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第三.七話:満月を見ている(完結編)

はぁっはっはっはっは!今回は速かったぞぉ!…ストーリーには触れないぞぉ!…ところで、今回一部の趣味の方に喧嘩売ってるかもしれません。ごめんなさい。それではお楽しみください。

そんなわけでアタシは今城の中にいる。

どんなわけでだぁ?前話を読め

ってそうじゃなくて、調査のためにメイドとして潜り込んだんだ。

頭領のコネでガルザ付きのメイドにしてもらえたんだが…

「…メイドって忙しい仕事なんだなぁ。」

とにかくキツイ。アタシはアサッシンだぞ、鍛えぬかれた体だぞ…

なんで半日の仕事でぐったりしなきゃぁいけないんだ!?

「大丈夫?お昼ご飯ちゃんと食べなきゃ午後の仕事もたないよ?」

声をかけてきたのは、アタシとコンビを組むことになったキャットという娘だ。

彼女は城にメイドとして潜り込ませてある上級アサッシンだ。

何度か、ギルドに来ている時に話をしたことがある。

その時はアサッシンらしくない筋肉だな、と思ったがその理由が分かった。こんな仕事続けてりゃぁ筋肉もつく。

ここのメイドたちには腕相撲など、純粋に力を競っても勝てる気がまるでしない。

「あぁ、平気。ただ今日は調査無理かも…」

「あはは、分かる分かる、私なんか最初の内は仕事のこと忘れちゃった程だよ。その辺さすが特級だね。仕事のことは忘れないって?」

あぁ…馬鹿にしてるーるるー。特級の威厳がー。これではいけない、いけない!

「うぐ、大丈夫、仕事やる。」

「…ホントに大丈夫?」


エイヤーッ!

ツェアーッ!

ドリャーッ!

仕事仕事仕事ーっ!

…ふ、

「ポティ、僕を迎えに来てくれたんだね。」

ポティはアタシが子供のころ飼ってた犬だ。

訓練で疲れて動けないときよく背中に乗っけて運んでくれたなぁ。

「ねぇ・・・ホントに大丈夫?」

…はっ、いかんいかん、仕事仕事…なんかキャットが凄く心配そうに見てる気がするけど仕事仕事…


んー、と…ガルザ将軍の部屋は…と。

「ここか、…うし。」

…調査の方法は大体三つ。周囲の人間に話を聞く聞き込み、風車の人とか薬売りの人とかがやるストーキング、んでもってこれからアタシがやろうとしてる、接触。

これは、その名の通り直接ターゲットと話をしてそいつの人柄を読むことだ。

接触は上級以上の人間のうちテストを受けて合格した人間だけに許される方法だ。うちのギルドには全部で十五人の合格者がいる。ちなみにキャットは筆記で落ちたらしい…

さ、仕事仕事。

「失礼しまーす。お酒持ってきましたー。」

これはメイドの仕事。…にしてもこれは…

アタシが右手に持ってる酒、『ブラッキーエーデルワイス』なんつー渋いチョイスだよ…

まぁいいや、アタシの酒じゃないんだから、関係ない。関係ないとも。関係ないんだよ。

「…将軍?…お酒持ってきましたけど?」

…返事がない、ってことはこの酒はアタシのもの?…んなわきゃない。

部屋の中は明かりがついていなくて暗い。わずかに月明かりが入っているが今日は半月だ大したものではない。

…いた。

男はベランダに立っていた。右手を天に翳し、まっすぐと何かを見つめている。

「何を…してるんですか?」

「満月を…見ている。」


…何を言っているんだこの男は。まず感じたのがそれだった。…と、こちらが何か言う前に向こうがこっちを向いた。

「何を言ってるんだこの男は…ってところか?」

「…!!」

この男…ただ戦場で手柄を立てただけではないらしい。

「まぁ、気にするな。誰が聞いても『はぁ?』ってぇ顔をする。」

「あの…」

「まぁ、ちょっと来てみな。」

そう言って手招きする。拒否すれば怪しまれるかもしれないので素人っぽく近寄る。

「ほれ、こうするとな…」

アタシを腕の中に抱きながら半月の月のない部分を隠す。

「ほら満月。」

(この男は…)

子供のような理屈だが、なぜか悪い気がしない。

ぼんやりしているといつの間にか男はアタシから少し離れたところに立っていた。そしてこちらに手を翳す。

「君は悲しみが多いな。」

「…っ!」

「しかし喜びがないわけではない。その喜びで悲しみを必死に覆い隠そうとしている。」

アタシは何も言えなかった。

…アタシは捨て子だった。生まれた直後に捨てられた。あと30分拾われるのが遅ければ死んでいたらしい。拾ってくれたのはもちろん頭領だ。親の記憶なんてないから悲しくなどない、と思っていた、というより思い込んでいた、が正しいようだ。

アタシの性格は明るいとよく言われるが、それもどうやら無意識のうちに自我の防衛に努めた結果らしい。

「あ、」

男は突然うろたえるような表情になった。少しこちらに近づこうとして止める。

「…?…っ!」

顔に手を当てて理由が分かった。

…アタシはいつの間にか涙を流していた。

「あー、なんだ、俺は君の悲しみがどれほどのものかは知らない。だから何も言ってやれないが、話してみるか?それだけでも楽になるものだ…素面では話せないと言うのなら、ほれ君の右手にちょうどいいものがある。」

とりあえず真っ白な頭で(この男は悪人ではない)そんなことを考えたりした。


その後の記憶は曖昧で思い出せない。泣いた気もするし、喚いた気もする。もったいないことに、『ブラッキーエーデルワイス』の味も思い出せない。それよりも目の前にひとつの現実がある。

「あーその、だな。」

「はい…」

「いや、自分がふがいなかったのが全て悪いんだが…」

「いえ、そんな…」

「なんと言うかなりゆきで…いや言い訳をする気はないんだが…」

「はぁ…」

…朝起きたらガルザ・J・グレイ将軍のベッドの上だった。…メイドの制服が床に散らばっているのはなぜだろう?

「とにかくスマン!いやホント!」

メイドがベッドの上で呆然としていて、一国のナンバー2が床で土下座している…なんとなく凄い構図だな…とか考えているといきなり扉が開いた。

「おはようございます、昨夜伺ったメイドが帰らないのですが、何か…ブホゥッ」

入ってきたのはキャットだった。

「あ…あぁ…キ、キャ、モゴフッ!」

すばらしい連携だった。ガルザがキャットの口を塞いで部屋に引き入れ、アタシが扉を閉め鍵をかけた。


「…どうしよう…」

「てかマリア、あんた今ヤバイんじゃぁなかった?」

「…う。」

「アタリだったらどうすんの!?冗談抜きで。」

「だーっ!」

いきなり将軍が吼えた。

「うだうだ考えるのは性に合わない!君はマリアといったな!?」

「え、え?はい?」

何がなにやらわからずただうなずくしかできない。

「ではマリア、今日から君の名はマリア・グレイだ!」

「え?…ええ?」

キャットが変な顔をした。

(マリア…グレイ…?)

「「うえぇぇぇぇぇぇ!?」」

衛兵が飛んでくる位大きい叫び声だった。

・・・・・・・・・・・●

「そんなこんなで今に到って、そのときのがミーナなの。」

「「……。」」

「あの時は頭の中真っ白だったけど、今思い出すとすごい事だよねぇ。その日来たばかりのメイドと結婚。飛んできた衛兵にいきなり宣言して…とにかく色々すごかったなぁ…」

瑞祥君がハッと我に帰ったみたいに姿勢を正して聞いてきた。

「反対とかされませんでした?」

「そりゃぁもう、まぁその辺は…ほらアタシ特級だから。」

「「……。」」

あらら、また黙っちゃった。…ん?なんか言葉が…まぁいいか。

「そういえば、あの人の暗殺依頼がきた理由…なんだと思う?これがまたおもしろいのなんの。」

そう、今思い出しても笑える。

「パーティで馬鹿なことやってた、その依頼主をぶん殴って『死ぬか?』とか言ったんだってさ。」

それでその馬鹿は完全に震え上がって、依頼を出したんだそうな。当然この依頼は受理されなかった。

「…さて、と、二人は真っ白だし、そろそろ愛しの旦那様を迎えに行くとしますか。」

居場所は大体分かってるし…ね。


家から五分位のところにある空き地に一人の男が立っていた。右手を天に翳し、まっすぐと何かを見つめている。

…ったく、恥ずかしいのなんの言いながら、この男は…結局こういうのが好きなのだ。

「何を…してるんですか?」

「満月を…見ている。」


明日、私たちは魔王討伐の旅に出る。

しかし、一片の恐怖もない。

アタシが『マリアの冷笑み』だからではない。

この人が、神に選ばれた勇者だからでもない。

私が、この人の横で温笑みを浮かべることのできるただ一人の、世界一幸福な女だからだ。

いかがでしたか?…私は疲れました…ところで、作中のメイドに関する記述について…どうでしょう?メイドの仕事は間違いなくハードなはず、となれば、それなりに体は鍛えられているのではないでしょうか?そんな疑問を匿名なのをいいことに世間にぶつけてみました。反論、賛同、なんでもメッセージに書き込んで下さったら幸いです。

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