194話 アプスの情報収集
前回のお話:スゥープレティが突然見知らぬ男に壁ドンした。
スゥープレティから旧王国跡地を離れるのは早い方がいいという報告を聞いて、ランドルフは船長に事情を説明して船の修理を手伝った。
鉄でできた部分を魔力を使って無理矢理接合し、廃材や使ってない鉄から不純物を取り除いて再利用したり、高所での作業は指示を貰いながら一緒に船員と補修作業にあたった。
それらが終わるともう一度点検をして、そこで問題点が見つかると再び修理にあたる。
そんなことを繰り返して二日経ち、ようやく出発の目途がたった。
「ちゃんとした設備があれば直ぐに済んだんだがなぁ。坊主が船を丸ごと浮かしてくれたおかげで船底の修理を完璧にできて助かったぜ」
船長のザンテはランドルフの修理の腕前に感心しているようだ。
「そう言っていただけると手伝った甲斐がありました。それよりもさっさとここを出発しましょう。部下の報告も気になりますし、ずっと監視を監視して放置してましたからね」
「そうだな。最終点検をしたらすぐに出る」
自らも点検に向かう船長の背中を見送り、ランドルフも船の外にいるランクイロたちに念話で撤収を呼び掛けた。
アプスはこの二日間スゥープレティが得た情報の裏付けをとり、同時に他にも何か情報をと調査していた。
「ただいま戻りました」
「お帰り。随分と長く調べてたんだな」
「あぁ~、旦那様っ! この二日ほど旦那様にお会いできなくて寂しかったです~」
「やめぃ!」
人の目のある船の甲板で抱き着こうとしてくるアプスからサッと身をかわすランドルフ。
「さっさと報告してくれ」
「旦那様のいけず~」
寂しく悔しく身をよじらせていたアプスだが、ランドルフに再び急かされると身を正して真面目に報告をし始めた。
あの日、スゥープレティが接触した男の後を付けて様子を観察していると、強面の男たちと何やら話し合っていて、どうやら男は定期的に貧民街の様子を報告していたようだった。
そこでの話にスゥープレティの話は出てこなかったが、急な話が舞い込んできたようだった。
「どうやら教国組織から極秘に人が派遣されてくるので必要以上に接触はするなという話でした。しばらく様子を見ていると、やってきた男たちに貧民街の地図を見せて色々説明していたようですが……」
と、アプスが教えてくれた。
さらにその時の地図を盗み見て醸造所があることを見つけたらしい。
気になって調べると、貧民街の支配者たちは密造酒を作って本国に流しているらしいとの情報を手に入れていた。
「説明していた内容は大したことはなかったのですが、私が気になったので実際に醸造している現場に忍び込んで調べてきました」
と胸を張って誇らしげにランドルフにアピールしていた。
ランドルフはそれを見て大丈夫だったのかと心配すると同時に、スゥープレティとは似た者同士かもしれないと苦笑していたとか。
どうやらそのお酒は元々牛たち家畜が食べるイネ科の草を原料にして造ったお酒のようで、強い癖のある香りが醸造所内に漂っていたらしい。
「流石は畜産業が盛んな国。お酒の原料にまで畜産に関係する物を使用するとは」
と、ランドルフが産業の事に感心していたのを見て今度はアプスが苦笑していた。
他にも、この貧民街に住んでいる人たちのルーツは元々旧王国時代の者たちの子孫が多いらしい。
「島の西側にもあそこと同じような街があります。そちらには旧王国時代の貴族の子孫が多いらしいとの事です」
「ハムシンカム教国に住んでる人はほとんど旧王国時代の子孫だろう?」
「解放民と旧市民を意識して分けているらしいですね」
「自由になった自分たちは王国時代の奴らとは違うってか? んで、西側は没落貴族、東側のこっちは一般人の二つ街があるって事か。今となっては滅んだ貴族だのなんだのと意味がないと思うけど」
「私もそう思いますが、ここの住人たちの意識ではそう思っている者が多いみたいですね」
「それはなぜなのか、ってのは調査したいところだけど今は関係ないかな。他には?」
海底を浚って調査している船についても実際に見て確認がとれたが、何故その様な事をしているかまではわからなかったらしい。
一応、時間を貰い支配者たちのアジトに侵入すれば情報は得られるだろうとアプスは言ったが、ランドルフはそれよりもこの島から出ることを優先したいので気にはなるがやめさせた。
アプス自身も余計な危険は避ける為に命令なく警備の多いアジトへの侵入は遠慮していたが、色々と調べているうちに貧民街のある程度の土地鑑は身につけることができたらしい。
「教皇選定とかの話は首都に着けば簡単に耳に入るかもしれない。またその辺も港に着いたら調査してくれ」
「はい」
「んで、全員戻ってきたかな?」
「確認してきます」
アプスがまずは船内を確認しに去っていった。
アプスと別れてランドルフが部屋に戻ると、カナンカとカレンがリバーシで遊んでいて、どうやらカナンカの方が丁度勝利を収めたところらしかった。
「どうじゃランドルフ! カレンには今のところ全勝じゃぞ!」
「マジで?」
ランドルフが信じられないという顔でカレンの方を見ると、どうもカレンの動きが硬くぎこちなかった。
そして縋るような目でランドルフの方を見つめてきた。
あ~、これはカナンカへの恐怖があるからまともに考えられなかったんだな~。
正面にカナンカがいるから、顔を見られたりしたらカレンなら無理だよな~。
すまん、カレン。二人きりにした俺の落ち度だ。
カレンにとっては地獄のような一時だったようだ。
「カレン、おいで」
ランドルフがそう言うと、トテトテと足早にやってきて勢いよくランドルフの足にしがみついた。
「おふっ、カナンカにいじめられたか。まったく、大人げないならカナンカは」
「何を言う。かなりいい勝負をしておったのじゃぞ。手加減などできぬ状態じゃったし、しては相手に失礼じゃ!」
「せやな……」
こんなガチガチなカレン相手にいい勝負って、お前……。
カナンカのあまりの弱さをランドルフは憐れんだ。
「皆が戻ってきたら出発する予定だ。カレン、港に着いたらランクイロ達と一緒に行動してと頼んでいるけど、申し訳ないが今の幼い姿じゃなくて成人した姿にはなれないかな?」
「できます」
頼んでみると、足から離れたカレンの背が徐々に伸び始めて体つきもふっくらしたものに変わっていった。
青白い髪も若干伸びて服までもが体に合わせたメイド服に変わり、無表情ながらも元の姿をベースにした完璧な美少女が出来上がっていた。
「これで、いいですか?」
「自分が成長するであろうという姿にも変身できるんだな。う~む、いつ見ても変身する様子は凄いねぇ」
「この姿が、いいなら、夜伽によんで、くだされば? この姿で……」
「いや、いいから! 魅力的な提案だけど遠慮しておくよ」
「そう、ですか」
無表情ながらも下を向くカレンの姿が少し寂しさを感じさせた。
「ランドルフはそんなことを頼んでおったのか? アプスがなんというか……」
「頼んだことなんてないっての! 一度もないからな! 変な誤解はするなっ!」
「クックック、いつも一緒に寝ておるのじゃからわかっておる、冗談じゃ。普段の仕返しじゃな。クックック」
「かなり洒落にならない冗談だな……。カレンが必死に訴えれば俺の敗訴は決定的だ……」
「しかし、それほど必死に否定するとは、おぬし我らの知らぬところで本当に?」
「ないからっ!」
「必死じゃの。クックック」
悔しそうな表情でこれ以上揶揄われてはたまらないと話題を逸らす。
「あぁ~、カナンカは放っておいて、髪の毛の色をもうちょっと地味にできないかな」
ランドルフの言葉を聞いてカレンは無言で髪の色を亜麻色に変えた。
「それならあまり目立たないだろう。まぁ、美人顔もどうにかできれば一番いいんだけど。地味な感じにできない?」
美人と言われたカレンが少し微笑んだ気がした。
「顔をクニャータさん達の誰かと、同じにすれば、いけます」
「それって三人の顔が地味だって言ってるのと同じだよね?」
「……」
知ってか知らずか、さらりと毒を吐くカレン。
ブルグロットやアプス達にも変身できるが、彼女たちは美人寄りなので目立つ可能性がある。
「まぁ、万が一もあるから身内の顔はやめておこう。他に顔を変えられたりしない?」
「試料が、ないです」
「そっか~。サンプルがあるのは身内の者ばかりか」
カレンはこくりと首を縦に振った。
「流石に若夫婦のメイドが幼児じゃ変な見てくる人も多いと思うし、いくら幼児といっても若い二人の子供という設定も変だろうからそれよりはましかな? しょうがない、そのままでいこう。元の姿に戻っていいよ」
返事をせずにカレンはすぐに元の幼女の姿に戻った。
すると再びランドルフの足にしがみついて勝手に魔力を吸い取ってゆく。
「魔力補給……。んっ、美味しい。はぁっ……はぁんっ、っ食べ物とは違ったっ、幸福感がぁ~……」
カレンの無表情な顔が蕩ける様なだらしない顔に変わってゆく。
「なんだかいけないことをしている様に見えてしまうな……」
「やはりおぬし……」
「ねぇからっ!」
その後もアプス達が戻ってくるまでここぞとばかりに散々カナンカにからかわれたランドルフだった。
準備が整ったので早速船を出航させた。
ランドルフが船を沖合まで押し出し、海流に逆らってそのまま船を移動させる。
「はっはっは、これじゃ帆を張る必要はねぇな! やるじゃねぇか!」
と、言われてランドルフは船長にバシバシと背中を叩かれていた。
しばらく行くと、海流から離脱して本来の目的地の港まで数時間でたどり着くことができた。
「やっぱり暑いなぁ~。夕方前でこの暑さか」
難破してた時にも思ったが、日差しがかなり強くて何もせずに立ってるだけで汗が噴き出てくるな。
「見事に竜人種ばかりですね」
「人族や獣人もいますけど、やっぱり角や尻尾が目立つ竜人がいるとそちらに目が向いてしまいます」
「ふふ~ん。そうじゃろそうじゃろ」
「お前が偉そうにするのは何か違わないか?」
そんな話をしていると船が埠頭に着き、船との間に板が渡された。
「よし、じゃあ予定通りにランクイロ、スゥープレティ、カレン、ハーディさんで組んでください。残りは俺と一緒に行動を」
「「はい」」
「カナンカは布を頭に巻いてくれ。存在感を薄くする胸飾りも忘れるなよ」
「わかった」
アプスとウィステリアも顔を覆うように布を被る。
カレンも先ほどランドルフに指示された成人姿になり、頭にはホワイトブリムを被り髪を束ねた。
ランドルフも布をターバンのように頭に巻き付けた。
「じゃあ、まずはお互いに別々に宿をとろう。連絡の取り合いはそっちはカレンかハーディさんを使いに、こっちはウィステリアかアプスを使いに出す。そこを拠点にして情報収集だ」
「「わかりました」」
「ランクイロ、頼んだぞ」
「へまはしないように」
「うっ、何とかやり遂げてみせます」
「早速硬くなってますよ隊長! じゃなくて、あなた。ほらほら、もっと自然に自然にっ!」
スゥープレティがランクイロの腕に絡みついて体重を預けるように横に立った。
「私も上手く補佐しますよ。気を楽にしていきましょう」
「……」
ハーディもランクイロの緊張をほぐすために声をかけたが、カレンだけは無言だった。
大丈夫かなと思いつつもランドルフは船長たちの方へと振り向く。
「船長、ありがとうございました」
「ちょっと問題もあったが、無事に送り届けることができて良かったぜ。帰りこそは遭難しないようにきっちりと送ってやるからな。がんばれよ!」
船長、それあかんやつやん……。何故みんなそうやってフラグを立てるようなことを言うのか。
そもそもフラグが立つという考え方がないからである。
それはさておき、ランクイロをリーダーとしたグループと別れて早速ウィステリアが先に宿の手配に向かった。
ランクイロ達の方もハーディが宿の手配に向かったようだ。
これで同じ宿に泊まる事はないかな。
そう思いながら露店がずらりと並ぶ港を適当にうろつく。
「結構見たことの無い肉が並んでるもんだな。ラダの肉? ラダってなんだ? ラマの親戚か?」
「お兄さん、ラダの肉を知らなって他所から来たのかい?」
「ええ、今さっき船でやってきたところです」
露店のオヤジが声をかけてきた。
「そうか、わざわざご苦労様。ラダってのは首が長くて体が羊のように毛が生えてる生き物さ。大人しくて荷物持ちにも使える動物なんだが、歯ごたえがあって美味しいよ」
「まんまラマじゃん。怒ったら唾を吐いてきたりするの?」
「唾は吐くが、怒ったら唾吐くどころの話じゃないよ。当たったら石でもぶつけられたみたいに痛いからねぇ」
「へ、へぇ~……」
「怒らせたら怖いんですね」
「一つどうだい? 美人な奥さんも気になってるみたいだし、隣で焼いてるからすぐに食べれるよ」
「三つ下さいっ!」
「おい……」
ランドルフが何か言う前にアプスが露店のオヤジの言葉に乗せられてすぐに注文してしまった。
「まいどありっ!」
オヤジも上手く客がかかったといい笑顔で肉を用意し始めた。
焼いてもらったラダの肉は確かに美味しくコリコリとした食感もあって味だけでなく食べ応えもあった。
「美味しかったですね」
「確かにな~。あの歯ごたえは癖になりそう」
「こんなものを食べてしまうと酒が欲しくなるな。どうじゃ? 情報を集めるには酒場じゃと決まっておろう?」
「まともなことを言っている様に聞こえるけど、約束を忘れてないだろうな」
「大丈夫じゃ、飲みすぎるような事はせんよ」
「その言葉を信じて散々裏切られてるけどな」
「こ、今回は大丈夫じゃ!」
「「……」」
二人の視線がカナンカに突き刺さったが、この国の雰囲気や様子に知るためにというカナンカの強硬な姿勢に釣られて酒場へと連れられてしまった。
「何故これほどスムーズに酒場へと辿り着けるのか」
「不思議ですね……」
「我を誰だと思っておる。目に入った酒場の看板はしっかりと確かめておるぞ」
「「はぁ……」」
中へ入ると夕方前だというのにも関わらずガヤガヤと賑わっていた。
テーブルに座ると竜人種の女性が注文を聞いてきたのでエール一つと果実水を二つ、それとつまめるものを注文した。
「ランドルフはともかくアプスは飲まぬのか?」
「旦那様をお守りするという使命がありますので」
「せっかくじゃから飲めばよいものを、勿体ない」
「ゆっくりと落ち着けるところでならほどほどに付き合いますよ」
「うむ、それでよい。その時には一緒に呑もうぞ」
話をしつつ店の様子を観察する。
人族が2割、獣人が2割、残りは竜人ってところか。
ハムシンカム教っぽい人も飲んでるけど大丈夫なのか? ってかよく見たら、ほとんど人はみんなハムシンカム教のシンボルが描かれたものを身に着けているな。
身に着けてない人もいるけど、約8割がハムシンカム教と一発でわかるな。
話しに付き合いつつ考え込んでいると、注文した飲み物とつまみがやってきた。
「う~む、苦みがきいて味は良いのじゃがぬるいな」
「こっちもぬるいです。うちとは違いますね」
「喉越しが物足りぬが、こういうものだと思って味わうとするかの」
渋い顔をしたカナンカの評価はいま一つのようだ。
「冷蔵する魔道具がないって事はなさそうだけど、一般の店が買えるほどの値段じゃないのかな? それとも発想がないのか?」
「それはないと思いますけど」
「となると魔石の問題かな? 魔道具店も見て回るか。店を見て文明度合いを吟味しよう。宮殿の下見には必要なことだ」
宮殿に忍び込んだとしても、もし赤外線探知のような監視する魔道具があればバレるかもしれないとランドルフは考えていた。
そんな話をしていると、突然男が勢いよく扉を開けて叫んだ。
「おい! 今日もまた怪盗が出たってよ! 腐ったお上の家から盗んだそうだ!」
すると、酒場のボルテージが一気に最高潮に達した。
お読みくださいましてありがとうございます!




