戦わずして滅ぶ悪と、闇から現れた謎の男
その夜――
ノクシア王国は、眠りというものを知らなかった。
貧民街の東地区、廃棄された倉庫の内部では、恐怖の息遣いが、朽ちかけた壁の湿気よりも重くのしかかっていた。子供密輸組織の一味が、緊張に満ちた輪を作って集まっており、震えるろうそくの灯りが彼らの顔に影を落としていた。
その中央に立っていたのは頭領――禿頭で、深い傷跡が顔に刻まれた巨漢の男だった。彼が鋼のような拳で木のテーブルを叩くと、杯が跳ね上がり、辺り一帯に冷たい震えが走った。
「ただの下劣な噂だ!」彼はしゃがれた声で怒鳴った。「臆病者どもめ! お前らの中に、たった一人の人間が――路上で作られたただの伝説が、俺たち全員をこの世から消し去れると本気で信じている奴がいるのか!?」
一人の部下が苦しげに唾を飲み込み、震える両手を擦り合わせながら一歩後ずさった。
「か……頭領……昨夜の見張りの三人が、跡形もなく消えました!」
頭領は恐怖を追い払うように鋭く目を剥き、眉をひそめた。
「逃げたんだろう! 金を盗んで逃げただけの話だ!」
「いいえ、頭領……」別の男が、恐怖に満ちた声で答えた。「逃げたのではありません……奴らのぼろ布が地面に落ちていて、そこには……焦げた雷の痕と、青い煙が漂っていたのです!」
完全な沈黙が場を支配した。
杯を持つ手が止まり、五十人を超える傭兵たちが、怯えた視線を交わし合った。毒のような囁きが、唇の間から漏れ出した。
「……あいつだ……見えざる支配者だ……」
「全員黙れ!」頭領は血走った目で叫んだ。首筋の血管が蛇のように浮き上がっていた。
だが……その怒声とは裏腹に、剣の柄にかけた手の震えが真実を物語っていた……彼自身、自分が売ろうとしている勇気という名の嘘を、信じられずにいたのだ。
首都の反対側、そびえ立つ建物の屋上の上――
僕は影の彫像のように堂々と立っていた。黒いコートが夜風に揺れ、白と黒の半々に分かれた仮面が、血のように赤い月光を映し出していた。
レイラはいつものように、静かに僕の後ろに控えていた。やがて彼女が囁いた。
「我が君……噂は野火のように広がり、ついに貴族街の端にまで届きました。」
僕は振り返らずに尋ねた。仮面の奥から、籠った低い声が漏れる。
「今この瞬間までに、何人の心がこの伝説を受け入れた?」
彼女は一瞬目を閉じ、現実という織物の重みを測るようにしてから、目を開いて自信に満ちた声で答えた。
「三百人以上……全員が今、見えざる支配者が夜の路地を彷徨い、子供売買人の命を刈り取っていると確信しております。」
仮面の下で、僕の口角が勝利の笑みに上がった。
「上出来だ……これで正式に、Bランクの領域に入ったな。」
そしてまさにその瞬間――
血管を巡る奇妙な火花のようなものを感じた。周囲のエーテルに響く、かすかな鼓動……まるで自然の法則、そして世界という織物そのものが、恭しく頭を垂れ、この嘘を虚偽の入り込む余地のない現実として、地ならしを始めたかのようだった!
要塞化された倉庫の内部――
一人の見張りが、槍を握る手を汗で濡らしながら、裏口にひとり立っていた。
カサッ……
外で、砂利を踏む軽い足音がした。彼は素早く振り返った。恐怖が顔を蝕んでいく。
「だ……誰だ!?」
返事はない。ただ、隙間を吹き抜ける風の音だけが響いた。
彼は唾を飲み込んだが、言葉は喉に張り付いたまま出てこなかった。そして、その朝聞いた噂が、稲妻のように頭の中で反響し始めた。
(「見えざる支配者は闇の中に現れる……子供に手を出す者には、雷を放つという……」)
彼の両手は震え、剣が空中で揺れた。
「違う……これは……ただの馬鹿げた噂だ……」
だが、恐怖に支配された彼の心は、すでに答えを出していた。彼はもう、この新しい真実を信じてしまっていたのだ!
見張りは槍を地面に投げ捨て、力の限り走り出した! それを見た二人目の見張りも同じ恐怖に飲み込まれ、悪魔でも見たかのように、彼もまた逃げ出した! そして三人目が走り、四人目が続いた……
そしてわずか数分のうちに、倉庫全体が大混乱と集団逃走の叙事詩と化した! 見張りたちは互いを踏みつけ合い、密輸業者たちは恐怖の叫びを上げながら、誰もが心の底から、自分より先に逃げた者は「見えざる支配者」の亡霊をこの目で見たに違いないと確信していた!
幻想の恐怖は、本物の混乱へと姿を変えた……そして混乱は、何の軍事行動も伴わないまま、揺るぎない現実となった!
僕は遠くからその混乱が爆発するのを見つめながら、笑みをさらに深めていった。
「人間とは……滑稽な生き物だ。自らの想像の中で自分を怯えさせる怪物を作り出し……そして、その怪物にみずからの命を捧げる。」
だが――
僕がちょうど立ち去ろうと踵を返しかけたとき――
レイラが不意に動きを止めた。体を、跳躍寸前の豹のように低く沈め、その素早い手が、青い火花を纏う剣の柄へと伸びた!
彼女の声は、刃のように鋭く響いた。
「我が君……誰かが……影の中から、私たちを見張っております。」
不意に、重苦しい沈黙が場を支配した。まるで夜そのものが、息を潜めているかのようだった。
向かいの屋上の影の中から――一人の長身の男が、確信に満ちた静かな足取りで歩み出てきた。ゆったりとした黒いローブを身に纏い、顔は冷たい金属の仮面で覆われている。その仮面には、目のための細い二つの穴だけが刻まれていた。
男は屋上の縁で立ち止まった。仮面の奥から、嘲りと絶対的な自信に満ちた声が響いた。
「そうか……」
「ついに、顔を合わせることになったな……」
「……見えざる支配者よ。」
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