表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リサのゆるふわ学園生活   作者: 武内ゆり
第二章 プライドお嬢様の鬱憤
19/19

2-11

 リサの心が晴れたきっかけは、聖堂で夕べの祈りをした後に、

「どうしたの?」

と若いシスターに声をかけられたことだった。ステンドグラスが美しく輝き、修道服のシルエットを神々しく照らし出している。

「あ、アイラム先生」

リサは俯いていた顔を上げた。その声にあまり元気はない。


「教師じゃないんだし、先生なんて呼ばなくってもいいよ」

アイラムは柔和な笑顔を讃えていた。その雰囲気が、どこかノーヴさんに似ている気がして、リサはじっと見た。

 アイラムはここの学園の卒業生で、卒業直後、シスターの道を志し、この聖堂で祈りを捧げる生活をしている。慎ましく暮らしているが、本来は明るくて社交的な性格だから、親しみやすく、生徒にも何かと人気がある。

 リサも、この人なら相談してもいいかもと思った。


「あの、……」

と言いかけて、喉元で言葉がつっかえてしまう。話したいことはたくさんあるのに、何から話したらいいのか分からなくて、リサは戸惑った。それに、人目も気になった。

「えっと……」

「向こうで話す? よし、そうしよっか」

アイラムは誘って、懇談室にリサを連れていく。入ったことのない部屋に初めて入って、リサは非日常を感じた。


「これは内緒ね」

と人差し指を口に当てながら、クッキーの入った瓶を開けて、ハンカチの上に広げる。

「でも、晩御飯が……」

「お菓子は別腹、でしょ?」

アイラムは親しげにウインクする。

 そう言われると、食べてもいいような気がしてきて、リサはクッキーに手を伸ばす。

「おいしい」

素朴な甘さが口に広がる。食べた途端に視界が明るくなっていくのを感じて、もしかしたらエネルギー不足だったのかもしれないと今になって気づいた。お腹が空いたら、力が出ないものだ。


「どんどん食べちゃえ」

いろんな人に餌付けされている気がするが、それは、リサがおいしそうに食べるからかもしれない。食を愛する者は食に愛されるのだろう。リサがほっぺたが落ちそうな様子で顔をとろけさせていると、さらなるクッキーが与えられた。まさに、「求めよ、さらば与えられん」の世界が実現していた。


 アイラムは、

「美味しそうに食べてくれるの、ほんと嬉しいんだよね」

などと言いながら、もう一度、

「最近調子どう?」

と尋ねる。

リサはホームシックになったことや、友達関係がうまくいかないこと、寂しい思いが止まらないことを話した。話すうちに感情が溢れてきて、泣いてしまったが、アイラムは親身になって聞いてくれたので、全部打ち明けることができた。憂鬱な時、誰かが共感してくれると、もやもやしていた心が晴れることが女の子には多いものだ。リサも話していくうちに、心が軽くなっていくのを感じていた。


「今日もアリーチェちゃんに渡しものがあったんですけど、会えるかなって期待しちゃったんです。でも、いなくて、なんだかしょんぼりしちゃって、あたしって、ついいろんなことに期待しすぎちゃうのかな。部屋に帰って、それをレレちゃんに行ったら、『期待できるだけ幸せなことですよ』って言われて、なんだか傷ついちゃって。それであたし、自分のこと、嫌になっちゃったんです……」

「そっかー。そうだよね、本当は仲良くしたいのに、仲良くできなかったら辛いよね、わかるわーそれ」

「あたし、どうすればいいんでしょう」

リサは本心から困っていた。


「リサっちはさ、素直なところが、めっちゃいいとこだよね」

「あたしが……?」

「そうだよ! だって、素直になれなかったら、なかなか人に相談したくてもできないよ? 話してくれて、ありがと」

アイラムに指摘されて、リサはきょとんと首を傾げた。自分が素直だとは思えなかった。

(素直なのは、アイラムさんの方じゃないのかな)

褒められるとくすぐったい気持ちになる。


アイラムは優しく笑いかけながら話を続けた。

「人生の中でね、自分と強く関わってくる人ってさ、絶対なんか深い縁があるの。お互い好きになったり、嫌いになったりすることもあるけどさ、そういう人って、どうしても気にしちゃうでしょ? 絶対何かを教えてくれてるんだよ。『私ってどういう人なんだろ』『あなたってどんな人なんだろう』って。


 だから、誰かに出会えるってことが奇跡だと思わない? 世界で何千何万っている中で、その人に会えたって、本当はすごいことだと思うの。だからさ、どんなに人間関係がうまくいかなかったとしてもね、『あなたに会えてよかった』って、感謝することはできると思うの。それで、本気でさ、そう思ったら、不思議と相手に伝わっているんだよねえ、これが」

「そうなの?」


不思議な話だった。感謝なんて考えたことなかった。ましてや、うまく行っていないのに、「ありがとう」って感謝するなんて、ヘンな話だ。

 でも、確かに人との出会いって、奇跡みたいなものかもしれない。

 (あたしがここにこなかったら、アリーチェにも、セルビアちゃんにも、先生にも、レレちゃんにも……出会えていないんだ)

そう思うと、ここに来れてよかったかも、と思えた。ここにいる意味が、小さいかもしれないけれど、見つかった気がした。


「アイラムさん……」

リサの青い瞳に、光が灯った。

「ありがとうございます!」

パアッと笑顔が生まれる。


(アイラムさんに会えてよかった!)

心の底から思った。どうしてこんなにいつも明るく生きられるんだろう。それは明るく生きるという選択を、いつも選んでいるからなのだろうか。


「全然、全然っ、私、なんもしてないから」

「そんなことないです!」

「ホント? あはは、ありがとう。リサったらもう、かわいいなあ、食べちゃいたいくらい」

と冗談半分でアイラムはいった。リサは真に受けて、

「食べないでくださいー!」

「え? だって、目に入れても痛くないっていうじゃん」

目に入れるのと食べちゃうのは、結構違う気がする。が、とりあえず可愛いものは体内に吸収したい派らしい。


「それじゃあ夕食の時間だね」

いつの間にか1時間くらい話し込んでいたらしい。時刻を告げる鐘が鳴って、

(もうこんな時間)

リサはびっくりした。アイラムは別れ際に、

「相談してくれてありがとね。また何かあったら、遠慮なく言ってよ?」

と言ってくれた。アイラムさん、本当にいい先輩だとリサは思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ