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世界を書き換える嘘

「……そうか。これが、今までの人生で味わえなかった感覚か。」

指を動かした。

一本……そしてもう一本。

それから手を握りしめた。

開いた。

そしてまた閉じた。

数秒間、それをじっと見つめていた。まるで次の瞬間に消えてしまうのを恐れるように。

動かせる。

本当に……

動かせるんだ。

ゆっくりと腕を上げ、自分の顔に触れた。

温かい。

生きている。

これは現実だ。

そして、生まれて初めて――

自分の足で立った。

一歩。

そしてもう一歩。

膝が崩れそうになったが、笑ってしまった。

なぜ笑っているのか、自分でも分からなかった。

たぶん、嬉しかったから。

あるいは、泣きそうだったから。

「ハハ……」

もう一度、自分の手を見つめた。

何度、こうしたいと願っただろう。

何度、外を走り回る自分を想像しただろう。

そして何度、母に尋ねただろう。

「僕はいつか、他の子たちみたいに生きられる?」

母はいつも微笑んでこう答えた。

「もちろんよ。」

でも、部屋を出た後――

母の泣き声が聞こえていた。

前世の僕の名前は、みなとといった。

脊髄性筋萎縮症という、生まれつきの難病を抱えて生まれた。

走ることはできなかった。

立つこともできなかった。

母を自分の腕で抱きしめることさえ、遠い夢だった。

同い年の子供たちが学校に行き、遊び、旅行し、些細なことで喧嘩している間――

僕は、白い病室の中で生きていた。

だから、五歳のある日、母に尋ねた。

「お母さん……僕、大きくなったら動けるようになる?」

母は微笑んだ。

でも、その笑顔は――

目まで届いていなかった。

「うん、もちろんよ。」

僕はそれを信じた。

子供だったから。

でも、部屋を出た後、ドアの向こうから聞こえてきた。

くぐもった、母の泣き声が。

小さな手を、自分の胸に当てた。

どうすればいいのか、分からなかった。

その夜――

僕は初めて、生まれ変わりたいと願った。

別の人生。

別の身体。

別の世界。

何でもいい……

ただ、立てるように。

走れるように。

怒れるように。

戦えるように。

たとえその人生が問題だらけでも構わない。

ただ、普通の人生を生きたかった。

そして――

その願いは、思いもよらない形で叶った。

僕は死んだ。

そして――

生まれ変わった。

今度の名前は。

オリオン・ヴァレリウス。

由緒ある名門貴族の息子。

ヴァレリウス家。

百年前、竜王を討った五人の英雄の一人の血を引く血統。

なんて素晴らしい始まりだろう?

偉大な名前。

偉大な家門。

英雄の血統。

でも……僕自身はどうだ?

「魔力が、まったくない。」

……

そう。

一滴たりとも。

ヴァレリウス家のような家にとって、それは運命が下せる最も残酷な冗談のようなものだった。

僕は、一族の歴史上、最も無力な存在だった。

でも……

誰も知らない秘密があった。

僕自身すら――

何年も経つまで気づかなかった。

あの日、王室医師に自分の身体に魔力が一片もないと告げられたとき、僕は怒らなかった。

悲しみもしなかった。

むしろ、心の中で笑っていた。

なぜなら、無力に生まれるということの意味を、僕は知っていたから。

前世を経験した後――

その絶望は、僕にとって新しいものではなかった。

歩ける。

走れる。

澄んだ空気を吸える。

それだけで、僕にとっては奇跡だった。

だから……

僕は生きることを決めた。

たとえ、この世界で最も弱い者として生きることになっても。

でも……

この世界は、弱者に容赦しなかった。

そしてヴァレリウス家において――

魔力がないことは、単なる欠点ではなかった。

それは、恥辱そのものだった。

使用人たちの視線が変わり始めた。

騎士たちは、僕のそばを通るとき目をそらすようになった。

貴族の子供たちにとっては――

僕は格好の遊び道具になった。

「見ろよ……ヴァレリウスの跡継ぎ、無魔力だってさ。」

「平民の子供のほうが、まだ魔力を持ってるんじゃないか。」

「公爵の息子じゃなかったら、とっくに通りに捨てられてるだろうな。」

全部、聞こえていた。

でも、言い返さなかった。

前世で学んだことがあったから。

戦う価値のない戦いがある。

そして――

ただ、時が来るのを待てばいい戦いもある。

だから……

僕はただ、微笑んだ。

誰も知らなかった。

運命が、この世界がまだ見たことのない力を、僕のために用意していたことを。

魔力に頼らない力。

魔法にも。

高貴な血にも頼らない。

もっと危険な、何かに頼る力。

言葉。

嘘は――

それを信じる人間が十分な数いれば、真実になる。

そして、それに気づいた瞬間から――

世界そのものが、変わり始めた。

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