていると、国王自らやってきて馬車まで案内した。宰相も一緒だ。早速乗って乗り心地を試している。
「どうでしょうか?」
「これは楽だ、全然違うな!!」
「ええ、これならば腰も耐えられそうです」
サスペンションも作れそうだけど魔法で済むならそっちのほうが楽だしね。……ってなるほど、だから魔法ばかり使って、科学技術的なものは使わないんだなぁ……。
「一応、周りの大気中の魔力を吸い上げるようにしていますので、よほど変なところへ行かない限りは、魔石に補充しなくていいようにしてあります」
「うむ、考えてあるな」
城を一周して戻ってくると、王様の部屋へ通されて、馬車の値段の交渉に入った。ランドルフは色々支援してもらっているのでいらないと言ったが、値段をちゃんと言わなかったので、王様に適当に改修代金として金貨10枚ほど押し付けられた。なので簡単に量産できるようにと、鍛冶屋に頼んでいる製作中の焼きゴテを渡すことにした。ついでに家紋のナイフと指輪をもう一つ作る許可をもらう。指輪はだめだと言われた。
「そうそう、今度守護竜様を大々的に迎えるからそのつもりで」
「えっ?」
「国全体に触れを出して王都で御出迎えする」
「はぁ?」
「お前が迎えに行って、守護竜様の背に乗って現れるのだ」
「えっ?えっー!!!」
守護竜の加護を受けし者として宣伝するそうだ。ランドルフはものすごく目立つことになりそうだ。
妬まれたりしなければいいけど……。ヘイトコントロールお願いしますよ?
お時間いただきありがとうございます。




