プロローグ 誰が生き物を設計したのか
週末の、家族ドライブだった。
後部座席で意味もなくはしゃいでいた、ごく普通の少年。それが僕だった。
その運命を変えたのは、博物館の吹き抜けで見上げた、巨大なティラノサウルスの骨格標本だ。
高い天井から降りそそぐ照明に、白く乾いた骨が浮かび上がっている。
肋骨の一本一本。尾椎の整然とした連なり。噛み合わせを計算し尽くしたような顎の構造。
それは、精密な機械のように美しい石の列だった。
不思議なことに、あの日の記憶だけは、今でも異常に鮮明だ。
照明の角度も、床に落ちていた骨の影の形も、たった今この瞬間に見ているもののように取り出せる。
ただ「かっこいい」と目を輝かせる僕を、両親は微笑ましく見守っていた。
「ねえ。生き物って、誰が設計したの?」
帰りの車の中で放った疑問に、両親は顔を見合わせて笑った。
「神様かな」
でも僕は、どうしてもそのふんわりした答えに納得できなかった。
神様が設計したというのなら、設計図はどこにあるのだろう。それを描いたのは、いったい誰なのだろう。
物心つく前から砂場遊びが大好きだった僕は、自分の手で確かめたかったのだ。
泥だらけになって深く掘り進めれば、いつか必ず「本当の設計図」が見つかるはずだ。
生命の進化のパズルは、あまりにも綺麗すぎた。
偶然という一言で片づけるには、辻褄が合いすぎていた。
その執念だけが、僕を古生物学者へと駆り立てた。
そして大人になり、泥まみれで地層を掘る日々。
あの日の疑問が、数千万年の時を超えて『禁忌の扉』を開けることになるとは、思いもしなかった。
僕たちの起源となる、あの事実に辿り着くまでは。




